103 善と悪の果実
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[顔をあげれば、銃声にも動じることのない、ペラジーの笑みが一番に目に入り
少女はゆっくりと、笑みを作った。
夕闇伯の問いに答えた声はなくとも、取り落としたナイフについた赤が、直接ではないにしろ、少女がなんらかの害意をもってそれを振るったことは明らかで――]
(56) 2012/09/29(Sat) 23時頃
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っ痛――――――…
[呻き声。まるで本物の、溝鼠のようだ。 絨毯を掻き毟るように、這いずるのは止めなかった]
……指足んねぇじゃねーかクソ。 信じられねえ、あの野郎!
[左手を翳して、苛立ちを絨毯に叩きつける]
(57) 2012/09/29(Sat) 23時頃
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嫌ね 何故こう…
[主人の居室故の広さがあだになったか 少女の目には数え切れないほどの"死"が映っていた]
邪魔ばかりするのかしら
[呟きは少しずつ、少しずつ大きくなっていく。 何が始まりだったろう。 底をついた財産か 首を振った栄光か
握り締めた蝶の輝きか]
(58) 2012/09/29(Sat) 23時頃
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[放たれた銃弾。 ただでさえ赤の滲む部屋に、再び鮮血が舞う。
学者の笑みに動揺の色はない。 ただ、反射的に一歩、二歩と踏み出した足は、 駆けるように青年の元へと近づいて]
(59) 2012/09/29(Sat) 23時頃
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[地面に散らばったのは、懐中時計、弾の入っていない燧銃。 水晶のカフス釦と、暗く輝くエメラルド。それに紙片。 蓄えた財貨を吐き出した男の懐に残ったものと言えば……]
おいおい、冗談じゃないぜ……。
[先ほど受け取った、革袋だけだった]
やばいやばいやばい。
[本当に口を引き裂かれては堪らない。 粉塵が消える前に、何とかこの部屋から出なければ]
(60) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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止めて―――!!!!
[赤も黒も、全てを覆い隠す白。 その手には今、美しい翅はない。
しゃがみこみ、ようやく夕闇伯の願いの通り震えだした少女は ただ、ただ この部屋を守りたかっただけなのに、と。 自分でも忘れてしまった行動の理由を頭をよぎった願いに刷り返る。 全部いなくなれば、と。 "何か"を求めて手を伸ばす]
(61) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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――――…ご苦労様でした。
[瞳に深い闇色を湛えながら微笑みかけると、 彼が床へ吐き捨てた紙切れを拾い上げて、 そのまま扉の外へと駆けだしていく]
(62) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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[音を殺して行動するのは、この状況では無理だった。
再度引き金が引かれるならば。 或いは刃物が向けられるならば。 白いワンピースは学者の血に染まり、 それでも走る足を止めることはないだろう。
開け放たれたままの扉は、 ただでさえ薄い煙幕を押し出していく]
(63) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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[手に触れたのは、濡れて冷えた金属――拳銃。 声を永遠に失くした歌姫は握り締めていただろうか。 もしそうでも、死して間もない今ならば、たやすく少女の手に入っただろう。
撃ち方など知らない。 ましてや、中に弾が残っているかも、わからない。確かめる術も知らぬ。
ただ、わかりやすい凶器として 人の命を奪う、道具として。 一度掴んでしまえば、誰かに渡らぬよう握り締めるしかなかった]
(64) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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[遮られた視界の向こう、床に身体の落ちる気配があった。 しかし、その後に聞こえた怒声のような声に反応し、男の指が撃鉄を倒す。
刹那、室内に響いた少女の叫びに男の腕が凍り付いた。
残忍な黒猫のように笑みを浮かべる男。 淡々と、静かにほくそ笑む切れ長の目。 穏やかに、だが冷たく見詰める、白を纏う女。 ナイフを手に震え、そして、叫んだ幼い声。
粉塵の向こうに見えない物に向けて。 男の左目が震え見開かれると、二度目の銃声が響いた。]
(65) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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クソ、約束、護れよな……。
[目の前で拾い上げられる紙片。 それを掴んだ人物、微笑んだ彼女と眼が合った。 ゲラゲラと笑い出したい気分なのは間違いない。 這いずる速度は、蝸牛のように遅く、締まらない]
さもねえと、犯すぞ、クソアマ。
[無事な左手の中指を彼女の背中に向けて立てて。 最後まで、オンナ扱いかよ、と喉を震わせて嗤いだす。 後で絶対慰謝料と治療費をふんだくってやる、と]
あれ、何か……。 思 考 が上 手 く纏 まん ね え
[もう直ぐ吹き払われる煙幕を尻目に、 いつも見ていた霧のような煙る景色から、目を閉じた]
(66) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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[銃声。 白い粉がもうもうと立ち上がり視界を奪う。]
……ッ、――
[眼に粉が入り痛み滲むが、 苦悶の声が遠くない場所で上がるのを聞いて 薄っすら唇の端を上げた。]
――よい仕事だ、警官
[警官に向けての声、 しかしあの様子では下手を打てば 己も撃たれかねぬとは頭の隅に置きつつだ。
切り刻んでやらねば。 懐から剣を引き抜き、音を頼りに位置を探る。]
(67) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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姉様のせいよ…!!
[生者と死者の声の区別もつかないまま、哂い声に甲高い叫びを返す。 少女がこの屋敷で手にかけたのは、二人。 二人とも、姉様と。 甘い声で見上げていた。
悪くない、悪くないと首を振り、 部屋を飛び出した影に、追いすがろうと膝を伸ばし]
(68) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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[絹を引き裂くような悲鳴>>61の主が、 拳銃を手にしたのには、気づかず。]
――… ッ!!
[紙片を拾い上げ駆けていく足音に気をとられた刹那、2度目の銃声が響く。>>65 最早連鎖である。一度引き金を引いてしまえば、 ためらいは薄れるものだ。]
(69) 2012/09/29(Sat) 23時半頃
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[ぱぁん]
[二度目の銃声が鳴り響く。 其れは左肩を貫き、白いワンピースは朱に染まっていく]
っぐ。
[焼けるような痛みを歯を食いしばり、堪え。 青年の、"あの頃"と変わらぬ口調を背中で受け止めながら]
……優しくしてくださいね?
[ちらと一瞬だけ向けた瞳は、 彼の立てた中指を見てくすりと笑う]
(70) 2012/09/30(Sun) 00時頃
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[追いすがろうとする幼い影へ、 蛇は一瞬だけ手を差し伸べる。
彼女が手を取ったならば、共に外へと。 彼女が銃を取ったならば、更に傷を負い。 彼女が躊躇うならば、一人で部屋の外へと向かうだろう。
肩からは溢れ出す赤色。 廊下の絨毯へ染みを作っていき、 その足取りを追うことは容易]
(71) 2012/09/30(Sun) 00時頃
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[響いた銃声は、新たな赤を散らす。 哂い声も、静かに責めるような声も、 もはや応えはせず、けれど歪んだ顔は、それらが自らに向けられたものだと気づいていることを亡者たちに教えている]
兄様…
[右手に掴んだのは銃身。引き金にはまだ、指はかかっていない。 伸ばされた手に、あいた左手を 赤に濡れた手を、伸ばした]
(72) 2012/09/30(Sun) 00時頃
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私 悪くないわよ…ね
[確かめるように呟かれた言葉は それだけ抜きとれば子供の駄々のようであれど その手に持つ冷たさを、纏う赤を、奪い取った命を考えれば
あまりにも、愚かな台詞だった]
(73) 2012/09/30(Sun) 00時頃
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[開いた扉から白い煙が流れ晴れていく。 床に倒れた屍と、それから散らばる宝石類。 這いずる黒い服の青年。 小剣を片手に持つ夕闇伯は 脇腹を容赦なく蹴りつける。 眼を閉じているのが気に食わなかったのもあろう。]
――……よくもまあ集めたものだ。溝鼠。 その薄汚い手、見るに耐えんな。
[見下す目元に影が掛かり、 通常は理性で制御されていた暴君の顔が覗いている。 そのまま指を吹き飛ばされた側の手をぎりり、と踏みにじった。 硬い革靴の底に擦れ、傷口は抉られる。
肉の合間から覗く骨よ砕けよと言わんばかりだ。]
(74) 2012/09/30(Sun) 00時半頃
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くそつ…!
[見えない苛立ちは、声となって落ちる。 少しずつ視界が晴れていく室内で、見えたのは床に倒れた黒の青年の姿。 その傍らに立つ、夕闇の伯爵。 握りしめられた小剣が受けた光が男の目を打つ。]
…あんた── 何を。
[青年の腹を蹴り上げる鈍い音。 刃から滴る血。
その時、廊下を駆け、離れて行こうとする足音に気付く。 室内から、2人の姿が消えていた。
踏み出す脚が、まだ覚束ないのを感じながらも、顔の前を流れる血を拭い、男は夕闇の背中を見る。
身動きする様子の無い、黒の青年。 男は、ドアに向かい歩き出すと半ばよろめくようにして廊下へと出た。]
(75) 2012/09/30(Sun) 00時半頃
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[新たな血の匂いが撒き散らされる。 駆けて行く足音、追い縋る少女。 嗚呼、からくり舞台の一場面のようだ。 ――実に笑える。と。 夕闇伯はオスカーの手を踏みつけたまま、笑った。]
――……ふ、はは。 そうだ、その方が余程“見れる”ぞ溝鼠……
[黒髪に半分隠れた白い美貌は 狂気の注し色が濃くなっている。 ゆえに、ゆえに――紙切れの重要性に直ぐには思い至れなかったのだ。 これ見よがしに引き抜いたスティレットを唇に寄せて見せる。]
嗚呼、口を切り刻んでやらねばならなかったな。
[嫣然と囁き、剣を振り下さんとした。 しかし、慢心は隙を生む。 窮鼠猫を噛む、という言葉もあるが――]
(76) 2012/09/30(Sun) 00時半頃
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ヴェスパタインは、血に酔ったか、警官の呼びかけ>>75 は耳に入っていないようであった。
2012/09/30(Sun) 01時頃
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違う、違う違う違う違うわ!!!
[甘い笑みを持つ蛇はどう応えたか。 耳に届く否定の言葉。 「悪いのは君」だと、悪意のみが残る声が嘲笑う。
正面玄関から通じる階段とは逆へ 追い詰められた男が向かったのと同じ方向へ二人は向かう。 その先に、道はあっただろうか。 真正面のやや趣味の悪い派手なステンドグラスが 複雑な光を投げかけている。
それは傾き始めた太陽の仕業か。 伝承をなぞる、そのステンドグラスの意匠は――罪の果実は果たして其処に影をうつしたか]
(77) 2012/09/30(Sun) 01時頃
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[大階段から背を向けたのはどちらが先だったか 使用人から逃れるためか、 それとも亡者が立ちふさがったか
白煙から抜ければ、赤はより鮮やかに飛び散り 濃厚な香りを残していく]
(78) 2012/09/30(Sun) 01時頃
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[ どうでもいい。悪党が1人死のうと。 誰かが、無惨に命を奪われようと。 歪み始めたのではない。 ──初めから、そうだ。
裏切り、騙し、自分以外の誰かを顧みる事などしない。 あの女も、ここに居る連中も、そして、俺も。
追え。追い掛けろ。
そう言う声がある。 そして、呼ぶ声が、聞こえる。
──渡さない。]
『誰にも、渡さないで』
[拳銃を手に走る男の耳に、聞こえたのは、遠い過去の記憶か、それとも、幻聴だったのか。]
(79) 2012/09/30(Sun) 01時頃
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[ステンドグラスから床に落ちる光。 濁った、だが、それでいて酷く鮮やかな。
男の目は、血膜に奪われた視界と目眩で、見る物も定まらなくなっていた。 ただ、走り、撃鉄を倒しながら。
動く影があれば、引き金を引くだろう。 そこに立っているのが、誰であろうと。
そして、待ち受ける銃口があれば、或いは。]
(80) 2012/09/30(Sun) 01時半頃
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[先へ抜ける道があったとしても、それは扉の向こうだったか。 少女は気づかずに、ステンドグラスの前、足を止める。 つないだ手を離す前、ぎゅ、と力を込めて、ペラジーの手が温かいことを確かめた]
兄様… 私 悪くないわよね?
[答えを既にもらっていたとしても、もう一度、何度でも、問いかける。 小さな手には重過ぎる拳銃を両手で支え、震えながらも前へ、向かってくる男へと、向けた]
(81) 2012/09/30(Sun) 01時半頃
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[震える銃口も、重い引き金も その姿だけ見れば、追い詰められたいたいけな少女にも見える。 顰められた眉、その下の瞳は ただひたすらに深く
ともすれば狂気すら、覆い隠していた]
(82) 2012/09/30(Sun) 01時半頃
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―女主人の部屋― [鋭い刃で唇を縦に、斜めに切りつける。 抵抗あらば夕闇伯も無事では在るまいが、 それでも夕闇伯の手に迷いはなかった。 最後には、頬と床を縫いとめるようにスティレットの細い刃を突き立てた。 青年が暴れようとも力尽きようとも、それを冷ややかな濃紫の眼で見下ろし――立ち上がる。]
……―― ふん。
[後はガラクタ程にも興味を示さなくなる。 床に落ちた水晶の釦の元へと歩み寄って、 オスカーの手にしたように躊躇なく足で踏み躙った。 ばき、と澄んだ小さな音がして 職人の細工は脆くも歪み、石は欠けてしまう。]
(83) 2012/09/30(Sun) 01時半頃
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[少女を変化させた狂気は、毒は 全身に染み込み、外の皮一枚だけが"少女"であった。 果実を見、遠くから手を伸ばした少女は、善も悪も自覚はしなかったが その身を操るのは今や
―――純粋なる、悪]
(84) 2012/09/30(Sun) 02時頃
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ジェフ様、ごめんなさい いらないから、私のこと …―――邪魔しないで
[支離滅裂な言葉は、ただ望みだけを思いだけを口にする、思考の伴わない欲望。
浮かべる笑みは、やはり花のよう。 震える指はそのままに、す、と息をはけば
引き金にかけた指に、力がこもる]
(85) 2012/09/30(Sun) 02時頃
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