267 【突発誰歓】蔵書点検の狭間に【5発言RP】
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この村にも恐るべき“人狼”の噂が流れてきた。ひそかに人間と入れ替わり、夜になると人間を襲うという魔物。不安に駆られた村人たちは、集会所へと集まるのだった……。
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ちゃんとご注文通り、さまざまな人たちをお呼びしましたよ。 いたるところから…そう、地平の果てや、宇宙の彼方からも。
中には、主様を消してくださるような方もいらっしゃるかもしれません。
(0) 2017/07/15(Sat) 20時半頃
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この図書館ももうちょいで終わるってぇのに、今更…
蔵書点検とか、意味あんのかねぇ。
[不真面目そうな声が、人一人居ない図書館に響いている。
誰も聞いていないと思いきった、油断しきった声、言葉。]
まあ館長の頼みでもあるしなぁ…
…一番、寂しがってたもんなぁ、あの人。
[ぶつぶつとつぶやきながら、その言葉を聞いている者――否、“物”がいることを知らない彼は、
本の森の中に相変わらず埋もれていた。]
(#0) 2017/07/15(Sat) 20時半頃
しかしま、館長も不思議なこと言うよなあ。
本の事を「彼ら」だなんて。
本が生きてるわけないのになあ。
[くすくす、くすくす。
囁き声が今も響き渡っているというのに。]*
(#1) 2017/07/15(Sat) 20時半頃
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…蔵書点検は終わったかね?御苦労様。 丁度休憩室の冷蔵庫にアイスが有ったはずだ、食べていくといい。 急に手伝うよう無理を言って悪かったね。
[夕暮れ。 館長――ティモシーは、点検が終わったという彼に、カウンターから労いの言葉をかけた。]
あとは私がやっておくよ。”彼ら”としたい話も有ることだし…… …何だい。怪訝そうな目をして。 またおかしな事を言っていると言わんばかりの目だね。
(1) 2017/07/15(Sat) 21時頃
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まあ、信じて貰おうとは思わないさ。 ただ少しのユーモア位は感じてはくれないかね? 夢があるじゃないか、"本の話が聞ける"なんてことは。
[はいはい、お疲れ様でしたーと話もそこそこに去ろうとする手伝いの彼を、 しょうがないねえと言わんばかりの表情で、それでもゆるりと手を振って見送って。
残されるは一人の人間。 それから、たくさんの本]*
(2) 2017/07/15(Sat) 21時頃
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[編纂者、という職業をご存知だろうか。辞書の編集を仕事とする者達の事だ。 僕はそんな彼らの、細やかな作業の集大成として完成する。 ……その、予定なのだ けれど]
"先生"? いつまで寝てるつもりなんだよ、せーんーせい!
[絶賛、編集難航中であるようだ。]
(3) 2017/07/15(Sat) 23時頃
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[辞書の編集は1人でやるものでは無い。 何人もの人間が、何年も掛かってやるものだ。 けれど全員が"辞書"である僕を認識出来るわけではないらしく、 僕が"先生"と呼んでいる彼だけが僕の存在を知っている。]
先生、ねえ 僕はいつになったら出来るんですか? 早く僕を完成させてくださいよ、ねえ、せーんーせーいー
[だからこうやって口うるさくしても、先生しか僕を知り得ない。 先生が僕に構えば構うほど、他の編纂者から変な目で見られるだけだ。
愉快でもあり、同時に、ちょっと寂しい事でもあった。]
(4) 2017/07/15(Sat) 23時半頃
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[完成するその日を待ちながら、真剣な表情で作業する彼らを 僕が作られていくその様を、じっと見つめるのが好きだった。]*
(5) 2017/07/15(Sat) 23時半頃
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自分が伝記の中の創られた存在だと知っていても その野心を隠すことなど出来ない。出来るはずもない。
それが俺という存在。俺達という集団。軍団。
俺の元になった人物はどんな奴なんだ、とか 本当はそんな人いないんじゃないか、とか 思うところは多々あるが、やはり俺は抗うだけ この世界に、抗う存在だ。 俺を書いた奴だって、そう俺を設計している。
だが・・・抗うというのは・・・一体何なんだ? 抗う事しか知らない俺・・・俺自身は、抗った結果何が残るというのだろうか。
モンドという革命家は、自由を求め戦った。 その結末は・・・火刑台。 憎き貴族共から悪魔と蔑まれた、残酷な死。
モンドの求めた結末は、自由。 だが、俺は・・・俺自身は、どんな結末を望んでいるのだ?
(6) 2017/07/16(Sun) 12時半頃
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[自身が伝記の存在と知りながら、彼は悩む。 モンドという革命家の意思、思念がそのまま自分になっているわけではないのだ。 彼は自由を求めた戦いの結末を知っている。かの悪魔のような結末を・・・]
(7) 2017/07/16(Sun) 12時半頃
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革命家 モンドは、メモを貼った。
2017/07/16(Sun) 12時半頃
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とるよ、とるよ。 あさがおは、つるべを、とるよ。
[ぱたぱたと立てる足音、聞くひとは今はまだ 『わたし』を記すこの方だけです]
せんせい、せんせい。 また、夏が終わってしまうわ。 あさがおは、まだ、つるべにぐるぐるですか。
[詩歌と四季シリーズ、夏の思い出。 冒頭に人口に膾炙した詩歌を引き、季節の思い出を描く いわばエッセイというジャンルでございましょうか]
(8) 2017/07/16(Sun) 14時頃
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春は咲いて、秋は実って、冬は積ったね。 ねえ、ねえ。 あさがおは、せんせいのごほんに、なれますか。
[ほんの少し、ほんの少しだけ。 この頃の『わたし』はやさぐれていました。
『わたし』だけ、ずっと赤ちゃんのような 状態で、一年を過ごしていたものですから]
(9) 2017/07/16(Sun) 14時頃
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[兄姉は、実際の季節に合わせて刊行されたのですが。 『わたし』は二年目の夏を迎えてもこの通り。 つるべを取ったところから、なかなか進まなくて。
せんせいは、時々苦笑なさいました。少し眩しそうに。
やがて書き上がった『わたし』は、時に お日様で、向日葵で、花火で、入道雲でした。
けれど、みずから名乗りを上げるなら。 やはり、朝顔かしらと『わたし』は思うのです。 夏の朝『わたし』は『わたし』になりましたから**]
(10) 2017/07/16(Sun) 14時頃
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双子 朝顔は、メモを貼った。
2017/07/16(Sun) 14時頃
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抗え!抗え!抗え! この狂った世の中に。奴らにのみ都合の良い貴族政治に。 俺達に自由を!民衆に自由を!
心の中で、叫び続ける。
それは、その叫びは・・・誰のものだ?
少なくとも俺ではない。だが俺の中でリフレインする叫び声。
(11) 2017/07/16(Sun) 17時頃
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[おさかな。四つ足の動物。空を飛ぶいきもの。
色とりどりの生き物が、彼女の筆の動きで増えて行くのは みているだけで、ワクワクするってもんだ。 でも……そんなおれにも、要望というか。 人間の言葉で言う『ワガママ』ってやつがあってさ。]
(12) 2017/07/16(Sun) 18時頃
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なぁ。ばあさん。 もう少し、こう……なんだ。
かっこいいヤツ、増やせねえのか?
[聞こえないだろうと思っていても、 その時のおれは、製作者の気を引こうと必死だった。
なにしろ、おれは。 ばあさんの描く絵が大好きだったから。 この人は柔らかいタッチの絵が得意なのは知っていたが そんなばあさんの描く、かっこいい動物も おれは、見てみたかった。]
(13) 2017/07/16(Sun) 18時頃
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他の本に聞いたんだ。 キョーリューって言うの?
おれ、ああいうの、描いて欲しい!
[まだ完成もしていない本であったから。 いくら、かっこいいいきものが好きだと思っていても 本を抜け出すときは、その姿しか取れなかった。
ちょろちょろと、ふわふわのシマリスの姿をとってさ。 ばあさんの座っている木の椅子の足元を駆け回り。 彼女の毛糸の靴下を小さな前足で、 かりかりとかいて、毛糸を無駄にほつれさせたもんだ。 ]**
(14) 2017/07/16(Sun) 18時頃
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私は、貧しい絵描きだ。
依頼者から、「有名な」絵描きの作品模写を依頼されて。ひたすらそれを制作する毎日。
[ああ、念の為に断っておくが──いわゆる違法の「贋作」作りというわけでは無い。
私の生きた時代は、未来のいつかの様に美しい色鮮やかな印刷技術など無かったのだ。よって、人気作品そのものが手に入らないのであれば、その作品を模写したものを作ってもらい手に入れる──そんな事が世間で、普通にまかり通っていた]
(15) 2017/07/16(Sun) 21時頃
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屋根裏──収入の少ない者が借りるのは大方そういうところである──の作業場にて凄い作品の真似をするのは、楽しかった。夢中になった。
あの道具、この手法…研究するうちに、年月は去って行った。そして、ある時ふと気づいたのだ。私はひとりぼっちだと
(16) 2017/07/16(Sun) 21時頃
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昼に一息つき。椅子に座ったまま背伸びをしながら、窓をぼんやりと眺めれば…そこから見えるのは、冷たくそびえ立つ灰色を纏った煙突達。
(ああ、さみしい)
目の前のキャンバスに描かれている色鮮やかな美しい世界とは、何たる違いだろう。私が現実にいる場所は
(17) 2017/07/16(Sun) 21時頃
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このまま、私は。
「有名な」絵描きの真似事をしながら年を重ねて老い、消えていく定めなのだろうかと。
その日は珍しく、研究意欲も消え失せぼんやりと窓の外を眺めていたのだ。そのうち太陽が沈んで、明かりを灯す時間になってもそのまま
(18) 2017/07/16(Sun) 21時頃
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そんな私を窓から、じっと見つめていたものがいた──
まん丸い、“おつきさま”だ。
「やあ、おつきさま。今宵も綺麗に輝いていますね」
そんな風に、何気なく窓に向かって話し掛けたその時。不思議な幾多の物語が、光と共に零れ落ちてきたのだ──**
(19) 2017/07/16(Sun) 21時半頃
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[ 目の前には背中がある 広い男の、しかし痩せて猫背の後ろ姿だ。 木机に向かいこちらを振り返ることはない。 椅子は古く、彼が身じろぎすれば軋んだ音を立てる。 視線を少し外せば昨日飲んだコーヒーのカップ まだ洗われもせずに汚れたテーブルに乗せられていた。 いや、そこだけじゃない。この部屋は全体的に汚れ埃っぽい。 その中で机と椅子だけはよく磨かれている。 ]
それで、この先はどうなるんだい。
[ それはこの背中の男の性質と職業をよく表していた。 しかし、覗き込んだ先には途切れた文字 飛び上がるみたいに椅子ごと退いて 我に返ればバツが悪そうな表情で髪を掻き回す 驚かされたからというだけの反応じゃない。 問いへの無言の答えを得て盛大にため息をつく。]
(20) 2017/07/16(Sun) 21時半頃
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おやおや、まあまあ。 それなのに今までずっと動きもしなかったのかい? 昼寝ならベッドでしたほうがいいんじゃないかな。
書き終わる前に先生が老いてしまいそうだね。 もしや未完成のままの本を自分の棺に入れる気で? 僕しか話し相手がいないからってねえ。
[ それは勘弁願いたい。 片眉を上げ大袈裟に肩を竦めて見せると 不健康に白い顔が思いっきり顰められた。 先生は僕のことがあまり好きではないのだ よく知っていることだし、改善するつもりもない。 ]
(21) 2017/07/16(Sun) 21時半頃
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先生。 親は子を選べないけれど、 物書きは自分が生むキャラクターを選べるんだ 僕を生んだのもこんな性格にしたのも紛れもなく貴男さ。
[ 何しろそんなことをしては物語が破綻してしまう。 作家によって生み出されたキャラクターは 生みの親の手を離れ独り歩きをしてはいけない。 ね、当たり前のことだろう。 先生も何も言えなくなったみたいだしね。 眉間の皺がお前と話したくないだけだと言っているけれど。 ]
(22) 2017/07/16(Sun) 21時半頃
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さあさ僕の相手が嫌なら頑張るんだよ大先生。 世界上の子供達が貴男のファンタジーを待っているのだから。 ほら、目に浮かぶようだろう? この物語を嬉しそうに読む少年少女の姿がね。
[ 肩を叩き、明るく呼びかけたのならば 分かっていると鼻を鳴らしてまた机と向かい合う。 その色の悪い唇の端をほんの少し持ち上げたのなら 掃除をしてくれる誰かも見つけられるかもしれないのに。 けれど、これが僕の生みの親だった。 だからそんな先生を見て代わりに笑うんだ。 ]
(23) 2017/07/16(Sun) 21時半頃
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……おやおや、まあまあ。
[ 因みにこの後84分後、筆が乗って来た頃 色男の王子様の出番を沢山おくれよと言ってみたら その言葉は清々しい程に無視された。 児童文学作家にあるまじき冷たさである。 ]*
(24) 2017/07/16(Sun) 21時半頃
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[一緒に歩いた下り坂の日射し。 ふたりきりの花火大会。浴衣の柄。 手元の線香花火。落ちる火。お線香の香り。
――久々の、ひとりの通学路。 自転車は、蔓に絡めとられてそれきりです。
せんせい。夏は鮮やかなものなのですね。 生も死も、きらきらと、濃くも刹那に過ぎゆく季節。
夏に限っては、ご自分の故郷の行事や思い出に こだわっていらした、『わたし』のせんせい。 とある方の死に顔を睫毛の先まで描いては消し 消しては仄めかすペン先の揺らぎを、『わたし』は かくと分かってはおりませんでした。
ほんとうに、ややこのよう。お恥ずかしいわ]
(25) 2017/07/16(Sun) 22時頃
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先生、朝顔は忘れません。 夏の匂いも、楽しさも、寂しさも。
[陰も陽も際立って生彩を放つ夏。 花萎れてのちも、種を残すでしょう。 先生の中の故人の面影が『わたし』に託されたように]
夏の素敵なところ、色んな方にお伝えしてまいります。 せんせいも、お忘れになっちゃいやよ。 悲しむばかりでは、いやよ。
(26) 2017/07/16(Sun) 22時頃
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――いってきます!
[別れがあれば出会いあり。
贔屓目ながら『わたし』は、ええ、朝顔は思います。他の季節にも素敵がたくさんありましたが、生命の夏ほど好ましいものはないと。
三年目の夏、朝顔は外の世界へ送り出されたのでした]
(27) 2017/07/16(Sun) 22時頃
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[ばあさんが孫に聞かせる昔話は 決まって、どうぶつが出てくるものだった。
ウサギとカメがかけっこをする話だとか。 狼がおばあさんと女の子を食べてしまって、 猟師さんに倒されてしまう話だとか。 ロバがイヌやネコ、ニワトリと 音楽を奏で仲良く暮らすまでのお話とか。
暖炉の前で、孫に聞かせるものがたり。 おれはそれを、シマリスの姿で本の上に座って 心地よい子守唄の代わりとして、聞いていた。]
(28) 2017/07/16(Sun) 22時頃
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『ねえ、おばあちゃん。ロバってどういういきもの?』
「あぁ…それはねぇ。」
[孫に強請られるたびに、ばあさんは微笑んで。 暖炉の前から立ち上がり、"おれ"を抱えて戻ってくる。
そして楽しそうに、おれを開いて語るんだ。]
「おまえがそういうと思って ロバの頁も……ほら。ちゃんとあるんだよ。」
[ばあさんは、元々絵本作家だったらしい。 引退をしたばあさんがおれを描き始めたのは、 まだ小さな孫のため。幼くてもわかるような図鑑を、 自分の手で描いてあげたかったからなんだと。 おれはそう、ばあさんの部屋にいた他の本から聞いた。]
(29) 2017/07/16(Sun) 22時頃
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[『ホレーショー』と名付けられた凛々しい犬は。 図鑑の案内役として、最初の頁から最後の頁まで、 至る所に出てきては、その頁のどうぶつの解説をする。 それは白い犬で。黒い首輪をしていた。
……その犬が絵本に描き加えられたのは、 おれが、ばあさんの足元を駆け回り、 靴下をひっかいて我儘を言った次の日だったんだ。
それまでもばあさんはおれが話しかけると、 返事はなくとも微笑むように見えたものだったがな。]
ばあさん。おれ、気に入ったぞ。 この犬……すげえ、かっこいいじゃないか。
[───全部は見聞きできなくとも。 ばあさんに、おれの声は届いているのだと。 おれは嬉しくなって。白犬の姿になっては。 孫のための『どうぶつ図鑑』を描くばあさんの足元で わうん!と、尻尾を振って鳴いたんだ。]
(30) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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[────"読めば死ぬ"。 そんな本の存在を、ご存知だろうか。
何て事無い、ただの与太話。 誰もがそう、一笑に付す存在。 虚しい噂ばかりが一人旅して、 遂に誰にも手に取られる事の無くなった、哀れな存在。
故に、誰が記したかも知られておらず。 今や、どんな物語なのかを知る人はほんの僅か]
(31) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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[本が作られたのは、随分と昔の話だった。
作者は、そう。ジョン・ドゥとでもしておこう。 彼は、ありったけの絶望でもって、 この世の地獄の様な悲劇を描ききった。 妥協も慈悲も、一切無く。 ただ只管、自らの嘆きを表現する一つの手段として。
絶望の物語が綴られるのを、 主人公の男は、いつもの顰めっ面で見詰めていた。 悲劇の主人公。 そうあれかしと望まれるがまま、、 生まれたその瞬間から、笑顔というものを知らない]
(32) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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[やがて本は完成し、売り出され。 最初の内は人目につく事もあったが、 その過激な内容から、忌み嫌われる様になった。 そしてその大半が、焚書されてしまったという。
それならそれで、幸運だったろう。 読む者は少なくとも、 一部の書痴に愛でられるのなら、それで。
この本の悲劇は、要らぬ噂を招いた事。 ただそれは、ジョンからしたら、 望む所だったのかもしれない。
その本の"存在"は、少なくとも その時代を生きた人々の心に、刻み込まれたのだから]
(33) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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[死を呼ぶという噂が偽りだろうと、 そんな本を手元に置く人間なんて、そう居はしない。
偶然それを手に入れた善人だろうが、 噂を聞きつけ手に入れた奇人だろうが。 その本を手に入れた人間は、 噂を聞くか、その絶望的な内容を読み、 誰もがすぐに、手放してゆく。 再び古書店に並ぶその本を前に、 "嗚呼 あの本がまた、持ち主を殺したんだ"。 そう囁きあう姿が、よく見られた。
手に取られたかと思えば、すぐに他の誰かの手元へ。 目まぐるしく変わる、己の所有者。 うんざり。そう表現するのが正しい。 男はいつだって、自分の居場所を求めていた]
(34) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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一人、二人、三人、四人。 ────……さて、後何人でしょう。
[その本を横目で見て、素通りしていく人々の数。 その数ばかりが増えて、 つくしかった装丁は、日毎輝きをうしなってゆく。
物語の主人公としてつくられた日の事など、 遠い記憶。覚えていない。 哀れな本、その悲劇の主人公として 男はただ、其処に存在するだけ。
そうして今日もまた、男は居場所を無くすのだ。 次は何処にゆくのだろう。嗚呼……
────もう、うんざりだ**]
(35) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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[ ねえ先生、ボクの次の相棒は誰なのかな! ]
(36) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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奴らに死を!奴らに死を! 今こそ自由を!今こそ自由を!
剣を取れ!戦え!殺せ!
・・・ああ、これは俺のあるべき姿だ。
だが違う。何か・・・俺はもっと、別のものを見てみたい。
(37) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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[ いくつかの、ぼうけんのおはなし。 もしかしたら、恋のお話。怖いお話。 紙にペンを走らせる先生いわく、 ボクが出てくるこの本は、 "おむにばす" っていうんだって。 おんなのこも、おとこのこも、 おじいさんもおばあさんも、 たくさんの人が主人公で出てくる、色んな物語。 でも、だけどたったひとつ、先生のこだわり。 全部のお話に共通して出てくる登場人物が、 このボクなんだ。 ]
(38) 2017/07/16(Sun) 22時半頃
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幾度となく叫ぶ己の元(ベース)。
これは・・・狂気か。
俺のベースは狂気に満ちている。 火刑台が近付くにつれ、より強く。
激しく燃える憎悪の炎は、伝記の中の俺をも蝕む。
・・・あるいは、創られた時には既に。
(39) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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[ あるときは彷徨い、 見つけて貰った主人公にご飯を貰ったり、 あるときは主人公と敵対して、咥えた針で戦ったり。
主人公そのものになれない、 物語の間をお散歩するボクだけど。 でもでも、それだって、先生の紡ぐ物語を見られれば、 きっと幸せなんだよ。
ねずみだからって馬鹿にしちゃあいけない。 ボクはみんなの言葉が分かるよ。 だって大好きな先生のねずみだからね! ]
(40) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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「しあわせはすぐそばにあっても、なかなか気がつかない。 それはとても、もったいないことだと、思わないかい?」
(41) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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[そんな口癖を持つ作者は、 自分が執筆した本を通して、読んでくれた人に 当たり前の幸せの尊さを、広めたいようだった。
世界じゅうの子どもたちが、幸せになれるように。 幸せを、見つけられるように。 作者はそう口にしては、筆を進めていく。
わたしは、そんな 優しくて博愛主義の作者の顔を見上げながら。 くすりと微笑んだ。]
(42) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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[ たくさん、たくさん。 時が経って物語も増えていけば、最後には。 かたちになって、あるところへ行くんだって、 先生は満足そうに呟いていた。
"いってきます"をするときの、 先生とボクとの思いは、きっと同じだったよ。 もしかしたら、主人公 ── もとい、 ボクのたくさんの相棒たちも、 同じだったかもしれない。 ]
(43) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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[ 人間と獣、二つの国の戦いを描くストーリー 主人公に聖なる銀の剣を授ける人の国の王子 それが物語の始まりでの僕の役目である。
主人公、彼は輝く剣と共に旅に出る 悪しき敵を斬り捨て、美しい娘を助け 時には秘宝を見つけ仲間と喜び合い 心優しい獣に出会い価値観が揺らぐこともある。 広い世界を知って大人になっていくのだ。
見送るばかりの王子には知り得ない筈のその内容を じっくり読み耽り、息をつく。 ]
(44) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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悪魔が出てくるのは少し唐突だけれど
面白くなってきたじゃないか、ねえ。 これはきっと先生のヒット作になるよ、間違いないさ。 そうしたらもっといい部屋に住めるよ 掃除婦…… いいや、ちゃんとした伴侶だって望めるかもね。
[ そしてその時、君は 自らの本の登場人物などと話す必要は無くなるのだ。 ]
(45) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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──そうね。その通りだよ、パパ。 幸せは、すぐそばにある。 いつ、どこであっても、みんなのそばにある。
……パパ。 もっと、もっと、愛にあふれた世の中になってほしいよね。 些細なしあわせの大切さ、わたしがみんなにひろめるから。
(46) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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[ 読んでくれるきみへ。 きみの大切な主人公と、"ボク"は、どれかな。 どうか聞かせておくれ!
そしてどうか。 相棒とボクが体験した全ての気持ちを、 きみと一緒に、感じたいんだ。 ]
「ちゅう」
[ ……インクで綴られたボクの声は、 たった一言、だけどね? でも、たくさんの思いはこもってるよ。 ほんとうだってば! ]
(47) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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[そう言って、わたしは作者にだっこを求めるように、両腕を伸ばし。]
だから、パパのもとから離れるのがさみしいなんて。 ぜいたくは言わないわ。
[囁く。]
(48) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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……おやおや、まあまあ。
[ 情けなく感傷的になっていた。 怪訝そうな先生に「なんでもないよ」と笑いかける。 この物語が、僕が登場する場面が子供達に読まれるまで あとどれくらいだろう?
開け放たれた窓から吹き込む風 埃を舞わせ、頁を捲り、 けれど僕のマントは靡かない。 ] *
(49) 2017/07/16(Sun) 23時頃
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