162 絶望と後悔と懺悔と
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[零瑠との間にできた、僅かな空白の時間。
――音が、止んだ。
視線だけで振り向いた先、ジャニスに迫る金色の影を見れば
咄嗟に右の苗刀を投げつける。
狙いも何もないそれは、ただの足掻き。
故に当たることはないだろう。
…上手く動かぬこの身。
今は、ジャニスだけが”希望”だから。
希望を繋ぐこと。彼女を生かすこと。
それが今の、自分の役目だから――]
[零瑠から視線を外し、武器を投げたのは一瞬のこと。
されど始祖の血を受けた吸血鬼には十分すぎる時間。
再び蹴上げた左の苗刀を慌てて右の手に納めるも、
――間に合わない。
そのまま懐に入られれば、刀は零瑠の肩口に埋まって動きを止め、]
………。
[刹那。何故か浮かぶのは、笑みだった。
左胸に突き刺さる終焉の音を、静かに聴く。
目の前は零瑠の左肩に塞がれて、ただ、
――嗚呼、大きくなったな、と。
それでも今一度、
あの日の彼にしたように、ぎゅっと抱き留めてやろう。]
[…しかし伸ばした左腕が零瑠の身体に回されることはなく。
力いっぱい引き抜かれた刃。
想いを絶たれた白装束に、慟哭の如く緋色が散る。
結局。何一つ、叶えることはできなかった。
自分の中に、明確な答えも見出せぬまま。
…去来する想いは何であろう。
――絶望?後悔?…それとも懺悔?]
[……あぁ、だとしても。
最期に浮かべるのは、笑みでありたい。]
[零瑠に向かって、紡ぎかけた言葉は音にならず。
抱きしめようと上げていた腕は、僅かに彼の頭を掠め、
…揺らり融けゆく意識の逝く先は、
空の宵闇か、黄泉の昏冥か――]**
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―踏むは鬼か人か―
[地に着いたジャニスの、三日月斧の柄を握る右の手首に零瑠は踵を乗せて踏みつける。その足首を摑んだのは彼女の左手。]
こ、の、……ばか、ぢからっ!
[見上げてくる視線の内、紅が潜んで居るのか、主に似た―――そして、何故か懐かしい色を見付けてしまった。]
お、母、さ……
[口に出た言葉に驚き目を張るが、 刃が肉を断つ感触にすぐに我に返る。
――似ているだけだ。
鬱金の光、濃い闇、焦がれる熱、凍てつく冷。眼差しひとつに胸が鳴り、名を呼ぶ声に耳が鳴り。]
(148) 2014/02/20(Thu) 20時頃
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[もう最後の記憶も過去の思い出と溶け合った頃
紅い意識が入り混じった、人だったものが目を覚ます。
今すぐにわかることといえば、自分はなぜか屍累々としたこの場にいるというだけだ]
……?なんだ、これ。
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ジャニスさんのことは、お姉さんだと……思っていたのに。
[言い直す。]
ねぇ。 本当にヒトではなくなってしまったのじゃあないの?
それでも、ジャニスさんでは…… あの方を越えることなんて、出来やしない。
[後ろに下がった主の、好機を探す。 隙を作らせれば主の一撃があるだろう。]
(149) 2014/02/20(Thu) 20時半頃
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そんな目で、……俺を見る、なっ
[ジャニスの両脚を警戒しながら、痛みに喘ぐ。捻った上半身の、肩から落ちる赤雫はどれ程彼女を染めるか。
ヒトから離れた力は周を思い起こさせる。
これが聖水銀のせいだと言うのなら。 始祖の血のせいだと言うのなら。
子である身の、力ある濃紅を一部としたこの身の、何と不甲斐ない動きよ。]
(150) 2014/02/20(Thu) 20時半頃
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は、ぁっ!
[まだ戦える。そう、まだ。
幾度刃を突き立てれば、その腕は使い物にならなくなるだろうか。腕に腹に胸に首にと狙いを変え。
目を潰さんと、一閃。
ジャニスの左手が離れるのと、 零瑠の足が潰れるのとどちらが先か。*]
(151) 2014/02/20(Thu) 20時半頃
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[頭の中はどこかぼんやりする。
もう消えかかっているからだろう。
何も思い出せなくても目はやはり赤いまま。
「自分の中の彼を殺したい」
そう願うことは、多分全部を手放すことだったのだと思う。
後悔に苛まされて過ごしたあの毎日も、もう脳裏には欠片が浮かぶのみ]
あぁ、そうか。俺、死んだんだ。
[なぜ、どうして、誰が。もう思い浮かぶ顔もない。
殺してしまったのだから]
[自分が死んでなくなるものはあっただろうか。
自分が死んでも残るものはあっただろうか。
何も望んでいなかったけど、
心の隅で、残してほしいと思った…かもしれない。
残したかったと…フリであっても思いたかったのかもしれない。
紅いものが鬼の血か人の血かわからないその場所で、
薄らいでいく記憶だけがただ消えるのを待つのみ*]
[せめぎ合う、金色の呪縛と鬼への殺意の狭間で、
獣は己に問い掛ける。
もし、自分が南方周のままで在ったなら、
――円は命を落とさずに済んだだろうか。
――キャロライナは家族の為に、依るべき世界を捨てずに済んだだろうか。
――零瑠は『冀望』の光に焦がれ、誘われずに済んだだろうか]
[獣は更に己に問う。
――何故、直円は涼平は理依は安吾は、死ななければならなかったのか。
――何故、家族の為に奮う筈のこの手が、同士達の血に染まっているだろうか]
[ああ――と、獣は大きく息を吐く。
こうなったのは全て、かの金色の鬼のせいだ。
あの鬼さえいなければ、何も失くさずに済んだのに。
失った者達への哀惜が
奴を斃せ、皆の敵を討て、と――
殺意で獣の裡を黒く塗りつぶしていく。
憎悪と怒りに焼かれ、獣を縛る金色の鎖が朽ち果てていく。
――やがて黒い焔は衝動のままに
獣に最後に残された周であった名残すら、
焼き尽くしてしまうだろう]
[零瑠の遠く問い掛る声が、
瞋恚に胸焦がす獣の耳に落ちた。>>*41
彼の望みは金色の王と共に在る未来。
それは獣が在る限り、決して相容れない未来]
――――……。
[だから、縋るような弱い音を振り切るかのようにして、
獣は金色の鬼の元へと、一陣の凶風の如く駆け出した*]
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ひどいね、お姉さん。
俺が安吾さんに殺されていても、別段構いやしなかったみたいだ。
[幾ら小太刀を振るっても。 ジャニスの腕を切り落とせない―――のなら。]
………っ!
[迷わず、己の脛を落とした。]
(189) 2014/02/20(Thu) 23時半頃
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[後ろに跳び、十分な距離をあける。
地面に触れた手が。白かった外套の、武器に当たった。 小太刀が役に立たないのなら。 対吸血鬼用の武器の方が傷を負わせるのではないか。]
さぁ、主はジャニスさんに飽いたようだよ?
(193) 2014/02/20(Thu) 23時半頃
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[昇り始める太陽の、その光を背に受ける。 吸血鬼は陽光に弱いなど、そんな迷信は笑ってやろう。
真弓の気配。対峙した時にもそうと知れたが、 確かに彼女は――強い。
別の褒美をと願った時には計画していたのだろう。 こうなるように。
けれど、強くなったからといって臆することはない。 生きなければ、勝たなければ、ならないのだから。]
(203) 2014/02/21(Fri) 00時頃
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[黄金の夜明けの下。
人でも鬼でもない獣は、
目に映る全てのモノを蹂躙しながら、直走る。
金色の鬼の眷属ではなくても
戦場に轟く獣の咆哮が、リカルダと明之進に
周の果てを予感させるだろう]
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あの人は――何故食われたか、知っています?
[破れかけた外套は風に揺れ。>>192 あの日の弟を思わせるやも知れない。]
……さぁ、でも真弓が居るんだ。 純血の血を取り込んだ彼女が、主を倒すかもしれない。
(210) 2014/02/21(Fri) 00時頃
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