162 絶望と後悔と懺悔と
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[怖い夢に震えるように、 意識の落ちた後も血の気の戻らない少女の背に 規則正しい、緩やかな拍子が刻まれる。>>0:432
痛いほどの力の込められた手から徐々に力は抜けて 握り返してくれる手に、細い指が絡んだ。
それから幾らも立たないうちに、 階下の喧騒に起こされて、少女は瞼を上げた。]
…………りょうお兄……
[どうしてここに? という眼で涼平を見上げたのは束の間。
すぐに状況を思い出して、顔色を青褪めさせた。]
(4) 2014/02/08(Sat) 00時頃
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[リカルダの声がする。
まだ涼平に上半身を預けたまま、少女は振り返った。]
リッキィ……!!
[良かった。 無事で良かった。
安堵と不安の綯い交ぜになった声でリカルダの名前を呼ぶ。]
……え、
[もうだめかもしれないと溢すリカルダの顔を見て]
……っ、
[少女は自分の足で立ち上がった。]
(8) 2014/02/08(Sat) 00時頃
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[涼平と手を繋いだままリカルダの傍まで歩き]
逃げ、よ……。
[そこで漸く涼平の手を離し、リカルダの手を取った。 寄木細工の箱は左手に、リカルダの手を右手に。
声も手も震えている。 けれど、少女ははっきりと言った。]
逃げよう、リッキィ!
[ここにいては駄目なのだ。 蹲っていても事態は悪くなるばかりだと、 なぜか少女は知っているようだった。
扉の方に明之進も見えた。]
明ちゃん、他のみんなは?
(16) 2014/02/08(Sat) 00時頃
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……うん。
[絶対と言い切る涼平に、少女は頷く。 信じるしかない、今は。]
……うん。
[二度目の返事は、普段の少女からは 想像もつかないほど力強く。
絶対に離さない。 決意を胸に、リカルダの手をぎゅっと握り直し、 明之進を──その手の中の幼い子を、見た。]
お外……うん。
[先導してくれる涼平の後に従って、 少女はリカルダと共に走った。]
(34) 2014/02/08(Sat) 00時半頃
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[黒煙が、天井を舐めるように迫り来る。 両手の塞がった少女は出来る限り息を止めて 孤児院の子供たちが慌てて逃げる際に散らかした 転がる物を避けながら懸命に足を進める。
足元と、隣にばかり気をやっていたから 明之進が気付いたモノの気配に気付くのが遅れた。
ふっと、頭上に影が出来る。
顔を上げた少女の前に、 >>39涼し気な美貌を残忍に歪ませた“女”が立っていて──]
…………
[振り上げられ、振り下ろされる爪を前に、 少女の躰は微動だにできず立ち竦んだ。]
(45) 2014/02/08(Sat) 01時頃
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[全ての光景がスローモーションで進んでゆく。 その中で少女は静止画のように立ち竦んだまま]
あけちゃ……
[自分とソレの間に滑りこむ黒髪と 着物の背に描かれた柄を眼に焼き付けて]
──────…… ッ!!
[間近から降り掛かった血飛沫の、 頬を濡らすその温かさに、少女は声のない叫びを上げた。]
(53) 2014/02/08(Sat) 01時頃
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[守備部隊の隊員が、 孤児院から出て来た少女たちを見つけて駆け寄って来る。
平穏だった孤児院の庭は、 今や飛び交う怒号と 武器が交錯する金属音に満ちている。
倒れ伏した明之進の足元で 少女は厭厭をするように頭を振って、 明之進に縋ろうとするけれど──]
……あっ、いや、はなして……リッキィ!!
[誰かに腕を掴まれ、引き寄せられた。 非力な少女は抗う術もなく、 リカルダと繋いでいた手もあっけなく解かれた。]
(64) 2014/02/08(Sat) 01時半頃
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[白い軍服の守備隊員に荷物のように脇に抱えられ 安全な場所まで連れて行かれる少女の眼に、 別な守備隊員がリカルダに手を伸ばすのが見えた。
けれど、その守備隊員の手は横から伸びた爪に切り裂かれ]
……リッキィ……!! 逃げ……
[それを成した女の凶爪が、 自分の名を呼ぶリカルダの背に 袈裟懸けに振り下ろすのを、見た。]
(79) 2014/02/08(Sat) 02時頃
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─ 孤児院 ─
[>>)2女の爪は過たずリカルダの肩を切り裂いた。
花吹雪のように鮮血が散り、地面を赤く染める。]
はなして……! はなしてぇぇぇ!!!
[叫びながら、非力で小柄な躰がいくら暴れようと 屈強な守備隊員の腕は解けない。 が、運ぶには支障を来すその荷物を大人しくさせる方法に 守備隊員は手刀を選んだ。
首筋に感じたのはごく軽い衝撃。 踏みつけられるリカルダを泣きそうな顔で見ながら 少女の意識はそこで一度ぶつりと途切れた。]
(104) 2014/02/08(Sat) 12時頃
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[孤児院を舐め尽くした炎は 轟々と音を立てて窓という窓から赤い手を伸ばす。
撤退を開始した守備部隊の一人の腕の中、 目を覚ました少女が見たものは 炎に包まれ黒煙を吹き上げる我が家の姿と、 地面に転がった誰のものとも知れぬ無数の屍体と──
──ジョージの首。
自分たちを守ってくれていると信じていた 黒い門が遠ざかるのを眺め 少女はまた意識を失った。]
(105) 2014/02/08(Sat) 12時頃
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─ ─
『贖いをなさい』
[女が言った。 流れ落ちる黒髪の、美しい顔をした女だ。]
(106) 2014/02/08(Sat) 13時頃
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『贖いをなさい──菖蒲』
[女は──母は繰り返した。
──違う。 これは鬼だ。
母ならこんな風に、 父の首を抱えて穏やかに笑ったりはしない。
だから──これは鬼。 母の顔を真似た、怖ろしい鬼なのだ。]
(107) 2014/02/08(Sat) 13時頃
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[夜風が強く吹き付け、桜を舞い上げる。 少女は眼を瞑る。 鬼も──鬼が抱えた首も、一瞬視界から消えた。
眼を開けた時、少女の手には一振りの小刀が握らされていた。 鬼は小刀を握らせた少女の手を上から握りこみ]
『贖いなさい』
[また、そう言った。
鬼が近づくと、生首の──父の白く濁った虚ろな眸も近づく。 少女はそれが厭で、首を振る。]
(108) 2014/02/08(Sat) 13時頃
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[母が──違う。鬼が首を捨てた。 父の首が転がってゆく。 首はすぐ傍の桜の木の根本で止まった。
少女はほっと息を吐き出す。
一瞬意識の外へ追いやられていた手が持ち上げられる。 小刀を握らされていた右手が。 少女の意志に反して、鬼に導かれ。
──鬼の喉を、貫いた。]
『贖いなさい菖蒲。
───産まれて来たことの罪を』
[鬼は──微笑っていた。]
(109) 2014/02/08(Sat) 13時頃
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─ 春雨の降る日 ─
[孤児院の養母に助けられてすぐ、少女は気を失った。
目を覚ました時、最初に見えたのは着物の少年>>96 自分を見下ろす眼差しの空ろに、何か──記憶を刺激されて 少女は片目を瞑って、こめかみに走った痛みをやり過ごした。
菖蒲──。 その時浮かんだ名は、すぐに記憶の底に沈んで行った。
そんな名前は知らない。 その名は酷く怖ろしいものだ。
自分は──そんな名前では呼ばれていなかった。
目を覚ました少女に気付いた少年が養母を呼びに行ったか あるいはその場で名を尋かれたか。 だから少女は、もう一度『あや』と繰り返した。 哀しいことの起きる前、呼ばれていた二文字を。]
(110) 2014/02/08(Sat) 13時半頃
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[まだ冷たい春の雨に長時間晒されていた幼い躰は、 それから数日、高熱に苦しんだ。
再び目を覚ました時には、 微かに残った朧気な記憶さえ真っ白に塗り潰され、 生まれたての赤子のような無垢さで、 歳よりも幼い笑みを浮かべ、傍にいた人の手を握った。*]
(111) 2014/02/08(Sat) 13時半頃
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[柔らかに過ぎて行くパステルカラーの日々を、 暴力的なまでに鮮やかな赤が嘗め尽くしてゆく。
黒鉄の門も、庭に生える草木も、血と炎に飲み込まれた。
リッキィが泣いている。 いつもはしっかりもののリッキィも 一旦泣きだすと、撫でてあげなければ眠れないのに。
どうして離してくれないの。 彼女の傍に行って、その手を握ってあげないと。
わたしは──“また”、失ってしまう。]
──…!!
[夢の中で伸ばした手は、現実の空を掴んだ。
そこは寝台の上。 目の前に広がる景色は、いつもと違う見知らぬ天井──。]
(112) 2014/02/08(Sat) 14時頃
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─ 帝都 守護部隊隊員養成所 ─
[孤児院のものよりも柔らかく、温かな寝台。 空の手がシーツを掴み、ぎゅっと握り締めた。
枕元に寄木細工の箱を見留めると それを大事そうに抱え、寝台を降りる。
白かったぶかぶかのTシャツは 襟ぐりを中心に腰の辺りまで赤い飛沫が散っている。 震える手で自分の顔を撫でると、 乾いて固まった血がぼろりと剥がれて落ちた。]
(117) 2014/02/08(Sat) 15時半頃
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[頬を濡らした温かさを思い出し、 血の気の失せた唇をきつく噛んで、 少女は他の仲間を探し始めた。
同じ部屋、何人の子供が寝かされていただろうか。 けれど、見つからない子供もいる。
明之進が、リカルダが、真弓が、零瑠が、直円が──。 ──他にも、数人の子供が行方不明のままだった。
勝手にそちこちの部屋を出入りする少女を見つけ、 状況を教えてくれたのは安吾。
連れて行かれたのだと聞くと 少女は泣きそうに表情を歪め、 しかし涙を堪え、円の元へ案内を乞うた。]
(121) 2014/02/08(Sat) 15時半頃
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アヤワスカは、理依も──連れて行かれ──た、と安吾は言っていた。
2014/02/08(Sat) 15時半頃
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[暴れ疲れて眠る円の手を、 少女は起きるまでずっと握っていた。
離してしまったリカルダの代わりのように 何度も何度も手の甲を撫でて。
それから、円の怪我が治るまで、 少女は毎日円の病室に通って、 夜、彼女が眠るまで寄り添った。
けれど、少女の笑顔は日に日に減って行く。 円を安心させるためにだけ向けていた笑顔も、やがて──。]
(123) 2014/02/08(Sat) 15時半頃
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─ 病室へ案内される前 ─
[>>134痛い所はないか問われ、少女は黙って首を振った。
何処も痛くはない。 リカルダも、明之進も、死ぬほど痛い思いをしただろうに。
自分だけが、無傷でいる。
──痛い。
抱き締めた箱の下、 心臓を何者かに握られたような心地がした。]
(137) 2014/02/08(Sat) 17時頃
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[おいで、と言われて素直に歩み寄る。 僅かの間にやつれ、青褪めた顔。 手の届く位置に降りてきた安吾の袖に少女の手が伸びた。]
みんなはどこ?
[やっと開いた唇から、短い問いを発して袖を握る。
強張った表情で、 言われるがままに深呼吸を行う様は人形めいている。
安吾の話を聞き終わった時には、 全身が蝋のように白くなっていた。]
(138) 2014/02/08(Sat) 17時頃
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[少女は首を振る。 安吾の自嘲を否定するように。]
おじさんのせいじゃない。
……鬼が。 鬼が、来たんだもの。
[一瞬、安吾から視線を外し、 遠くを見る眼差しを斜め下へ投げかけ、 少女はそんなことを言った。*]
(139) 2014/02/08(Sat) 17時頃
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アヤワスカは、病室へ向かう道中、握られた少女の手は氷のように冷たかった。*
2014/02/08(Sat) 17時頃
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あんごおじ……お兄ちゃんから教わりました。
[少女の中では齢三十を超える安吾の教え通り 彼の名を告げるとすんなり中へ通された。 病室は複数あるのか、それとも病状で分けられているのか 周の姿はそこにはなかった。
冷たい手で眠る円の手を握り、 飽かず何度も擦っていれば少しは手も温もりを取り戻す。
眠る円の横顔を見ていたら 昔のことを思い出した。
数少ない、少女が孤児院の外に出た日のことを。]
(165) 2014/02/08(Sat) 18時半頃
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[ある暖かな日。 少女は歳の近い円とリカルダと、 庭で鬼ごっこをして遊んでいた。
何度目かのじゃんけんで、 グーを出した少女は鬼の役になった。
全力で駆けまわり高揚していたのもあってか、 そのうちに円が、黒い門を抜けて、 孤児院の外に駆け出して行ってしまった。
少女は最初、戻っておいでと呼びかけながら、 外にいる円を門の内側から見ていたけれど 捕まるまで戻る気のなさそうなはしゃいだ笑い声を聞いて 意を決してリカルダと共に門の外へ出た。
そして、いくらも走らぬうちに、 円は見知らぬ少年達の一人にぶつかった。]
(166) 2014/02/08(Sat) 18時半頃
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[少年達はすぐに円を取り囲み、円を指差して笑う。
少女とリカルダもすぐに円に追いついて 円を庇うように二人で挟んで、ぎゅっと手を握った。 質素な服装や生活を笑われても、 何も口答えせず三人で固まっていたけれど 少年たちはいっそう調子づいて手を伸ばして来た。
殴られる──と、身を固くして眼を瞑った少女に、 少年のが届くことはなかった。
>>145声が聞こえて。 恐恐眼を開けた少女は、 自分たちを庇うように立ちはだかった少年の背中を見た。]
(167) 2014/02/08(Sat) 18時半頃
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[余裕で見知らぬ少年達を追い返した少年は、 孤児院に来てからまだ日の浅い、周──と言ったか。
颯爽と顕れて助けてくれた周の背中は、 ヒーローのように見えた。
肩で風を切るような荒々しさに それまでは近寄りがたかった少年を、 少女がお兄ちゃんと呼び始めたのはこの日から。
孤児院に帰るまで、少女は周の服の裾を握っていた。 以来、益々少女の足は外から遠のくことにもなったけれど。*]
(168) 2014/02/08(Sat) 18時半頃
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─ 記憶 ─
[足が竦んでしまう程、外への恐怖は強い。 それは正体のわからぬ恐怖であるが故に、いっそう。
一人だったら、円を追ってはゆけなかっただろう。 あの時、怖いながらも外へ出てゆけたのは >>191リカルダが、大丈夫かと尋いてくれたからだ。
いつも気に掛けてくれるリカルダ。 大好きなリカルダ。
リカルダが一緒なら、どこへでも行けそうな気がした。]
(221) 2014/02/08(Sat) 22時半頃
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[四人に増えた帰り道。
怖くないかと尋ねる周に、 少女は不思議そうな眼差しを向けた。
少女にとってはもう、周は兄であり、 自分たちを守ってくれたヒーローでさえあったから 服の裾を掴んだ手に力を込めて、 少女は周へと、信頼しきった笑みを向けた。]
絢矢、だよ。 えっと……よろしく、周お兄ちゃん。*
(222) 2014/02/08(Sat) 22時半頃
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─ 直円との記憶 ─
[真弓とはしゃぎ遊ぶようになって 一番の被害を受けたのは直円だったかもしれない。
『弓矢だよ。 直お兄ちゃんは的ね!』 『いっくよー! ぶすー!』
真弓が少女の背中を押し、少女が走る。 両手を頭の上で三角に合わせて、直円の脇腹に突進した。 遠慮のない幼子の攻撃はそれなりの痛みを伴うだろうに 直円はいつだってにこにこと笑ってくれていた。
直円のそんな笑顔を見ると、 少女もまた、ほっとしたように笑うのだった。
その直円が、『読書会』に参加するようになり 遊んでくれる機会が減ると、 少女は時折絵本を読んでとせがむようになったけれど 直円はそれに応えてくれただろうか──。*]
(232) 2014/02/08(Sat) 23時半頃
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─ 理依との記憶 ─
[理依が“特別”を作らないこと。 それ自体を特別──と感じ取れるほど 少女は大人ではなかった。
けれど、理依が──何でもないことのように 俺は皆が好きだと言った時>>193。
──きっとその時も、少女はリカルダと一緒にいて 理依が女の敵のように扱われるのを 側で聞いた後だったのだろうけれど──。
不意に、少女は理依の手を取り、握り、 その手の甲を撫でようとした。 何故か少女には、その言葉を言う理依が、寂しそうに見えて*]
(242) 2014/02/09(Sun) 00時頃
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─ いつかの、庭園 ─
『屋敷の外に出てはいけないよ菖蒲。
外には人を喰らう鬼が──棲んでいるのだからね。』
[艶のある低い声のその人は、 着物よりも洋装を好む幼子を膝の上に座らせ、 皐月から文月に掛けての数ヶ月間 庭園のそちこちを彩る菖蒲を見ながら、 童女の髪を撫でてそんなことを言った。
物心つく前から言い聞かせられて来た文句は 考えるより先に身に沁みて。
故に──。 童女は生まれてこの方一歩も屋敷の外へ出たことはなく、 それを疑問に思うことさえなかった。]
(257) 2014/02/09(Sun) 01時半頃
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[実際──。 屋敷のあった場所は、その当時既に吸血鬼の支配下にあり 屋敷の外で、人はみな吸血鬼に怯えながら 家畜同然の暮らしに甘んじていた。
そんな区域にあって、広い庭園を抱えるお屋敷だけは、 まるでそこが異空間であるかのように、 主と、その妻と、使用人達だけを竹垣の内側に抱え、 外の惨状から彼らを遠く隔てて在った。
童女が産まれた時、お屋敷に他の児童は住んでおらず、 かつて住んでいた胡桃色の髪の少年の話は、 時折父の口から断片的に語られるのを聞くのみ。
童女にとって『兄』とは、 現実味の伴わないお話の中の存在であると同時に、 淡く──それでいて尽きることのない、 幼い憧憬の対象でもあった。*]
(258) 2014/02/09(Sun) 01時半頃
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『とうさま、どうしても──お外へゆくの?』
[童女が四歳になって間もなく、 『父』は急に屋敷を出ると言い出して、 童女と、使用人達を驚かせた。
座敷で出立の支度を整える父の背に、 童女が投げた問い。
父は答えた。]
『待っておいで。 あや、お前に兄を連れて来てやる』
[童女は不安げに菫色を揺らし、 しかし何処かしら期待の篭った眼差しで、 一振りの刀を携えて屋敷を出てゆく父の背を見送った。
そして──。 それきり二度と、父が屋敷に戻って来ることはなかった。*]
(275) 2014/02/09(Sun) 02時頃
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『お前のせいね──あや』
[父が旅立ってひと月あまりが経った頃、 戻らぬ父を待って母と庭を眺める童女に、母が言った。
紅の引かれた美しい朱唇から、 零れ落ちる言の葉は毒花のように芳しく、 童女の髪を梳る母の細い指先が柔肌に甘く爪を立てても、 童女は小さく──痛いよかあさま、と溢すのみで、 その行いに、何らの疑心も芽生えることはなかった。
───母が屋敷から姿を消したのは、その数日後。
それから季節を三つ跨いだ春の夜。 母は、父の首を携えて屋敷へと帰る。
その日まで、 童女は二人の親がいっぺんに離れて行ってしまった悲しみに 泣き濡れて過ごす日々を送ることになる。*]
(276) 2014/02/09(Sun) 02時頃
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─ 帝都守護部隊隊員養成所・寝室 ─
[目覚めた少女の胸を占めるのは、哀痛と悔恨。 夢現に入り交じる喪失感に、 天井を見上げる少女の瞳は脆く揺れた。
けれど──少女は奥歯を噛み締め、 濡れた瞳が乾くまでそうしていると、 やがて立ち上がり、寝台を下りて部屋を出た。]
(288) 2014/02/09(Sun) 02時半頃
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[血塗れた服は洗いもせずに部屋に丸めて置いてある。 洗うか捨てると言うのを、少女が拒んだからだった。
代わりに支給された服は、 動きやすい綿のズボンと上着。
それでも痩せぎすの少女にはぶかぶかすぎるそれを ベルトでかなりウエストを絞って履いていた。
円はまだ病室にいて、 怪我の治療に専念している。 けれどそろそろ、 こちらの部屋に移って来るだろうとも聞いていた。]
(294) 2014/02/09(Sun) 03時頃
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[病室の看護師から聞いた、隊員の部屋の前。 少女は笑まぬ瞳を扉に据え、 身長に見合った随分低い位置を、拳で二度叩いた。
そこは──ジャニス・ハイムゼートの部屋だった。]
(296) 2014/02/09(Sun) 03時頃
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わた……、ボクを、隊員にしてください。
[中に招かれ、問うような瞳を向けるジャニスに 開口一番少女は言った。
菫色は怒りも悲しみも顕にはしていなかったが、 真っ直ぐにジャニスを見上げる眼差しだけは 何を問われても揺らぐことなく 頑なに、同じ言葉を繰り返した。]
ボクを守護部隊の仲間に加えて下さい。
[少女に守護部隊の話をしたのは病室にいた看護師の一人。 円も、理解出来たかはわからないが、 少女と共に、話だけは聞いていただろう。
望めば、部隊員として鍛えてくれるという話。 詳しい話は、隊員に直接聞け──と。]
(297) 2014/02/09(Sun) 03時頃
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[安吾でなくジャニスを選んだのは。
安吾は──優しい安吾は、自分の願いを断るかもしれない。 そう、幼心に考えたからだった。
少女の決意は変わらない。 力を蓄え、二度と大切な人の手を離さないために──]
何でもする。 強くなれるならボクは───…、
何にでも、なる。**
(299) 2014/02/09(Sun) 03時半頃
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[与えられた聖水銀の最初の一杯に 少女は躊躇なく手を伸ばした。
細い、棒きれのような手には 大きすぎるくらいのコップを顔の前まで掲げ]
“ ”
[唇を微かに動かし いつかの──目指す『その日』を思い浮かべ 咲き初める桜のような、淡い笑みを浮かべた。
息を詰めて、満たされた液体を飲み干す。 雫の一滴さえ残さぬように。
これが──少女の見せた、最後の笑み。]
(326) 2014/02/09(Sun) 10時頃
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─ 現在・帝都守護部隊隊員養成所 ─
[夜明けを待つ訓練場。 地平線は藍から東雲へと色を変えつつある。
他に人のいない、ガランとした空間に 響く──規則的な風切り音。
空気はまだ蒼い。 吐く息の白さごと空間を真横に切り裂くのは 刃のない訓練用の模擬刀。
それを握る腕は、五年前と較べ、 細くとも靭に伸びた少女の右腕だった。]
(330) 2014/02/09(Sun) 12時半頃
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[左の腕には模擬刀を収めていた白鞘を握り、 規則正しく、淡々と、澄んだ樋鳴りを重ねてゆく。
纏う装束は膝上まで裾を断った小袖。 色は烏羽。
死者を悼む黒に近く──しかし決定的なそれを否定した色合い。
小袖の袖を翻し、少女は只管に空を刻む。]
(331) 2014/02/09(Sun) 12時半頃
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[『聖水銀の試練』の日より、 少女は着物を好んで身に付けるようになった。
あの日──全身を千々に裂かれるような痛みの中で、 少女は幾つかの消し去りたい記憶を取り戻した。
家を出た父の末路。 母の乱心。
────己の犯した、その罪を。
紅に嘗め尽くされ崩れ落ちた孤児院とは違い あの桜と菖蒲の咲き乱れる不可侵の庭園は 今も何処かで穏やかに朽ちているのだろうか。
幼さ故に、断片的な記憶には謎も多いけれど。
少女は──父と母の名と貌と、 兄になる筈だった人の名前を思い出した。]
(332) 2014/02/09(Sun) 12時半頃
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[試練に耐える夜、痛みを感じたのは躰のみならず。 真に引き裂かれそうだったのは心。
四と十一の歳、 己の頬を叩いた血飛沫の温かさが 忘れようにも忘れ得ぬ血汐の腥さが 何度も、繰り返し少女を責め立てた。
同室の少女は、側にいただろうか。 深夜、縋る相手を求めて彷徨い出す手を 少女は己の肩に爪を立てて留め、 枕に顔を埋めて声を殺した。
くぐもった呻き声は時折数名の名を成し 夜明けを前に、遂に震える腕が虚空へ伸びた。
その手は最後、誰かに掴まれたように一度震え、 不意に脱力し、寝台に落ちた。]
(333) 2014/02/09(Sun) 12時半頃
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|
[この日、枕に吸わせた雫を最後に、
少女の眼から──涙は涸れた。**]
(334) 2014/02/09(Sun) 12時半頃
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アヤワスカは、イアン(安吾)の訓練の最中も、表情を変えることはない。
2014/02/09(Sun) 13時頃
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[円が不安定に泣き叫ぶ夜、 少女は──絢矢は、円の手を握り、撫で それでも落ち着かなければ、円の肩を抱いて 眠りにつくまで背を撫でてやる。
円が朝まで眠らぬ夜は、絢矢も朝まで寄り添う。 そんな日は、円が寝付くのを見届けてから、寝ずに早朝修練に出た。]
円──円。 大丈夫だよ。 ───大丈夫。
[円を抱いて、耳許に囁く静かな声に かつてのような無邪気さも豊かな抑揚もない。
涙は捨てた。 笑顔は忘れた。
それでも──。家族が困った時、 絢矢のとる行動は昔のまま、何も変わってはいなかった。]
(404) 2014/02/09(Sun) 20時頃
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─ 波羅宿 ─
[某日──。
帝都に吸血鬼の侵入ありとの報告が入り、 偵察隊の調査により吸血鬼二匹の姿が確認された。
数の多寡と敵の実力を鑑み、 派遣されたのは絢矢を含む孤児院組。
判断したのはジャニスか安吾か──。 サポートに、どちらか──あるいは二人とも 付いて来ていたかもしれない。]
(416) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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ターゲット確認。 一匹はスクランブル交差点内にいる。
もう一匹は──上。
[建物の陰から状況を窺っていた絢矢の視線が 109ビルの屋上を見る。
身に付けているのは既に着慣れた烏羽の小袖。 袖に淡い桜の花弁散るそれは実戦用にと誂えたもの。
周と並ぶと、夜桜が軍服の スタンダードであるかのようにも見える。]
下はまだ若い個体。 恐らくは上の一匹がリーダー格。
叩くなら先に若い個体から 一気に囲んで──潰す。
(418) 2014/02/09(Sun) 21時半頃
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[交差点の中央で辺りを見回しているのは 白い長髪に紅の眼の少女。 周囲に獲物の姿がないことに苛立っている様子。
先遣隊の指示で波羅宿からは既に人払いが済んでいる。 屋上の個体は赤毛に眼帯の男。]
多分──気付いてる。 だけど恐らく、あれは監視役も兼ねてるから すぐには攻撃して来ない。
念のため目を離さないで。
北と南に分かれて挟撃だ。 ボクは──北から行く。
[周の問いに瞬時に答えを返す。]
(423) 2014/02/09(Sun) 22時頃
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[サミュエルのように素早く走れる足はない。 周のような変幻自在の動きを可能にする筋力もない。
体力もリーチも兄達に劣る絢矢が選んだのは 足りない武力を智で補う方法だった。
修練の合間に戦術書を読み、 先輩隊員に実戦さながらの訓練を頼み 兄妹達と幾度も模擬戦を重ねて動きを叩き込んだ。]
(424) 2014/02/09(Sun) 22時頃
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アヤワスカは、白い方は気付いてない──と追加報告。
2014/02/09(Sun) 22時頃
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[周はいつだって自ら先陣を切ってゆく。 敵の視線を引き付け攻撃を集め、 後方が戦いやすい陣形へと導く。
最も命を落としやすい危険な役目を 彼は進んで引き受ける。
けれど──絢矢は黙って頷いて、北へと走り出す。 南へ向かう周の姿は見ずとも動きはわかる。
昔のように服の裾を握って 後をついてゆくことはなくなっても 絢矢の周に対する信頼は変わってはいない。]
(426) 2014/02/09(Sun) 22時頃
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[隻眼の吸血鬼は109ビルの上から にやついた表情で地上を見下ろし、
9……8……7……とカウントを始めた。
南から複数の帝都守護部隊が現れるのを見ても 余裕の表情は崩れない。]
───、
[北の路地へ素早く移動しながら、 絢矢は109の屋上から目を離さない。]
(431) 2014/02/09(Sun) 22時半頃
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[名乗りを上げる周の声が波羅宿の空気を震撼させる。 表情は変えずとも、奮い立つものがある。
屋敷の外へ出ては行けないという、 父の言葉を鵜呑みにしていた童女はもういない。 黒鉄の門の中で少女を守ってくれていた家はもうない。
絢矢は──いくらかの人間らしさを犠牲にして 自らの足で竹垣の外へと歩み出した。]
(433) 2014/02/09(Sun) 22時半頃
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[絢矢の側には誰がいたか。 北の路地に身を潜め、右手を翳して待機を促す。
もう少し──あと少し。
長ドスと九節鞭の連携は幼い吸血鬼を容易く追い詰める。 そのまま二人で息の根を止めてしまえるだろう実力差。
けれど、二人がそれをしないのは 万一の反撃──窮鼠が猫を噛むことのないように 一部の隙さえなく敵を圧倒するためだろう。]
(446) 2014/02/09(Sun) 23時頃
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[109ビルの上では、赤髪隻眼の男の吸血鬼が 平坦な地面を歩くような自然さで 屋上の端を蹴り、地上へと降りて立つ。
周とサミュエルは、男に背後を取られる形。]
(447) 2014/02/09(Sun) 23時頃
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[少女の吸血鬼は男の参戦に気付いていないまま 二人の襲撃者から逃げる為路地裏へと駆け込んだ。
片手を切り落とされ、太腿を九節鞭の先端に抉られ、 長い髪は途中で断たれた憐れな姿。
紅の瞳に涙を湛えた外見は ともすると守ってあげたくなるような可憐さであるけれど]
────
[絢矢は、北組を制していた手を下ろすと 漆黒に宵闇色の刃紋の浮かぶを黒刀を構え 一歩目の踏み込みで、残る少女の片手を落とし、 次の一歩で左手を切り上げ、少女の喉を切り裂いた。]
トドメを──。
(449) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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[隣には誰がいただろうか。
仲間が少女の心臓へ 決定的な一打を叩き込む音を聞きながら、 絢矢は既に、周とサミュエルの背後に迫る吸血鬼へと 漆黒の二刀を構え駆け出している。
距離は──、まだ遠い。
間に合わないと知るや、 帯から抜き出したくないを一本、 隻眼の吸血鬼の残った瞳へと投擲した。]
(451) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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アヤワスカは、投げたくないが狙った的を貫くのを見た。
2014/02/09(Sun) 23時半頃
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[編み上げの革靴が交差した縞模様の中心を蹴る。
周は──サミュエルは──。 九節鞭の先端は──吸血鬼の心臓へと──?]
(455) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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─ 戦闘後 ─
────…、
[余裕を見せていた吸血鬼も 周とサミュエルの前にあっけなく斃れた。
朱の下緒で帯に結ばれた 艶やかな黒鞘へ対の黒刀を収めると、 絢矢は背伸びをして、周の頬に手を伸ばした。]
血が──。
[周の頬についた一筋の赤を、指先で拭う。
昔のように、血を見て青褪めることはない。
──けれど。 伏せた夜色の睫毛は微かに震えた。*]
(458) 2014/02/10(Mon) 00時頃
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アヤワスカは、ビルの屋上に立つ安吾を見上げ、視線で作戦の終わりを告げた。*
2014/02/10(Mon) 00時頃
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