308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[キャロライナに出会ったのは、実り満ちた畑だった。]
(+85) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[海を越え、初めて降り立った大地は 写真で見たよりもずっと広く、私は少し辟易していた。 どこかしこ作物が実り、肥料のすえたような匂いがする。 先輩のサポートとはいえ、契約相手の前で 鼻を摘む訳にはいかず、実状確認の名目で ひとりの時間を得てようやく鼻筋に皺を刻んだ。]
……何もないな。
[ここにいるのは元々大豆かトウモロコシだけで、 賛同する声も、声量を憚る必要もない。 後者は収穫間近で、実った種を青い葉の内に隠して、 白い髭を乾いた風に揺らしていた。 息苦しさなど欠片もしらないような土地に、 息をするのすら躊躇ってしまう。]
(+86) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[規律正しい養父母の下、道を外れることなく生きてきた。 学業の成績は特別秀でている訳ではなかったが、 幸運にも職を得ることができ、就職してすぐ借りた アパートにも、今では余裕を持って住み続けている。
シエスタを切り上げる度に真面目だな、と言う同僚へは、 両親に似たのさ。と、肩を竦めて見せた。 人というものが、あまり好きではない。
近づけば感じる体温が苦手だ。 ――肌の奥に何かが入ってくる心地がする。 感情の滲む声が苦手だ。 ――耳の底を己の意思とは別に擽られる感覚がする。
共有を強いられる時間も、並ぶことで生まれる比較も、 そして何より、それらの恩恵を得ながらも 疎い続けている自分自身が好きではなかった。]
(+87) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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……っ、 と、
[腰の辺りに強い衝撃があり、蹈鞴を踏んだ。 丁寧に磨かれた革靴の先が柔い土へとめり込む。 振り向いた視線の先には、燃えるような赤毛があった。]
“お兄さん、どこから来たの!?”
[キャロライナ――キャロルは、 ここら一帯の畑を管理する一家の末娘だった。 周囲に建物のほとんどないこの地で生まれ育ち、 スクールには通わず、家の手伝いをしているのだと言う。 大人とばかり接しているからだろうか。 彼女は私の知る子どもよりずっとしっかりしていて、 そして私の知る何よりも自由だった。
そんな彼女を揺れるトウモロコシの前で初めて見た時、 私は太陽の在処をようやく知れた気がしたのだ。 これまで、曇天の中で生きていたことに気づいたのだ。]
(+88) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[それから暫く、仕事でこの国へ滞在することになった。 畑にも足繁く通い、合間はすべてキャロルと過ごした。
周囲は私が彼女と遊んであげていると思い、感謝したが、 実際は私が彼女に教えを乞うていただけだった。
二人きりの間だけ私は彼女を先生と呼び敬語で話したし、 彼女は私をミケーロと呼んだ。
夕食のパイを気づかれずに一切れ攫う方法。 女性の社会進出における問題点について。 屋根から見る星がどうして他より美しく見えるのか。 電話線を繋がず遠方と話すにはどうしたらいいか。
彼女はまず自分の考えを情感たっぷりに語り上げた後で、 必ず私へ「ミケーロはどう思う?」と尋ねた。
それに答えている間は疎う体温も声も、 自身への嫌悪も何もかもを忘れられたから、 私は夢中になって己が考えを述べた。]
(+89) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[ある授業の休憩時間、私は先生へ尋ねたことがある。]
寂しくはないのですか?
[彼女はいつもひとりだった。 周囲とソリが合わない様子も、嫌っている訳でもない。 畑の手伝いもすれば、食事だって共にとっているようだ。 けれど、それでも、ひとりだった。]
“どうして? こんなにも自由なのに!”
[少女は笑いながら両手を広げ、当然のように答える。 出会ったあの日、呼吸を躊躇った感覚を思い出した。 論理的な理由などどこにもなくて、きっかけも曖昧だ。
けれど、それだけで、私は。]
(+90) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[数ヶ月に渡る準備を終え、本国へ帰った後も、 毎年夏になると畑の様子を見る名目で彼女の元を訪れた。
一年目の夏、彼女は得意げに自分の名前を書いて見せた。 地面に枝で穿たれた文字は、最後だけ裏返っていた。
数年目の夏、彼女は顔に大きな傷を作っていた。 通りがかった旅人と喧嘩をしたのだと笑っていた。
それから更に数年後、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。 父親はいないのだと言う。 名前をつけてと頼まれたから、丁重に辞退した。 翌年、シーシャと名付けられた男の子が生まれた。]
(+91) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[シーシャはすくすくと育った。 キャロルはスクールに通わせないつもりのようだったが、 彼女の家族と共に説得すると渋々同意した。
シーシャはすくすくと育った。 元々身体の弱かったキャロルは床に伏せるようになり、 生まれつき足の弱かった私も加齢と共に歩けなくなった。
それから更に数年後。冬の迫る秋のこと。 すっかり古ぼけたアパートにシーシャから手紙が届いた。 キャロルが亡くなったらしい。 眠るような、穏やかな最期だったと言う。
私は暫し瞑目した後、手紙を丁寧に破いて捨てた。]*
(+92) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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― 夜・コーヒーショップ『abbiocco』 ―
[彼女の国へ転勤を希望したのはそれから数年後のことだ。 養父母も既に旅立ち、長年住んだアパートにも 物はほとんどなかった。 身ひとつで移住し、この地で車椅子を得た。 シーシャが就職して来たのは驚いたが、数年とはいえ、 赤ん坊の頃から知っている子と共に仕事をするのは 何だか不思議な気分だったのを覚えている。]
……。
[10フィート先で俯く顔を見る。 機能しない瞳では、表情を窺い知ることはできない。 色素の薄い髪が暗いのは、濁る瞳のせいではないだろう。 どちらからとも知れぬ、酸い匂いが鼻腔をくすぐる。]
(+100) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[限界だった。傷だらけの右手を床につくと力を込める。 何日も動かずにいた関節は石のように固まっていたが、 動かしてみると硬質な音と共に案外簡単に曲がった。 壁を引っ掻きながらゆうら、ぐうら、立ち上がる。]
あ゛ー……ふ。
[もう動かなかったはずのものが動くのは 本来喜ばしいことのはずなのに、 地面についた足を見ても何の感情も湧かなかった。 気を抜けばあっという間に崩れてしまいそうだったから、 息を詰めて足を動かした。
静寂の夜に、不快な摩擦音が響く。 10フィートの均衡はあまりにも容易く乱れた。]
(+101) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[どこへいくの、と。泣きそうな子どもの声がした。 返事をすることなく、唯一機能している裏口へと進む。
マスタと呼ばれた。ミケーロさん、と。ミケ、と。 呼び名が若返って行く度に、 子どもの声は徐々に癇癪に近いものへなっていく。
ひとりにしないで、と。掠れた声が届く。]
きみは……自由、なん だ。
[嗚呼、やはり私はキャロルにはなれない。 隣人の協力の下、使い道のなかった金で店を出しても、 彼女を真似て望むままに生きようとしても。
ねえ、キャロル。 ――ひとりは、私には少し寂しかったよ。]
(+102) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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わたしが望む、のは、 君にわたしを殺させること、でもなく、 わたしがきみを外へ、追い出すこと、でもなく、 ましてや、わたしがきみを、がいすることでも、なく、
きみが、いきること だ。
[限界だった。 打開策を模索する思考は日に日に薄れていくのに、 身体は少しずつ楽になっていく。 すべてが己が手から離れていくのが分かった。 だからせめて、最期に、彼だけは助けたい。]
あいしている よ、 しーシャ。 きみ が、うまれて きて、うれしかっ た。
[後ろであたたかいものが動く気配がして、 “俺は、母さんのことあまり好きじゃなかったんだ。” と何を言って音がわからな、あたたかいの。だめそと、]
(+103) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[ちょうど目の前にある板を叩いた。 ぐしゃりと皮膚が潰れる音がして、冷たい風が吹く。 さむい。やだな。でも。そと。ひろい。]
……あ゛、 あ゛ー 。
[さむいから、あたたかいもの。 ここ? ちがう。そとで、さがす。 広大な大地に、二本の足を踏み出した。]*
(+104) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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― 大豆畑の中で ―
[とても寒かった。お腹も空いた。 何か食べたいと思う。辺りには枯れた草しかなかった。 手を振ると乾いたものが落ちた。 歩く。足の裏で何かを踏んで、頭からひっくり返った。]
あ゛ー……。
[上が見えるはずなのに、何も見えなかった。 目玉が裏返っていることに気づいたけれど、 戻し方が分からなくてそのままにした。 本当なら、上には何が見えるのだったか。 思い出せないまま、耳だけが草が揺れる音を拾う。]
(+123) 2020/10/25(Sun) 21時半頃
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[体温もない。声も聞こえない。 そこにあるのは言葉の羅列だと思っていた。 時間さえ明確に共有されることはなく、 それぞれが思うがままに文字を綴る。 寂しがりの人嫌いに都合のいい場所のはずだった。
Nanaはレストランに行けただろうか。 カレーの具は何になっただろう。 遠い地でも大豆は育つのか。 丸い目の暴君や笑顔の子どもたちは無事だろうか。 特別な日を迎えたふたりは共にいられるか。 名より先に覚えたアイコンやよく見かけたスパムだって。 助けを求める悲鳴の先も知らないままだ。
あれが生きている者の声であることに気づいたのは、 すべてがおかしくなり始めてからだった。]
(+124) 2020/10/25(Sun) 21時半頃
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[誰かが助かって、誰かが助からなくて、 そしてきっと誰もが苦しんでいる。
何も思わない訳ではないが、 思い浮かべるのはこの目に映した人のことばかりだった。
冷徹だろうか。無情だろうか。 それでも私は、最後まで人間だった。
人間だったから、悔いのない選択はできなかったし、 人間だったから、繰り返しても同じことをするだろう。]
(+125) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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[それでいい。]
(+126) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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[さむい。おなかすいた。]
[遠くからエンジン音が聞こえる。]
[あたたかい。もの。たべもの。]
[闇を裂くような光が満ちた。]
[たべたら、あたたかい?]
[たべ、]
[――ぐしゃ。]
(+127) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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[命の轍が二本、広大な大豆畑に刻まれた。]**
(+128) 2020/10/25(Sun) 22時頃
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