204 Rosey Snow-蟹薔薇村
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[>>285ノックスが立ち上がるのを見て、まず反応したのはルーツだった。 ギャギャ、と声を上げるのと>>286ベネットが顔を上げるのとはほぼ同じタイミングだった。
両者の反応に対し、ディーンはやはりいつもと同じ様子のまま。 ベネットの言葉から逃げるように、ノックスの方を向いた。]
……ああ、構わない。
[そう告げながらディーンは、ノックスの手の中にある紙を見る。 見慣れた、自分の字の記された安物の紙だ。]
(287) 2014/11/16(Sun) 20時頃
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[囁き声が、苦しげにも聞こえる音で名を呼んだ。 昔馴染みには容易く嘘が見破られるだろうことは推測できた。 しかしディーンは何も言わない。友人に余計なことを知らせたくないのだ。 彼はまだ、守るべきものを失ってはいない。
>>294ディーンは胸元に押し付けられた紙を左手で受け取る。 ノックスの批評に耳を傾けながら、数度瞬きをした。 自分の名義で発表した作品のないディーンにとって、直接評価を聞く機会は決して多くない。 聞けたとしても、他の作家や編集者の言葉ばかりだ。]
――……もう、作家じゃない。
[小さく、ディーンは呟く。物語を書くことはもうやめたのだ。]
(299) 2014/11/16(Sun) 20時半頃
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――……。
[>>298ディーンは問い掛けに、重い息を吐いた。 口は開かず、否定も肯定もしない。
それを彼はどう捉えるのか。 様子を伺うように、ディーンはノックスから視線を逸らさない。]
(300) 2014/11/16(Sun) 20時半頃
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[>>303腕にルーツのいる状態では、素早い動作は不可能に近い。 ディーンの額にぺしり、とバーナバスの指が当たった。 人が触れても極度の緊張状態に陥らなかったのは、それが認識する間もない一瞬のことであり、別のところに意識を取られていたからでもあった。 些か早く打つ心臓の辺りを紙とまとめて左手で撫でながら、ディーンは一度、緩く息を吐く。]
……僕は、何もしていない。
[それはさながら、言い訳をする子供のように。 非難するように視線は再び、ノックスを見た。**]
(308) 2014/11/16(Sun) 21時頃
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[ノックスとバーナバスが去り、ディーンはソファーに腰を下ろす。 肘かけに右肘を置くと、ようやく鳥の重みが少しマシになった。 髪で遊ぶことに飽きたらしいルーツが、辺りをきょろきょろと見回している。まるで主の姿を探すかのようだ。
>>306ラルフが淹れてくれたお茶が湯気を立てているのをぼんやりと眺めながら、ディーンは明確に溜息を吐く。 他の何かを表す為ではなく、重苦しいものを吐き出す為の。
>>320月が満ちる。 だからだろうか。 重苦しいものの中に一抹の喜びが混じっていることに、ディーンは気付いていた。]
(332) 2014/11/16(Sun) 22時頃
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[髪で遊ぶことに飽き、辺りを見回しても気を引かれるものが無かったせいか、ルーツが大きな羽根を広げる。 今にも飛び立たんとする姿勢で、上下に身体を揺すり始めた。 しかし、ディーンには羽ばたこうとする鳥の動きを制する方法が分からない。
ディーンは気遣わしげな視線をベネットに向ける。 それは>>333彼が問いを投げかけてくるのとほぼ同時だった。]
……シメオンは、上で休んでいる。 ベネット……僕は、保護者として、失格だと思うか?
[苦手な表現だが、分かりやすさを優先する為には致し方ない。 自ら保護者と口にしておきながら、ディーンの表情は困惑するように僅かに曇った。]
(339) 2014/11/16(Sun) 22時頃
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[羽ばたきを止めないルーツの動きに、ディーンは右腕を真っ直ぐに伸ばす。 くん、と一度身体を後方に引いてから、今度こそ本当にルーツはディーンの腕を離れた。 居間の端から端までを羽ばたき、壁際が近づけば身体を傾け、室内をぐるりと旋回する。
自在に飛ぶルーツの動きを、ディーンはしばし視線で追う。彼がどこに落ち着くかは分からないが、この部屋を出なければ問題はないだろう。]
――……何を、取り返せばいい。
[>>347怖くて触れることも出来ない。保護者らしく、危難から遠ざけようとすることも出来ない。 久しく会ったばかりのベネットに分かるはずもない問い掛けをしてから、ディーンは重々しく息を吐いた。 右手で鬱血痕のある左腕を撫でる。]
……すまない。忘れてくれ。
[そう告げて、ディーンはようやくラルフの淹れてくれたお茶に手を付けた。]
(359) 2014/11/16(Sun) 22時半頃
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[>>363ルーツに追い立てられるように、ベネットが居間を去る。 随分と人が減った居間で、ディーンはまたも大きく重い息を吐いた。ルーツが旋回する羽音が断続的に聞こえている。
ソファーの背凭れの上部に後頭部を預けるようにして、ディーンはルーツが飛ぶのを眺める。 赤い羽根は炎を連想させ、炎はあの掌を連想させた。 空想がひと連なりに、一つのところに集約されていく。 物語の海に沈むことは、最早出来そうにない。
気がつけば、一つのことだけを考えている。 他のことが碌に手につかない。 この状態を何と言うのか――ディーンは理解していた。]
(375) 2014/11/16(Sun) 23時頃
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[文章の書かれた紙は、まだ左手の中にある。 文章の中の少女は、禁断の赤い果実を口にした。 しかし、文章はまだ完結していない。
瞼を閉じると、そこに続きが映し出される。 文字はそれを表現する為の手段だ。 空中を旋回することに飽きたルーツは、ソファーにディーンの金の髪が広がるのを見て、ソファーの背凭れに降り立った。 ディーンはルーツを見ようとして――>>380その向こうに、一人の少年の姿を捉えた。同じソファーの端と端。 しかしディーンはどう声を掛けて良いか分からず、ただ見ているだけだ。]
(386) 2014/11/16(Sun) 23時頃
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[>>404返ってきた声は、何処か遠慮がちであるように聞こえた。 ディーンは、ルーツ越しに赤毛の少年を見ていた。 沈黙の間が多い。 その理由については、ディーンにも思い当たる節がある。 初めてまともに喋る相手には、何を話して良いのか分からないのだ。]
……彼の面倒を、頼まれた。 だから、そうしている。 それと……人と、話していた。
[赤毛の少年の苦労を理解して、ディーンはいつもより言葉を多く口にした。しかし、それでも画期的な話題を提供しているとは言い難いボリュームと内容だ。 左手にあった紙を膝の上に置き、天井を仰ぐような状態のまま一度ゆっくり目を閉じて、開いた。]
――彼は、ルーツという名前らしい。 名前で呼ばれないと、怒る らしいから。
[精一杯の、頑張りだった]
(412) 2014/11/17(Mon) 00時頃
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……金髪。
[>>422思い当たる姿は二つある。 しかしそのどちらも、鳥を連れ歩くようには思えない。 赤毛の少年――プリシラの言葉を反芻して、ディーンはルーツの腹の辺りを見た。赤い羽根がなだらかな曲線を描いている。]
ああ、そうだな……今は、プリシラと話している。 僕は、ディーンだ。
[プリシラ、という名前に抱く疑問符は喉の奥に飲み込んだ。 今の歳に至るまで何度も問われただろうことを言わせる気にはなれなかったからだ。 笑う顔が、少年らしい人懐こさを感じさせる。]
(429) 2014/11/17(Mon) 00時半頃
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……普段。
[>>437質問に答えるのはやぶさかではないが、想定していたよりも難しい質問が来て、ディーンは思わず口籠った。 傍らで遊ぶルーツに視線を逃し、その嘴を見ながら考える。 ――しかし、気の利いた答えは出て来ない。]
物語を、書いていた。 今は……ただの、文章を書いている。
[結局、生業を除けば何も無い。 ディーンは近づくプリシラの様子を見た。 距離はまだ十分にある。]
(450) 2014/11/17(Mon) 01時頃
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[>>440扉の開く音に反応して、ルーツはそちらを見る。 既に遊び道具の一つとして認識したベネットの姿を確認した途端、羽を大きく広げてディーンとプリシラの間を飛んでいく。 低い位置から徐々に高度を上げて、居間の扉に着く頃には丁度、胸の辺りの高さまで。
ディーンはそれを止めようもなく、ただ見送る。 ルーツがいなくなって開けた視界に、先程より多く、プリシラの顔を映して。]
……プリシラは、普段は何を?
[聞き返す。話すのは得意では無さそうだが、快活そうでもある。 彼ならば自分よりももっと気の利いた返答をするのではないか。そんな期待があった。**]
(454) 2014/11/17(Mon) 01時半頃
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