213 舞鶴草の村
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墓
少
霊
全
春松に6人が投票した。
一平太に1人が投票した。
春松は村人の手により処刑された。
時は来た。村人達は集まり、互いの姿を確認する。
犠牲者はいないようだ。殺戮の手は及ばなかったのだろうか?
全ての人狼を退治した……。人狼に怯える日々は去ったのだ!
[ぺたり。ぺたり。
其れは薄い草履が地を叩く音。
また少し若くなった鼠小僧は“望む者”の所へ向かいます。
まだ何を盗まれたか分からない人にも、盗まれたものを取り返そうとする人にも等しく。宝を諦めない限り。]
(#0) 2015/01/27(Tue) 23時半頃
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--あくる日の追憶--
[一平太と出会い 従兄弟探しの情報収集を手伝ってもらったあの日は 結局あては見つからず 暗くなる頃にはお礼を告げて別れたんだったか
早朝 芝居小屋付近の低い塀に腰掛け 溜息を吐くことすらなく ただ薄水色の空を見上げていた
今日から一座で公演を再開するらしい しかし 筆頭の二枚目がいないままとなっては 客足は少ないに違いない それに自分の体調も頗る悪いままだ こんな状態でまともな演技が出来るのだろうか 数日前の 従兄弟とのやりとりを思い出す 演技に支障を来すほど感情が制御できないなんて きっと 兄さんは望んでいないことだろう けれど どうしようもなく空虚だった 不安ともどかしさ 気だるさや自責で鳩尾のあたりがひどく重い]
(0) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 07時半頃
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[その感情を持て余すように 盗まれなかった方の宝物のひとつーー篠笛を 手のなかで転がしていると どこからか 軽い足音とともに 幼い子ども>>#0がこちらへ駆け寄ってきて 問うた]
『にィさん その笛吹けるのかい?聞かせておくれよ』
[ぼう とその少年の顔を見つめて 快活な声を聞けば 手元の篠笛を見る そんな気分ではないけれど 頼みを無下に断る気力のほうが 自分にとっては負担だ 力なく微笑み返す]
ええよ ほな 童謡囃子でも吹こか
[笛を構えーー違和感] あ れ?
[指が動こうとしない]
(1) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 07時半頃
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[旋律がひとつも思い出せない 忘れてしまった? 厭 いくらしばらく吹こうとしていなかったとはいえ 幼い頃から多数繰り返し練習したはずなのに]
どうして――?
[あからさまに動揺し 固まってしまう と 少年がそれを覗くように小首を傾げーー さて その顔はどんな表情をしていたか]
『思い出したかィ? ”忘れていた”ってこと』
え?
[すぐに呑み込めないその言葉に 呆気にとられていると 少年はくるりと踵を返し 再びどこかへ駆けていってしまったか 去り際のその顔は どうしてだろうか とても寂しそうに見え その代わりの様に 自分の中で何かが埋まったような心地がして]
(2) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 07時半頃
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[何も言えないまま 少年の背中を見送ったあと もう一度唇に笛をあててみる 目を閉じ おそるおそる息を吹き込む
同時に 細い指が自然と動き出す 嗚呼 思い出す 思い出す あたたかい音色 懐かしい旋律 そして滲んでくるのはーー・・・・・・]
”鏡 がんばったやないの じょうず じょうず” ”ああ 随分ようなったな”
[いちまいの絵が 色と音をともなって動き出す 両親が手を叩いて笑っている その膝でまるまった猫が まんぞくげにひとつ鳴き声をあげ その目線の先にいる幼い僕は 顔を赤らめて笑っていた
なかなか上手くならなかった篠笛で 課題の長唄をようやっと 通して吹けるようになった時の記憶 うまく動かない指に 泣きながら何度も何度も練習したのだった]
(3) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 07時半頃
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[そうだ 芝居の稽古でもそうだった 要領が悪く 間の抜けている自分は 何度も何度も失敗しては叱られた
でも 苦しくとも 頑張れたのは それで褒めてもらえれば お客が喜んで拍手してくれれば そのことが心から 嬉しく思えたから
それが ここ近頃では ”演じなければ”いけないと 強迫のような気持ちで 絡繰人形のように 組み込まれたように役を全うし 舞台を降りれば鬱屈と 無力感や自己の存在の羞恥心に苛まれるばかりで つらい記憶ばかり掘り起こしては沈んでいた
”演技がなくては生きていけない”と そう思うようになっていた それは 自分にはそれしかないから それをなやめてしまえば他にはとりえがないから 居場所がなくなってしまうから そうやって消極的に恐れる思いばかりで
その逆側の本質が いつからかぞんざいになっていた]
(4) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 08時頃
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[演技が好きだから生きてこれた いくつもの劇に 感動と達成感をもらった 従兄弟や一座の皆に支えられてきた これしかない というものが自分にあることを 頑張れることがひとつでさえあることを 誇りに思ってやってきたのに
それを 忘れかけてしまっていた
―――笛から唇を離せば それをそっと胸元で握り込む]
なんや 僕 ほんまに間抜けやなぁ こんな大事なこと 忘れとった
[笛の音が思い出させた 一枚の絵と 忘れていた気持ち 自分を深いところから支えてきた その”宝物”の輪郭を しっかりと掴むことができれば ぽろり とひとつぶ あたたかい涙がこぼれた]
(5) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 08時頃
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[溜まっていた毒を抜くように 深く長い息を吐く 平衡感覚が戻ってきたような そんな心地で
―先刻の不思議な少年 もしや果たして彼が鼠小僧だったのだろうか――そう 直感する
なんとも非現実的で 不思議なことだらけだ 根拠なんてないし あの姿が正体とも分からないけれど しかし 万が一にも彼が鼠小僧なのだとすれば]
――追いかけへんと
[従兄弟を取り戻さなければいけない そう思ったときには 飛び出すような勢いで 地面を踏み込んだだろうか**]
(6) yucca_eleph 2015/01/29(Thu) 08時頃
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……赤い着物、か…。…………元気そうだったなあ。
[赤い着物を着たその女性は、僕の記憶の中の母にとてもよく似ていた。…尤もあんなに心から笑った顔を見たことはなかったが。 (廓詞抜けてたなあ。…あと、は) その人の後をとてて、と追いかける可愛らしい女の子。母上、と呼ぶその子の言葉。……理解するのにさほど時間はいらなかった。
母は自分に本気で惚れ込んでいた幼馴染の武士に貰われた。…没落した武家の生まれだったという母は、その幼馴染を待ち続けていたという。全て酔った楼主から聞いた話だが、恐らく事実なのだろう。
一目、見るだけのつもりだった。…そこから先の行動を僕は酷く後悔している。]
(7) purin3 2015/01/29(Thu) 10時頃
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………はあ…。
[僕の右手にはあの懐かしい守り袋。気付いた時には袂に戻っていた。この不思議な現象は、鼠小僧の行動なのだろう。相変わらずよく分からない人だ。この守り袋の思い出の中の母の笑顔は壊れていない。それでいい、と思い出せた"宝物"をそっと握りしめて大切に大切に袂にしまった。 『亀吉の髪は綺麗な色やねぇ。この色なら何処からでも見つけられるから、安心やわぁ。』 母は散々な目に逢い泣き続ける僕に、綺麗な色と言ってくれた。この髪の色があればきっとどこでも母は見つけられるのだ、と子供心に少し自慢だった。
碌に周りも見ずに歩いていたら、いつの間にかあの薬師の店の前へと来ていた。これといった用もなかったが、ふと彼の盗まれたものがどうなったか気になった。…陰鬱な気分を払うかのように薬屋の戸を叩いたが、彼は居るだろうか…。]
(8) purin3 2015/01/29(Thu) 10時頃
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[――ぺたり、ぺたり>>#0。
聞き慣れた筈の草履の音が、嫌に耳についたのは何故だろうか。薬師は薬に向けた視線を上げ、閉じられた戸の向こうを見詰める。 僅かの逡巡の後、その正体を見極めようと立ち上がれば……ことり、と。背後から小さな音を耳にして。思わず振り向くと、出した覚えのない箱が長机の上にぽつり。 怪訝そうにしつつそれに近付き、開きかけのそれを閉じ様と蓋に手を掛けて、はたと気付いた。
――手紙など、入れてあっただろうか。 それも一通や二通ではない。何百とあるのではないかという手紙の束。幾度も読み返されたのか、封筒まで擦り切れ宛名が滲んでしまっている。 嗚呼、まるで。愛しげにその文字をなぞったかの様な……、]
"…………、そうだ。 そうだ、何故ぼくは……"、
[知らず浅くなる呼吸に喉を押さえる。
数日前から、どこかおかしいとは思っていた。 この自分が、商売なんぞの為にだけ、こんな小国を訪れるわけがない。ただ金に目が眩んで、あの愛しい家族の元を離れるわけが、ないじゃないか。 もっと何か……大切な何かがあったのだと、少し考えれば気付けた筈なのに]
(9) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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[手紙の束をなぞり、溢れるのはみっともなく引き攣った吐息。
――此処に来たのは、"あの子"の病を治す薬を見付ける為。 酷く奇妙な病を患った弟に、再び笑顔を与える為、こんな処まで来たというのに。 それを忘れてしまっては、何を為す事も出来ないじゃないか。何故こんな大切な事を、忘れてしまっていたのだろう。
嗚呼けれど、気付いてしまった。 家族の為なんて言って国を出て。そうして方々を回るうち、その"作業は"惰性になってしまっていたのだと。
幾つもの国を回り、幾つもの苦汁を嘗め。 その病を治す薬があると聞けば何だってしたのに、結果得られたのは、曖昧でいて不確かな情報ばかり。
――それに絶望し、薬師は……ただ、家族の死から逃れる為に、本国から目を逸らす様になってはいなかっただろうか]
(10) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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[こうしていれば、自分はあの子を助け様としているのだと、そう思う事が出来たから。 最初の頃の、ただあの子を助けたいという気持ちすら忘れて仕事に打ち込んで。そうして満足してしまっては、いなかっただろうか]
"大馬鹿は……僕か"。
[ふ、と。自嘲めいた吐息を零し、口元を歪に歪ませる。 嗚呼、情けなさすぎて涙も出やしない。こんなに大切なことを忘れ、その上無自覚だった自身の腑抜けた本心を自覚してしまって。
……それでも。 国を出たあの日、覚悟したんじゃなかったか。 あの子をきっと助けるのだと、誓ったんじゃなかったか。 ならば、諦めている暇など、自嘲している暇など、無いだろう]
(11) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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……ん、
[不意に覚えた違和感に、手元の手紙を取り上げる。ごくごく新しいその手紙は、どうやら封すら開けられていない様子だ。 いつもならきちりとナイフでそれを開くのだけれど、今はどうにもその時間すらもどかしく。手で乱暴にそれを開き手紙を取り出せば……はらりと落ちる一枚の紙切れ。
手紙を読む前に、何とは無しにそれを取り上げてみれば、どうやら写真の様で。ひっくり返って落ちたそれを裏返して見れば、薬師は目を見開いた。
写真の向こう、あの子が他の家族に囲まれて笑っている。
ほんの少し引き攣った笑みは、照れ臭さ故だろうか。ぎこちなくも微笑ましい、懐かしい笑み。 ――それを見ただけで、あの子の病は治ったのだと、全てを理解する事が出来た]
(12) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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…………っ、
["鼠小僧"は、何とも意地の悪い物を盗んでいったものだ。 ……けれど確かに。この吉報は、薬師にとっては何よりの宝といえるのかもしれない。否、宝そのものなのだろう。 自らの命よりも大切な家族が、一命を取り留めたのだから]
"クソ、一発ぶん殴っておくんだった"。
[恐らく、先の草履の音は彼の"鼠小僧"のものだったのだろう。そうと分かっていれば、駆けて行って殴ってやったのに、なんて。詮無い事を考えつつ。
口元に浮かぶ笑みは、既に自嘲の形を為してはいない。……まあ、口にした言葉は、本心ではあったのだけれど]
(13) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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[ぱさり。手紙を箱に仕舞えば、薬師は立ち上がる。
――帰り支度をしなければ。 あの子が治ったのであれば、薬師が此処に居る意味などありはしない。
……ほんの少しだけ覚えた名残り惜しさからは、目を逸し。持って帰るものと置いていくものの整理をしようと、薬棚へと向かった*]
(14) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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[要るもの、要らないもの。それらを分けながら整理していけば、向こうに持っていく物は然程残らなかった。 それらを鞄に詰め、最後に入れるのは、"大切な物"を入れた箱。そうすれば、帰り支度は全て終いだ。
ほんの少しざわめく心のまま、鞄を肩に掛けようとする。けれど、戸を叩く音>>8に気付けば、ちらりとそちらを向いて。 丁度良い。客をあしらうついでに此処を出よう、なんて考えながら、荷物を持って戸の方へと]
すみません。 暫くお休みを頂こうと思って……、
[戸を開けてその向こうに居た人物を見れば、出た言葉は小さくなって消えていく。 ……嗚呼、どうやら未だ、帰るわけにはいかなそうだ。先に約束を果たさなければ]
……いえ、何でもありません。 どうぞ中へ。
[相手の何やら浮かない顔には気付いていたけれど、それを指摘する程お人好しではない。 戸の横に荷物を置いたまま、奥へと導いて。以前と同じように椅子を勧めれば、彼は座ってくれただろうか]
(15) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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……紅茶ですよね。すぐに淹れます。 嗚呼……薬をお求めなら、お代は要りませんよ。
――今日、この国を発つつもりですので。
[何でも無い風に言いながら、台所でお湯を沸かす。 紅茶を淹れる為の一式を盆に乗せ、勘定場まで戻り。かたりとそれを置けば、彼に向いて。 お湯が沸くのを待つ間、取り留めの無い話でもしていようかと]
……貴方は、宝物を思い出せましたか。
[ふと思い付くのは、やはり鼠小僧の話題。 自分がそうだった様に、やはり彼も何か盗まれたのではないだろうかと、そう考えて問うてみる。……もし彼が言いたくない様であれば、それを詮索する事は無かっただろうけれど ]
(16) 製菓 2015/01/29(Thu) 11時頃
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この屋敷を出てから幾年が過ぎただろう。 笠からそっと目を覗かせ屋敷を眺める。 ここには鼠は入ったのだろうか。決してこの屋敷での生活は居心地が良かったとはいえない。しかしだからと言って鼠に襲われてもいいとは思わない。 屋敷の主人には恩がある。その家族や周りの人にも恩はあるし恨む気持ちはない。逆に迷惑かけたことを申し訳なく思う。
そのようなことを思い立ち尽くしていたが、屋敷の引き戸が開いたと同時に焦り走り出した。今ここで自分の姿を見せるわけには行けない。
この界隈で笠を深く被り走り抜けていては怪しまれてしまう。同心や岡っ引きに拘束されては堪ったものじゃない。 路地を抜け人気のない静かな土地へと逃げ込むように進んでいった。
(17) purupuru 2015/01/29(Thu) 13時頃
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―参区の外れにある寺―
屋敷に入れるわけもなく辿り着いた場所はこの区域にある寺院。 街の騒がしさとは違い此処は静かだ。 残る縁のある場所というならもう此処しかないだろう。
「旦那様、お久しぶりです」
立派な墓石の前に座り手を合わせる。 参区を離れてしまってからというもの此処も疎遠になってしまっていた。さて母の墓にも手を合わせに行くか。
屋敷の主人が眠る墓の先にある小さな墓石。 主人が母のために建ててくれたものだ。 墓の前で手を合わせようとする際に気付く、墓には真新しい花が供えられており、合わせて母の形見である簪が置かれていた。
「鼠小僧が盗んだものはこれか・・・」
確かに盗まれた簪は気にも留めていなかった。 だが宝物というほどのものでもない。 捨ててしまおうかとさえ思っていたものだ。
(18) purupuru 2015/01/29(Thu) 13時頃
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「鼠は何がしたかったのか最後まで分からなかったな」
溜息をつき肩を落としながら陸区へ帰ろうと歩み始めた。 墓と墓の間を抜けていくと見覚えのある花が落ちており思わず歩みを止めた。 辺りを見渡すと母の墓に供えられていた花と同じものが供えられている墓を見つけた。 墓石には母の簪と同じ図柄刻まれ、足元には手ぬぐいが置かれていた。
「これは家紋...何故母の簪にも同じものが・・・」
不安と同時に高揚感が押し寄せてくる。 思考を巡らすよりも先に足元に置かれた手ぬぐいにゆっくりと手を触れる。
―『頼んだぞ』― 自身のものとは違う記憶が入り込んでくる。
(19) purupuru 2015/01/29(Thu) 13時頃
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[戸の先にいた薬師>>15を見れば、彼は何やら出かけるようだった。…暫くお休みを…という言葉を聞き、彼にも何かしらの変化があったのだと察する。 奥へと導かれれば、以前と同じように勧められるまま椅子に腰掛けた。紅茶ですよねという言葉に、ああそんな話をしたのだっけ、とぼんやりと考える。]
…そうですか。寂しくなりますね。
[いつもなら社交辞令で出る言葉が、今はすんなりと出て来た。ここ数日で彼とは何回話しただろうか、なんて少し思い浮かべながら、小さく微笑んだ。 盆に置かれた道具をちらりと見れば、やはり話題になるのは鼠小僧のこと。]
……"宝物"思い出しましたよ。そして宝物ついでに見たかったものも見てきました。
[脳裏に母のあの眼差しを浮かべながらも悟られないように微笑み、守り袋を袂から取り出して見せる。そして、貴方は?と問うてみればどんな反応が返って来ただろうか。]
(20) purin3 2015/01/29(Thu) 16時頃
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[寂しい、と。 そんな風に言ってくる相手>>20が、此方で出来るとは思っていなくて。ほんの少し乱された思考は、苦笑と共に諦めで塗り潰す。 この国へ思う名残惜しさの理由は、この繋がりのせいなのだろう。
客などどうとも思った事は無かった筈だ。取るに足らない、ただの金蔓くらいに思っていた筈だ。 ……嗚呼それでも、この国で出会った彼等とのやり取りは、存外心地よいものだったという事だろう]
ええ、私も思い出しました。 ……そのついでに、此方に居る理由も無くなりましてね。こうして帰り支度をしているというわけで。
[ティーポットに茶葉を入れながらそんな事を言っていれば、どうやらお湯が沸いたらしい。 台所からそれを勘定場まで持って来て、中身をそのままポットへと注いでいく。本当なら茶器を温めておくべきだったのだろうが、あまり彼を待たせるのも悪いだろう。 お湯を注げば、かちゃりと蓋をして、暫し蒸らす時間を]
(21) 製菓 2015/01/29(Thu) 17時半頃
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それにしても……見たかったもの、ですか。 伺っても?
[眼鏡の下、細めた視線を彼に向ける。 先の浮かない顔はそのせいだろうか、なんて。今ではすっかり張り付いてしまった微笑に、僅かに惜しい想いをしている事には、気付かぬまま。 彼が詮索を嫌う様なら、やはり無理に聞こうとはしないだろう。此方とて、"宝物"の話は進んでしたいものでもない。
返事は聞けたかどうか。 それは分らないけれど、充分に蒸らせばポットの蓋を取り、匙でくるりと掻き混ぜて。そうしてポットを回しながらカップに中身を注いでいけば、辺りに広がる紅茶の香りに知らず口元を緩めた。
この出来なら、恐らく不味くはないだろう。そんな安堵は気付かれぬよう、素知らぬ顔でカップを彼と己の前に置き]
……どうぞ。 味は保証しかねますが。
[肩を竦め、皮肉っぽく言いつつ。実際の処、それなりに自信のある出来だという事は言わないまま。 向こうの茶器ではもしかしたら彼は飲みにくいかもしれない、なんて。思い至ったのは今更の事で**]
(22) 製菓 2015/01/29(Thu) 17時半頃
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― 楽屋前 ―
[ふらりと帰ってきた男に対して周りは大騒ぎとなった 自分が今まで行方不明になっていたこと。それから演劇が幾つか中止になった事 色々と聞かされたが、全て自分を心配する言葉ばかりで]
迷惑かけた。少し、無くし物を探していてね
[見付かったんですか?という問いには、固まった頬を少しゆるめて頷いた それからは、女性とも普通に話している所もあり周りにはどうした?と心配される声もあったが、その真相を語る事は決して無く]
鏡、居るか?
[きっと自分を一番心配しただろう相手の名前を、そう呼ぶ 心配かけてすまなかったと言うべきか、それとも自分に起きた出来事を話すべきか 迷った後に、前みたいに抱きしめようとして]
――ただいま
[そう、安心させるように囁いたか**]
(23) 黒戌 2015/01/29(Thu) 20時半頃
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[彼の流れるような茶を淹れる手捌きを興味深く見ながらも、ここに居る理由、という言葉が気になった。理由を伺っても良いですか?なんて聞いてみれば、何て答えただろうか。]
…母にあって来たんです。幸せそうな笑顔を浮かべていました。……その笑顔を壊してしまったんですけどね。
[憂いを押し殺すように、にこりと一つ微笑んで言う。母に言われた言葉は彼には言わない方が良いだろう。聞いて気持ちのいい言葉ではなかった。そう考え、残りの言葉も全て押し殺す。
目の前に綺麗な赤い茶が出てくれば、へぇと口の端を上げる。辺りに広がる甘い香りに、なるほど茶の香りから違うのか、と少し心を踊らせながら、茶器を見て少し考え込む。湯呑みについたこの丸い取っ手のようなものはなんだろうか。考え考え、考え抜いた結果取っ手は無視して飲むことに決める。]
ありがとうございます。随分と香りの良い茶ですね。
[一口含むと口いっぱいに広がる酸味と甘味に少しびっくりしながら、美味しい、と呟く。このような茶は生まれて初めて飲んだ。菓子ほど甘くはない、その絶妙な甘さに頬が緩むのを感じた。]
素晴らしい茶ですね。見た目の美しさだけでなく、味まで上品だ。
(24) purin3 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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ー回想 幼少期ー
何するんだよぅ やめろよぅ… やめろよぅ…
[今日も今日とて近所の子供仲間の元に呼び出されれば、何時もの様に小突き回されていた 仲間内を仕切ってる悪餓鬼に立ち向かう様な勇気などない。ましてや3人組となれば]
何で僕がこんな目に… …ひどい、ひどいよ…
[ついに涙を流してしまう。泣いた所でこの仕打ちの止むことは無いのだけど
そこに、突如響いた大きな声]
(25) コタロー 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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「こらーーーーーーーーーっ!!」
[竹刀を手に、年の程二周り上の女性が駆け寄る
鬼の形相で悪餓鬼達の頭に一閃 逆に泣かされる事になった一段の走り去る背中に、彼女はこう言い放った]
「成敗!!」
[ありがとう と礼を言えば手を差し伸べられて 立ち上がれば、その女性を見上げる]
「男の子なんだから、強くなりなさい 喧嘩が強い必要は無いの。 これだけは っていう、信念を強く持ちなさい」
[内気な自分には難しいだろう 表情にすれば、目の前の女性はしゃがみ込んで視線を落とした]
(26) コタロー 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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「仕方無いわねぇ… なら、この竹刀をあげる
それと…御守り!」
[子供の身には大き過ぎる竹の刀を渡されればよろけてしまったが。 自分の身に手が伸びれば、その掌には巾着袋 はたと目をやると、獅子の刺繍が施されたそれを腰に結び向けられた]
「…勇気の、御守り、ね?」
[そして立ち上がり踵を返そうとする女性に名前を問うてみたら]
「通りすがりの、正義の味方。 名前は、そうね…麒麟児でいいわ」
[立ち去る背中を、見送る。 腰の巾着が揺れる。控えめだが、雄々しく]
(27) コタロー 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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ー現在ー
[鏡と捜索は続けたがどこか上の空で。 何時もの調子はどこへやら。夕刻になり、「帰ろう」と告げられれば生返事を返した。普段なら「見つかるまで探そう」とでも言っていたのだろうか
その後ぼんやりと日々を過ごした。出先でいざこざに出くわしても、逃げるようにその場を後にした ついぞ振るう事の無くなった竹刀に飾りか と言われても文句を返す事は出来ない だって、「あんなもの」を盗まれてはー]
…ん? なんだ…?
[人を避ける様にと選んだ細い道の端っこに転がっている、何か 側に寄って、しゃがみ込み確認すれば驚きの声を揚げた]
…これ、僕のじゃあ無いか…
[掌程の大きさの無い、小さな巾着 それは、本来自分の腰に結びつけていた物で 拾い上げてまじまじと見つめると、刺繍の獅子が咆哮している]
(28) コタロー 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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…そういう事かぁ
[なるほど。急に弱気になったのは「御守り」が無くなった事に知らずのうち気付いていたのだろう いや、その自覚は無かったが。あるいは盗まれた というのはきっとこれなのだろう 「勇気」を盗まれた と早合点していた心をほっと撫で下ろす]
これで、良し…っと [再びその紐を己の服に結びつけると、無意味に叫び声。 そして、手にした竹刀を振り上げ、誰にでもなく、告げる]
一平太… 正義の味方!一平太 獅子丸!参る!
[今日も「正義の味方」は街中を駆け回る 人に仇なす悪党を探して]
(29) コタロー 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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[彼からの問いかけ>>24には"内緒です"、なんて悪戯っぽく返しておく。この理由を知られるのは、ちょっとばかり照れくさいものだから。
此方の問いの答えに、ぱちりと一度瞬いて。微笑みを浮かべる彼の顔を、ただ見詰めてみせる。 深い事情も何も、彼の事は殆ど知らないと言っていいけれど。それでもその言葉を聞けば、察せる事もあったから、何と返せば良いかもわからず]
……そう、ですか。 それ残念な事で。
[これなら何も言わない方がマシだったろうか、と。そう考えていれば、カップを扱う不器用な所作に思わず苦笑を零す。飲み方が分からないなら、聞けばいいのに。 紅茶を飲んだ相手の緩む頬には目を細め。その反応一つ一つが微笑ましくて、上がりそうになる口角をカップで隠した]
向こうの茶も悪くはないでしょう? どうせもう必要無いものですから、此方に持って来た物は全てお譲りしますよ。
[機嫌良さ気にそんな事を言って、ちらりと相手の方を伺う。 続ける言葉は、何でもないような口調で]
(30) 製菓 2015/01/30(Fri) 08時半頃
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――嗚呼、それとも。 "本場"の紅茶を、一度味わってみますか。
[この誘いの言葉の意味を、彼は正しく理解してくれるだろうか。 してくれなかったとしても、それはそれで構わない。ただ、もう少しだけ、彼の事を知りたいとそう思っただけだから。 そもそも突拍子も無い誘いだから、どうせ受け入れてもらえるとも思っていない。
気付かれない様なら、ただ柔く笑って。断られたのなら、"冗句ですよ"、と。そう誤魔化せばいいだけの事**]
(31) 製菓 2015/01/30(Fri) 08時半頃
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―回想・盗まれた先で―
[カラ――……、 川のほとりを進みながら、小さな小さな川の流れる水の音を聴き。唐突にぐらりと揺れた視界に息を詰めたなら、軽やかな下駄の音を途絶えさせる。 短く、浅く息を吐き。ほんの一瞬手放しかけた意識をしかと掴み、ふるとひとつ首を振れば、静かな、静かな――奇妙な程に静かな闇に、髪の擦れる音が響いた。]
――……ン。
[ふと感じた何とも言えぬ心地の悪さに、知らずのうちに自らの身体を抱き。 ――やっぱり、こんな夜更けに出掛けるのはやめた方が良かったかしら…なんて。 ザワザワと荒波を立て始めた胸を誤魔化すように髪を掻き上げれば、指先に触れるのはぽかりと空いた穴がひとつ。
――幼い頃から憧れていた、叔父の元で働けると知り、研究に、研究に、と充実した毎日を送っていた時の頃の事。 少しばかり身を顧みぬ事もしていたものだから、その報いを受けたのは自分が十と六つを超えた辺りの頃だっただろうか。
幸いな事に、見える位置への外傷は無く。 負った傷は背にひとつ、引き連れる小さな焼け跡が残っているけれど其れだけだ。 ――あゝ、それからもうひとつだけあったたろうか。]
(32) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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………、やっぱり覚えてへんね。
[こうして散歩をする時に、二つ目の傷を辿ろうとはしてみるのだけれど。 目には見えぬその傷は、まるで写真に付けられた爪痕のように自分の家族の上に深く、深く刻まれている。
顔も名も思い出せぬその家族。 見える傷と、見えぬ傷とを負った娘に、可哀想にと嘆く家族に向けて、自分が放った一言は。]
――……"忘れたのが、家族の事で良かった"。
[ポツリ、と。 其の時と同じ言葉は、川の流れに紛れ込み――吐いたその時の家族の顔は、いまでも鮮明に覚えている。 自分の家族は、父が一人、母が一人。厳格な父と、優しくも強い母と――そして、三つ下の弟が一人。]
(……それも、後から聞いた話やけれど。)
[其の時には、彼らが家族と知る事も出来ずに。唯々嘆く彼らを見て、あぁこの人達が私の家族だったのだろうか、と何処かぼんやりと思うたものだ。
そして自分の率直な感想は、彼らを――その中でも特に、自分と同じく浅黒い肌を持つ弟を、酷く傷付けてしまったらしい。]
(33) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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………、
[家を出た時に、追い掛けて来たのは彼一人。思い出など何一つ残っては居なかったから、全てをそこに置いて行った。 あゝその時も確か、川の畔であの子と話したのだっただろうか。 ――"姉さんが、揃いにしようって言ったんだろう"、と。 泣き腫らした目で、期待と絶望の混じる瞳で此方を見上げる少年が渡して来たのは――]
――………、あれ。
[そうしてふ、と。 川へと視線を移したのなら、そこに不思議な実の成る草を見つけはしただろうか。 水のほんの側の僅かに高い草の先。月の光を僅かに浴びて仄かに光る、真っ赤な真っ赤な身が二つ――あゝ、否。あれは。]
(34) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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["気付いた"のなら、女は無意識のうちに足をそちらへと向ける。足の長い草の間を進みながら、その赤い実に向けて。 そう、その小さな小さな赤い実は…つい先日までこの穴に着いていたものでは無かったか。
意味もわからずざわりと走る焦燥感のままに、柔らかな土を踏みしめていたのなら。 ――慣れぬ履物で走ったのなら、足を取られるのも当然の事。
ぬかるみに足を取られ、地に膝を着き。 あゝせっかくの着物が泥で汚れてしまったじゃあないか――否、それよりも。]
……ッ、あ、……、
[ぽと、ぽとり。 盛大に転んだものだから、草に着いた赤い実が川の中へと落ちてゆくのを、息を詰めて見つめる。 あの実は――自分の弟を名乗る彼がくれた、赤い石の揃いの耳飾りは。 昨日まで確かに、この耳にあったのに!]
(35) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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――……"クソッタレの鼠小僧!"
["思い出してご覧"、と。揶揄るように綴られた文字を思い返し、バシャバシャと大きな水音を立てて川へと入り。 肌を刺す水の冷たさは、決して心地よい行水とは言えなかったけれど。 腕をまくり、水の中へと手を差し込み。 カチカチと小さく鳴る歯にも構わずに、暗い水の中を探す。 月が出ていると言ったとしても、この闇だ。水のなかなんて、ろくにみえやしない。
だけれどあの耳飾りは――自分が唯一"故郷"から持ってきたものなのに。]
………、
[じわり、じわりと思い出すのは、この耳飾りを渡してきた少年の姿。 "どうして良かったなんて言うんだ!"と、涙ながらに訴える目は…思い出すたびに目を背けたくはなるのだけれど。]
(36) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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――……"だって、覚えていないんだもの。"
[涙の混じる声で、悲鳴じみた声をあげ。 そう、覚えてなんていないのだから。仕事を生き甲斐にしてきた自分が、もしも其れを忘れたのなら。 ――生き甲斐を無くし、唯家族に守られたまま死人のように生きるなんて。そんな事は…自分には到底、耐えられそうにない。 もしかしたら、記憶を無くす前ならば。家族と仕事なら、逆を選んだのかもしれないけれど。 しかし自分は、失くしてしまった。その後に残った大切なものは――ひとつだけじゃあないか。]
………、?
[水に入り、どれ程の時が経っただろう。そろそろ、指の感覚も無くなってきた頃。 耳に、何やら童の声が聞こえたような気がして、こんな時間に何処の子だ、と顔を上げ。 だけれどそこに広がるのは、星の瞬く夜空ばかり。 掴めそうなほどのその星空は、一層幻想じみてはいたけれど――]
……、ぁ…!
[そうして顔を戻したその拍子に、指先へと触れる硬い感触。 砂利とはまた違うその感触に、そろりと川底の泥をすくってみれば――手の中にあるのは、あゝあの赤い実がふたつ。]
(37) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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[心からの安堵と共に、長い息を吐き。泥と水とで汚れた顔をくしゃりとひとつ歪ませる。 慎重に、慎重に手に取った泥を落とし。 氷のように冷たく震える手の中に収まったふたつの耳飾りを、心からの安堵と共にぎゅうと握り締めた。
あの時家族へ向けて口にした言葉は、紛れもない真実だけれども。 一層全てを置いて行こうと決めたのに、これだけは受け取ってしまったのは――彼らとのわ繋がりを完全に断つ事への、恐怖もあったのかもしれない。 ならば、もしかしたら。自分は昔はそれなりに――彼らを、大切に思っていたのだろうか。
震える指では、飾りを穴へと通せそうになかったから。唯々それを握り締めたまま、水を吸って重くなった着物を引きずりながら、あゝまったく酷い格好だこと――なんて。 ぽたりぽたりと水滴を落とし、あゝこんな格好じゃあ、あの三味線の音には到底釣り合いやしない、と残念そうに眉を寄せる。
そうして陸区の方へと一度だけ視線を向けて、足を伍区へと向けたのなら、あぁそう言えば、と懐から例の文を取り出した。]
(38) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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……、"便所紙の方がまだ役に立つよ"。
[手にあるのは、水に濡れて文字が滲んだ文が一枚。滲んだ文字は、もう読めやしないだろう。 憎々しげに言おうとした言葉には、何処か呆れが滲んでしまい。
あゝだけれど、さっき聞こえた童の声は。やはり気のせいだったのだろうか。 ――その後すぐに見つかったこの耳飾りに、さてもしかしたら盗んだ物を返してくれたんやろうかね、なんて。 そうしてフンとひとつ鼻を鳴らしたのなら、旅籠へと下駄を鳴らす――濡れた下駄の音は、酷く不恰好に夜の闇に響いたけれど。]*
(39) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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―回想・次の日―
[あれから旅籠へと戻り、服を取り替え。 なるべく床が汚れぬようにと着物を絞ったりはしてみたのだけれど、やはり汚れてしまった床を拭き――あゝ、明日女将に謝らないと。 濡れた髪を拭ったのなら、漸く体温の戻った指で飾りを耳へと取り付ける。 そうして布団に入ったのなら、直ぐに眠ってしまったらしい。
何時もよりも少し遅い時間に目が覚め、耳に触れれば其処にある感触にふう、と安堵し。 ――しかし奇妙だ。あのお節介な女将は、やれ朝餉はどうするだのと毎朝言ってきていたのに。]
……気付かんくらい、良う寝とったんかなぁ。
[着物を身につけ、姿見を確認し。 首を傾げて扉の方を見たのなら、図ったように聞こえてきた足音に"今日はえらい遅いんやね"なんて軽口を準備していたのだけれど。]
(40) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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………、あら。珍しいお客様やこと。
[部屋へと入ってきた一人の男>>4:27に、驚いたように目を見張り。 この薬師が、まさか自分に何の用だろうと、隣に見えた女将を見るも…何だろう、その不安そうな面持ちは。
そうして"自分と一度も目を合わさずに"、下がった女将に眉を寄せ。 何やら深く息を吐く薬師に近付いて行くも――やはり此方と目は合わない。]
……?
"先生、何を言ってるの。"
[まるで微かな恨みすら篭っているように聞こえた言葉に――何故か"この国以外の言葉で"落とされたその言葉に、意図して同じ国の言葉で返すも…返答は、無く。
次いだ罵りの言葉だって、響く声音からは到底そうは思えずに。 ただジワジワと胸に広がる不安に息を詰めながら立ち尽くしていたのなら、机の上へと放られた包みにビクリと肩が震えた。]
(41) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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[声を掛けようにも、胸の気持ち悪さが言葉を押しとどめる。 唯々混乱したように視線を揺らしていたのなら、背を向ける薬師は何やら紙に文字を書いてはいたようだけれども。
そうして書き終えた薬師がくるりと此方を向いたなら、思わず一歩足を引き。 嗚呼、嗚呼。何だこの心地の悪さは――まるで、昨日川辺で覚えたそれのような。
――しかしそれにしても、どうして。 どうして薬師は自分とここまで目を合わそうとしないのだろう。]
……田楽、そんなに気に入らんかった? それでも無視することはあらへんのと――
[言葉をひとつ、部屋の出口に向かう薬師に、流石に眉を寄せて手を伸ばし。しかし肩へと掛けた手は、するりとその白衣を擦り抜けていく。
其処へきて、女は混乱の中も何処か冷静に思考を巡らし。 薬師も、女将も。自分が声を発そうと、絶対に自分と目を合わそうとはしなかった。 …そう、まるで自分が、そこに存在していないかのように。
――ぱたん。扉の閉まる音を聞きながら、女はその場を動く事も出来ずに。 擦り抜けた手を――かすかに震えるその手のひらを見つめたのなら、苦々しくひとつ、舌を打った。]
(42) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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………耳飾りは返してやるから、代わりに命でも寄越せいう事やろうか。
[ギリ、と奥歯を噛み締め、開いた手のひらを握り締め。 机の上に放られた田楽と――その上に乗せられた一通の文を見たのなら、眉を下げて顔を顰める。
態々、女の国の言葉で書かれた文字に。 あぁならあの時の言葉はちゃんと伝わっしまっていたんやね、なんて。 何とは無しに気恥ずかしさを覚えて零した苦笑は、何処か自嘲を帯びており――この田楽を渡す事は、もう叶わぬのだろうかと。
あゝ、まったく。何処の御伽噺だこと。 ここ数日で起きた不思議な事に――今、自分に降りかかっている事実に。 どくどくと震える鼓動を落ち着けようと息を吐けば――そのまま、旅籠を後にした。]*
(43) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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―回想・陸区への道―
[カラン、コロン。下駄を鳴らし、街を歩く。
――あれから何人かに声を掛けたり、触れようとしてみたけれど、やはり此方に気付く者は一人もおらず。 やれまた鼠小僧が盗んで行ったとざわつく町の中を、ただ何の目的も無く歩いて行く。
…こうして"盗まれてしまった"のだから、きっと近いうちにあの部屋も他人に貸し出されるのだろうと。 あの薬師が粋な世話>>4:29を焼いてくれていた事など欠片も知らぬ女は、旅籠に戻る事も出来ずに。
――あゝ、こんな時こそあの三味の音でも聴ければいいのに、と。 今日もまた聞くことが出来なかったと、宵の降りてきた空を見上げながら、ふと溜息を吐いた。]
………あ、瓦版。 先生がうちに来たって事は…私の事も載っとるんやろね。
[そうして昨日の道を辿り、川辺を歩いていれば落ちていた瓦版が目に入り。 その場にしゃがんで文字を追えば――あゝやはりそこには"芙蓉"の文字が。]
(44) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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[この国で名乗っていたその名を見つけ、ふ、と嘲笑じみた息を漏らしていたけれど。 ――もうひとつ目に入った名には、喉がか細い音を立てた。]
………、ぇ、
[其処に記されたその名に、小さく小さく声を漏らす。 思わず瓦版へと伸ばした手は、やはりそれをすり抜けるばかりだったけれど。
そうしてまたひとつ、ぐらり。 傾ぐ意識に寸刻目を伏せ、地に落ちた瓦版へと手を着いてゆっくりと息を吐き出す。 ――まさか、彼女も。"鼠小僧"に盗まれたとでも言うのだろうか。]
………、
["盗まれた"のであれば、彼女が其処に居るとは思えなかったけれど。 だけれどどうせ、行く所もありはしないのだ、と――そしてもうひとつ。この瓦版が嘘であってくれればいいのにと。
近くを通った男が、"此方を見た"事には終ぞ気付くことは無く。 そうして無言のままに、女はその場を立ち上がり、陸区の方へと少し急いた足取りで進んで行った。]*
(45) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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―現在・陸区―
[あれから陸区を歩いてはみたけれど、やはり三味の音を聴く事は叶わなかっただろう。 宵も過ぎ、暗い暗い闇の中では当然の事かもしれないけれど。
あゝ其れにしても、幽霊というものも腹が減ったり眠くなったり、寒さを感じたりするものなのだろうか、なんて。 寝床代わりに見つけた廃屋の床に転がりながら、いっそ何もかも感じなければいいと寒さに震えていたけれど――いつしか、眠ってしまって居たらしい。]
………、お腹空いたなぁ。
[姿見も何もないその廃屋。 埃に塗れた床で眠った自分は、きっと今酷い格好をしているだろうけれど、其れを確認する術も無く。
腹も減るし、寒いし、喉も乾くし散々だ、と。 自分が"返された"事など知らぬ女は、落ち込むようにひとつ息を吐いたのなら、顔でも洗おうかと近くの井戸へと向かった。]*
(46) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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―陸区・井戸の側にて―
[井戸の側に着いたのなら、からりからりと滑車を回し水を汲み。 寒さに冷えた体には、その水はあまり嬉しくは無かったけれど――少なくとも、目は覚めてくれた。]
………戻ろうにも、どうやって戻ろうか。 あぁ、そうや。見えへんのなら…無賃で帰れるんと違うか。
――戻っても、誰にも見えへんけど。
[そのままトボトボと陸区の道を歩き、そんな事を考え。 あゝ其れなら一層、意識も何も消えてくれればよかったのに、と。"鼠小僧も気が効かへんね"、と恨みがましく思いながら。
広がる田園を見つめ、幼い頃は弟とこんな景色の場所を散歩したりしたかしら、なんて。 田舎の街に育ったから、たまに来る露天商の店を覗くのがとても楽しみだった事を覚えている。 ――あゝ、そうだ。この赤い耳飾りもまた、その露天商から買ったものだっただ。子供の小遣いで買った物だから、さして高価な物では無かったけれど。
揃いにしようか、と二つ買ったその飾り。 まだ穴の空いていない弟が、意を決して開けてくれと頼んで来た時の強がったあの顔には――何とも微笑ましかっただろうか。 そんな郷愁に浸っていたのなら、慣らしていた下駄をはたと止める。]
(47) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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………覚えてる…?
[ぽつりと零した言葉には、何の感情も無く。脈打つ心臓に舌を打ちそうになりながら、幾つかの記憶を辿っていく。
叔父の元で働くと言った時の、父の激昂した顔。 珍しく料理などしてみて失敗した時の、母の呆れたような笑顔。 ――昔は何処へ行くにも着いて来た、三つ下の弟の顔。]
………、覚えてる。
[そっと、耳の飾りへと手を伸ばし。 着いで自分のほっぺを軽くつねってみれば……当たり前だが、痛い。
――あゝ、まったく。無情なものじゃあないか。 もう二度と会えぬようになって漸く、其れを思い出すだなんて。 其れでも、これから何れだけの長い間こうして一人で過ごして行かねばならないのか――生き甲斐にしていた仕事も無く、誰とも話す事も出来ず。 其れを思えば、思い出した家族との記憶は慰みにくらいはなるかもしれない――かえって辛くあるかも、しれないけれど。]*
(48) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃
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『鏡 居るか?』
[声 自分を呼ぶ声 朧兄さんの声 化粧道具を補充して 楽屋に直しに戻った折 やたらと騒がしいそのまわりから 真っ直ぐに耳に届いた その声]
兄さ ん
[>>23声のした方を見れば 手に持っていた化粧道具箱の中身を床に撒き散らしたか ずっと探していた彼の顔を見れば どうしようもなく 涙がぼろぼろと零れ落ちる
彼がどこへ行っていたのか 真相がどうであったか 彼が何を感じているのか 聞きたいことはたくさんあるけれど 浮かされるように 両手を求めるように延ばせば歩み寄って 受け入れられるまま彼を強く抱き寄せた]
おかえりなさい おかえりなさい 朧兄さん
[変わらない 安心する彼の匂い しばらく涙は止まりそうになかった**]
(49) yucca_eleph 2015/01/30(Fri) 18時頃
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[内緒です、と言われれば>>30少し残念そうに、そうですかと返す。聞いてみたい気もあったが、そこまで気にしていたわけではなかった。
ぱちり、と一瞬瞬いてから気まずそうに返事をする彼に、ああと息を漏らす。どうやら勘違いさせてしまったようで、落ち着いた声音で訂正をする。]
ああ、いえ。母のことはそこまで残念でもないんです。蔑んだ目でも、僕を見てくれたわけですし。…それよりも、今の母に思い入れがなかった自分を嘆いてたので。
[昔のように何も無い、知らないという目で見られるよりは確実に意識を向けられたという喜びがあった。だから、会えたことはそこまで残念では無いのだ、と微笑みと共に言葉にした。]
(50) purin3 2015/01/30(Fri) 18時半頃
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[彼が苦笑を零した様子をちらっと見て、そして彼の湯呑みの持ち方を見て気恥ずかしさを覚え、少し頬を染め目を逸らす。…なるほど取っ手をああやって持つのか、なんて思いながら湯呑みを持ち直す。 …と、そこで聞こえた彼の言葉にふっと顔をあげた。 普段なら、いや今のような状況でも恐らくこういった誘いには乗らないはずだった。仕事が全て、と。そう育ったから。 …しかし今は自然と、それもいいかもな、なんてぼんやりと考えていた。どのみちもう江戸にいる気は無かった。…江戸にいれば、思い出の中の母がどんどん汚れてしまうような気がして居たから。 僕は彼をじっと見つめると、不束者ですが、と微笑んだ。…彼がこの答えにどんな思いを抱くのか、と好奇心に揺られながら。]
(51) purin3 2015/01/30(Fri) 18時半頃
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― 回想 ・ それから ―
[どれ程の間、地を這って探し続けていただろう。 不意に頭上から掛けられた声に、遠い過去へと馳せていた思考を 現在へと引き戻す。 舌足らずな声を聞くに、年端もいかぬ少女か もしくは少年か。]
…ああ、大事なもんを失くしちまった。
[声の方へ顔を上げて、へらりと笑ってみせれば。 年相応の素直さで以て掛けられる、好意の言葉。 ――嗚呼、あたしにもこんな頃は在っただろうか。 人の声を聞くのなんて、暫く振りであったような気さえするのだから。その善意を跳ね除ける事も憚られて、そうして地を探す目は、零から二つになっただろう。*]
(52) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時頃
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そうさ、綺麗だろう? 昇ったお天道様に透かしゃあ、きらきら光って さぞ美しい筈さ。 けどね、…あたしには見えやしないから。
[そうして、長く長く 時間を掛けて。 あぜ道にぽつりと転がっていた鼈甲仕立ての櫛を見つけて取り上げたのは、幼い一対の瞳。 少女の言葉に自慢げに笑いながら、指先に触れる湿った土を丁寧に取り除いて。
そうして、ほんの僅か 思考を飛ばす。]
…欲しいかい?
[ちらりと持ち上げた櫛と言葉に、小さく呑まれる少女の呼吸。 この辺りを通るとなれば、そう裕福な家の子ではないはず。 未練がましく探し続けてようやく見つけ出したのは、その “宝物” だけじゃあない。 今はすっかり、何もかも取り戻した気分だったのだから。]
(53) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時頃
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[ややあって “綺麗だから、欲しい” と。 弾んだ声音で聞こえた、子供らしく率直で素直な言葉に ゆるりと頬を緩めた。]
上手に言えたじゃあないか。 優しくて素直な人間にゃあね、相応の何かが、必ず返ってくるもんさ。
――良いよ、持ってきな。
[そうして小さなもみじの手を取れば、その上に櫛を重ねて、握らせる。
少女であった自分には、言えずにいた言葉。 真っ直ぐなきらきらした言葉に 酷く満たされた心地になりながら、――姐さんも、もしかすれば そんな答えを望んでいたんじゃあないのか などと。
きゅ、と握っては離れる体温に、曖昧に俯いては微笑んだ。]
(54) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時頃
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[ “――でも、姉さんの大事なものなんじゃあないの” と。 去り際に掛けられた声には、子供が気を遣うもんじゃあないよと ふんと鼻を鳴らしては。]
あたしには、もう別の “大事なもん” があるから、構やしない。 ちゃあんと 礼を言いに行かにゃあね、…あんたみたいに。
[耳の上に収めた硝子と真珠の髪飾りを指先で探り当てては、口角を上げて柔らかく笑ってみせた。 一度外れたそれは、少々不格好だったやも知れないけれど。手元に在るならそれで良い。
そのままひらひらと手を振って、今度こそ背を向ける。 “ありがとう” と。背後から聞こえた瑞々しい子供の声に、敵わないねぇと 眉を下げた。]
(55) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時頃
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[――本当に、いつだって “子供には敵わない” 。 ふと遠く聞こえた 先の少女とは違う子供の軽い足音は、そのまま何処かへ 駆け去って行ってしまっただろうか。
その主が誰であれ “何者であれ” 。 全て取り返した自分には、知ったことではないけれど。]
…子供は素直なんが一番さね。
[詰まることのなくなった “鼠小僧から返された” 言葉を――喉を 押さえて。 ふらふらと、道を歩いた。
語り継ぐ “鼠小僧” の音程は。 もう少し――明るく弾む音色に変えてみても良いだろうか と。 それは只の気まぐれか 何処かへ残る足跡の旋律か。*]
(56) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時頃
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― 陸区 ―
[続く騒ぎの所為か はたまた――幸か不幸か、自身は他のことに手一杯でさっぱり気付いてもいないけれど――街で起きた失踪騒ぎの所為か。 すっかり人気の無い道を進みながら、ふと 耳に届く下駄の音。>>47 この数日ですっかり耳に馴染んだ音に、おや珍しい事もあるものだと 草履の向きを僅かに逸らした。]
こんな辺境に、姉さんみたいなお人が何の用かね。
[足音を頼りに向かいながら ぴたりと止まった下駄の音に、僅かに首を傾げて。 其れでも口をついて出た言葉は、今更戻し様が無い。
途方に暮れた子供のような声には、嗚呼やはり “らしくない” と。>>48 さて、まだ彼女は失くし物を取り戻してはいないのだろうかと 思考を逸らしかけるけれど。]
(57) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時頃
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こんな場所、姉さんみたいな女が一人で歩くもんじゃあないよ。 鼠小僧の他にも、せこったらしい盗人は溢れるほど居るんだから。
[さて、彼女との距離 如何程か。 揶揄めいた言葉を掛けてしまうのは、彼女に対してはすっかり慣れた物。 嗚呼やはり、“言葉を盗まれた” 自分が それでも尚 詰まる事無く話せたのは 彼女だからだったのか と。
独り納得しながら、杖を抱えて腕を組んだ。 今はもう、――文字通り “詰まらぬ” 言葉だけで 済ませる積もりも無いのだけれど。]
(58) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 20時半頃
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―陸区・路上―
[鳴らす下駄の音は、何時もよりもずっと低く。ともすれば引き摺りそうになる足を何とか持ち上げながら、重い重い音を鳴らす。
――さぁて、此処から何処へ行こうか。 下駄の音は、心の音。鼠小僧から"返された"ものが何か知らぬ女はただ、行く当ても無くあぜ道を進む。]
………何処へ、行こうか。
[溜息と共に呟いた言葉は、どうにも情けない響きを孕み。 瓦版に名のあった、あの瞽女は無事だろうかと陸区を歩いてはみるけれど、あぁこの時間ならきっと肆か伍の方だろうか、と肩を落とす。
とぼとぼ、とぼとぼ。 昨日も、その前も。結局あの唄を聞けはしなかったから。 行く先の見えぬ絶望と、彼女の安否の分からぬ不安と。 そしてこんな時でも小さく鳴る腹に、更に気分を落ち込ませていれば、唐突に"声を掛けられた"。>>57]
(59) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 21時半頃
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――……志乃!
[勢い良く振り返り、其処にある姿に眉を下げ。 次いだ言葉>>58を聞きながらも、思わず伸ばした腕はこの距離ならば――きっと。腕を組んで此方に顔を向けている彼女に届くだろう。
唐突の事だったから、彼女はもしかしたら驚いたかもしれない。その腕を、振り払おうとしたかもしれない。 もしも振り払おうとしたのならそのまま手を離し、そして振り払われ無かったとしてもまた、何かに気付いたように身体を離しただろうけれど。]
………、キミ、私が視え…いや、聞こえるの?
[ポカンとした顔で、自分よりも僅かに下にある顔を見つめ。 肩に置いた手でペタペタと無遠慮に、彼女の顔へと触れる事は許されただろうか。]
(60) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 21時半頃
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[あゝ、まったく。鼠小僧も人騒がせなものじゃあないか。 盗んだものを、ちゃあんと返してくれるなんて――それともこの数日の事は、唯の夢だったとでも言うのだろうか、なんて。 だけれど、そう。ならば思い出した記憶は――これが夢ではないと。そう、物語っているのではないだろうか。
もしかしたら、盗まれた者同士ならば言葉を交わす事も出来るのかもしれないけれど、そんな事を知る術など無い。 それに例えそうだったとしても、ひとまずは。]
――……はぁ。無事で良かったわぁ。
[苦笑交じりに微笑みながら、ほっと安堵の息を吐き。 許されるのなら、もう一度。 今度は先よりも力を込めて、艶やかな髪の流れるその頭を抱いただろう。
抱きながら、指でその髪を少しだけ乱暴に梳き。耳のすぐ上に付けられた髪飾りを見つけたのなら、"付けててくれたんやね"とさも嬉しそうに言ってみせただろう。]
(61) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 21時半頃
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ふふ、心配してくれてはるの?
………、瓦版でね、キミの名前を見かけたものやから。 鼠小僧に盗まれたって書かれてあって、無事かなぁて思うとったんよ。
[彼女の心の中など、知る由もなく。 揶揄の言葉は勝手に心配と受け取り、髪飾りの付いた耳をそっと撫ぜ。
"あぁ、やっぱり似合うてるね"、と。 混乱やら安堵やら、その他にも色々な理由で浮かびそうになる涙を堪えるように、ツンとその鼻をつついてみせた。]
(62) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 21時半頃
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[聞こえていた重々しい下駄の男からは打って変わった、弾かれる様な声に、弾かれたように顔を上げ。>>60 声を上げる間もなく伸ばされた腕に驚く事は有っても、振り払う理由は無い。そうして直ぐに離れて行った手に 何とも不思議げに首を傾げた。]
…視え、はしないが、何時も通りさね。 姉さんは何だい、現実感か何かでも、盗まれやしたんかね。
[その言葉の理由も、驚愕の理由も 理解りはしなかったけれど。ぺたぺたと確かめるような手のひらは、好きな様にさせておく。 改めて寄せられた身体に、嗚呼 何て大きな子供が居た物だと 呆れ混じりの息を吐いた。>>61]
盗まれた?…あたしが? そりゃあまた、可笑しな話も在ったもんだ。
[だけれど、彼女が自分の揶揄を “心配” と受け取ったのは、他ならぬ彼女が 自身を慮って居たが故だろうかと 続いた言葉から思い至れば。>>62 先の少女も、そして何処か子供じみた目の前の女も、さらさらと告げる事の出来た言葉を。 それすら上手く伝えられぬ自身が、どうこう言えた物じゃあない。]
(63) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 22時半頃
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……何処へも消えやしないよ。
[彼女らしくもなくぞんざいに髪を梳く手に 居心地悪く身動きしては。 けれどどうにも其の声は 泣き出すのを我慢している子供の様に、聞こえてしまったのだから。 僅か上に目星を着けて、その目元へと指を伸ばせば、共に頬を包む。
彫り深い彼女の瞼は、指先に濡れた感触を伝えたか、どうか。 何方にせよ、その頬の冷たさに眉を寄せて。慣れぬ癖して、どれだけの間外を歩いて居たのだろうかと 溜息を落とした。]
あんたとあたしの縁なんざ、あんたに其処まで言わせる程 深いもんじゃあ、無かった筈だよ。 だってあたしは、姉さんの名前だって知りやしないんだ。
[吐き出した言葉は、突き放すようなものだったけれど。それでも寄せられた身を離す積もりはない。 慣れているとは云え、自身だってこの寒さには辟易していたのだから。]
(64) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 22時半頃
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[鼻先を突いた手は取り上げて、頬と同じく冷えた其れへと 暖を分ける様に包み込む。
彼女に此処まで “心配させた” あれやこれやを、自身はさっぱり理解していない。――のだから、ほら、何も言えやしない。 口に出せぬ慰めの代わりとばかりに 回し込んだ腕で一度 二度 その背をあやすように摩っては。
さて、彼女は先の自身の言葉に、どういった反応を返しただろうか。 何にせよ、言葉を留める積もりは無いのだけれど。]
(65) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 22時半頃
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――だから、あんたの名前を教えておくれよ。 そしたら此れも、立派な縁だ。
[草履の踵を上げて、鼻先で探り当てた耳元へと落としながら――触れた硬い感触に、おや、と疑問は内心で。 以前触れた時には無かった筈の耳飾りの存在は、だけれどすんなり馴染んで思えた。]
其れもね、…あんたの為に着けるとは言ったけども、気が変わった。 あたしのもんにしたい。
[そうして 彼女が触れる髪の上、僅かな重みを伝える髪飾りを示すように、緩く頭を振る。 大切な物を増やすのは好きではなかったけれど――ひとつ減らして、そして増やす位が、自分には丁度良い。
改めて、自分にくれ と、伝えはしたものの。 元々 彼女はその心算だったろうから、否定が返ることはそう無いだろうと 予測しながら。]
(66) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 22時半頃
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[――嗚呼、もしも肯と伝えられたのなら。 何時かの自分が言えずにいた言葉を、瞽女の姐さんに伝えられずにいた言葉を。 だけれど今は彼女の為だけに、必ず伝えようと。
身を焦がして焼け落ちるなど、そんな殊勝な生き方は 自分には似合わない。 寒い冬の空気の中では、潜めた声ですらしっかりと響くのだから、態々声を上げて鳴く必要すら 無い。
何の力も借りず――唄も借りず。 自身の言葉で伝える思いだって、無くちゃあ堪らない。
嫌に熱を持ち始めた手のひらで、その柔い背を改めて抱き込んでは――小さく微笑った。*]
(67) g_r_shinosaki 2015/01/30(Fri) 22時半頃
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―手ぬぐいの記憶―
カーン、カーン、カーン 半鐘の音が火の見櫓から町中へと鳴り響く。江戸の町は大火に包まれようとしていた。 皆が江戸の外へと逃げ出す中、俺は大火の中心へと向かっていた。仲間からは危険だ、お前も死ぬことになるぞ、と散々止められた。しかし引き返すことは出来ない。 「あそこには女房と息子がいるんだッ...!」 物凄い熱風が身体を襲ってくる。早くしなければ。
ドンッ!! 一瞬の気の緩み。集中力を欠いた俺の身に容赦なく建物が崩れ落ちる。身動きが取れなくないながらも必死に体を起こそうともがき叫ぶ。 こんなところで時間を潰している暇はない。こうしている間にも火の手は江戸の町を包み込む。脚の感覚はないが腕の力だけで抜け出そうと試みる。
『そこで寝そべって何をしている?』
(68) purupuru 2015/01/30(Fri) 23時頃
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奴は俺を見下ろす様に見つめていた。 久しぶりの出会いがこんな形とはな。
『今助けてやるから待っていろ』
奴はそう言い俺の元に寄ってきた。火の手の勢いは増し旋風となって押し寄せてくる。早くしなければここもすぐ...。 「俺はいいからあいつらを...家族が残っているんだ。頼む...お前にしか頼めない」 後生一生の願いとして奴に懇願した。これしか方法はない。自身の無力さや悔しさから手に砂を握り締めた。 そんな俺に目を合わせるように奴はじっと見つめていた。
『....分かった....約束しよう。私に盗めないものは無い』
俺もここまでか。家族を最後まで守ってやれなかった。息子に教えてやりたいこともたくさんあったのに。せめて命だけは救ってほしい。 「頼んだぞ...相棒」
(69) purupuru 2015/01/30(Fri) 23時頃
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―簪の記憶―
私の愛した人は旗本の家の者だった。 私とは身分が違う。故に結婚には反対された。 子を身籠った私はお腹の子を守るため逃げるように身を隠した。彼との間の子が見つかれば子を堕胎せと言われるかもしれない。
身を隠す生活に彼も協力してくれた。彼の家の家紋の刻まれた簪を貰ったことが何よりも嬉しかった。私達は婚姻こそできなかったが夫婦として過ごす日々を送ることにした。 大望の赤ん坊、元気な男の子が生まれ、私たちは親子3人で堂々と生活出来る日々を夢見ていた。 そのような希望が脆くも崩れる出来事が起こった、江戸が大火に見舞われたのだ。
夫は火付盗賊改として働いていた。重罪である放火や盗賊を取り締まる役職だ。そんな夫からある義賊の話を聞かされていた。 「アイツは他の盗賊とは違う。でも俺は認めねぇよ」そう話す夫はどこか嬉しそうだった。
『この屋敷の者なら生活を見てくれる。頼るといい』
私たち親子を助けてくれた彼から夫の最後と面倒を見てくれるという屋敷を紹介された。彼が何者かは聞けなかったが、きっと夫が話していた人だろう。
(70) purupuru 2015/01/30(Fri) 23時頃
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江戸の町を焼き尽くした大火で夫を亡くした私は我が子と親子二人で屋敷に住まわせてもらうことになった。屋敷の主人は何も言わなかったが命を救ってくれたあの方から何かしらの見返りや口添えはされているのだろう。
夫に子がいることが夫の実家の耳に入ると息子の捜索が始まった。夫が亡くなり跡取りがいなくなったため明之進を引き取ろうというのだ。私は息子の身を隠すため他人に夫の正体を明かさないことを決めた。 他者に何と言われようともこの子が側にてくれるだけで私は耐えれる。 大人になった時にこの子自身が進むべき道を選択すればよい。ただし今はまだその時ではない。できるだけ親の愛情をこの子に、亡くなった夫の分まで。それがこの子にしてあげれる事であり私の役目。夫と私の宝物―明之進
(71) purupuru 2015/01/30(Fri) 23時頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
purupuru 2015/01/30(Fri) 23時頃
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