22 共犯者
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―深夜の森― [ 月が群雲に面を隠す。 闇の帳の中、ゆっくりと立ち上がった『それ』の肢体は仄白く、膚それ自体が発光するかのよう。乾いた血の黒紅が斑を作る。
今や月の信徒となったイアンを見返り、腕を広げる。誘(いざな)う。 凄艶の微笑――ここへ、と。*]
(39) 2010/08/10(Tue) 22時頃
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―朝― [ 日が昇り、朝となっても「ヴェスパタイン」は森から戻らなかった。
彼の住んでいた工房にも立ち寄った形跡はない。 工房も二階の住居部分も綺麗に片付けられ、「ヴェスパタイン・エーレ」がそこに住んでいた形跡は殆ど残っていなかった。
にもかかわらず、供物台の上には、いつの間にか三枚の柊の葉が並んでいた。]
(44) 2010/08/10(Tue) 23時頃
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―深夜の森>>45― [ く、と『それ』の笑みが、苦味を帯びた揶揄の嗤いに変化する。]
本当にお前はお喋りだ―― こんな時にも口を動かすのを止めないのか。
[ 近付いてくるイアンを抱き締めんと広げた腕を差し延べ]
ここは我らが聖地、はじまりの地。 我らは太古の昔より、聖なる森で祭祀を行ってきた。 森の神々に生贄を捧げて。
(47) 2010/08/10(Tue) 23時半頃
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―朝・森―
――……聞こえてはいる。
[ 殆ど音も気配らしい気配も無いまま、その声は横合いから聞こえてきた。 『それ』は樹の幹に寄り掛かるようにして立ち、ミッシェルをじっと見ている。]
何の用があって来た。 狩りの刻にはまだ早い。
(51) 2010/08/11(Wed) 00時頃
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―深夜の森>>48― [ 答えは言葉ではなく、熱い息を吐くイアンの口唇を自らのそれで塞ぐことで為された。 人とは異なるざらつきのある舌、滑らかに尖った牙の感触。 回された手は、イアンの身体、その質量が確かにそこにあるのを確認するかのように背を滑り降り、幾度も形をなぞった。]
(52) 2010/08/11(Wed) 00時頃
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―朝・森>>53― [ 眉根が僅かに寄った。]
……何が知りたい。
[ 多少ウンザリした口調なのは、ひょっとしたら誰かに質問されたり説明したりが連続しているのかも知れない。そんな感じだ。]
(54) 2010/08/11(Wed) 00時半頃
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―朝の森>>55―
答えてどうなる。
[ スッと目を細める。 冷たい声が不興を示しているようでもあり、]
(56) 2010/08/11(Wed) 01時頃
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―朝の森>>57―
ミッシェル・エクルンド。 お前は賢い。 今回の生贄たちの誰よりも冷静で、手強いお前は、「戦士」の称号に値する。
はっきり言おう。 だからこそ、俺は、お前が若い娘であろうと、戦いの訓練を積んでいなかろうと侮りはしない。
[ 鋭い眼差し。口の端が挑むように吊り上がる。]
(58) 2010/08/11(Wed) 01時半頃
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我らが過去にお前たちの祖先と結んだ契約を知ったとして。 それをどのように使う。 破棄した末に望むものは何だ。
我らを廃した先の未来に何を望む。
(59) 2010/08/11(Wed) 01時半頃
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―深夜の森>>60― [ 離した唇から、ハ、と熱い吐息を零す。 向き合う月の双瞳は黄金いろの燠火。 枷を外すように、イアンの衣服を一枚ずつゆっくり剥ぎ取り、地面に落としていく。]
(61) 2010/08/11(Wed) 01時半頃
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―朝の森>>62>>64― [ ミッシェルの「宣戦布告」を耳にした途端、笑みが深くなった。 つい先程までの不快が滲んだものではなく、自然に綻ぶような、喜ばしい笑いだ。]
なるほど。 それがお前の答えか。
であれば、先の質問にふたつだけ答えよう。 ハンデという訳ではないが、憎悪と敵意に目を曇らせず道を探し出そうとする意欲に敬意を表して。
(66) 2010/08/11(Wed) 02時頃
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俺はこの森に「還って来た」。 おそらくはこれが我らにとって最後の儀式となろう。
――これで満足か?**
(67) 2010/08/11(Wed) 02時頃
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―深夜の森>>63― [ 縋りつくイアンの身体はのっぺりと平らかで、同じく細(ほそ)やかでありながら野生の、引き絞られた弓の如き『それ』の肢体とはまるで異なる。 けれども『それ』は厭わず受け止め、身体のくぼみにすっぽりと包み込む。 そして、下生えの草叢の上にイアンを横たえると、彼の狂熱を受け取るように膚を重ね合わせた。**]
(69) 2010/08/11(Wed) 02時半頃
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―深夜の森>>70― [ 『それ』は軽く啄ばむ口接けで再びイアンの口を塞ぐと、ヒトのするようにシーと歯擦音を出して沈黙を求めた。 それから軽やかな笑い声を立てながら、彼の硬く張り詰めた肉塊に自分の下腹を摺り寄せた。
時間を掛け、『それ』は――刺激を待ち侘びる欲望の中心には触れず――イアンの全身を丁寧に探った。 手足の指を一本ずつ口に含み、猫に似たざらざらの舌が大きな水音を立てて股の間まで舐(ねぶ)る。 うつ伏せの背に滑る、垂らした髪の毛の先が、何本もの筆で撫でたような感覚を皮膚に呼び起こす。 太腿を掴んだ手を、指先に軽い力を込めながら付け根へと擦り上げる。 まるで、彼の形を己が記憶に刻み付けんとするように。 舐め、摩り、掴み、しゃぶり、イアンの身体で『それ』の舌と唇と指先の触れないところは殆ど無くなっていった。
イアンの血肉は喰らわぬままに、『それ』は彼を貪った。]
(71) 2010/08/11(Wed) 07時半頃
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―深夜の森>>72― [ 長い長い探索の終わりに、『それ』は胸に腹に紅い花弁を散らしながら徐々に頭を下へと降ろしてゆく。 餓え切って、喘ぐように開いた口から際限なく涎を垂らすそれを見つけると、愉楽に顔を輝かせながら口腔に導き入れた。
熱く濡れたものに自分の身体が包まれていると知った時、イアンはどんな反応を示しただろうか? 柔らかい口唇が吸い、ざらりとした舌が最も敏感な部分に絡みつく。エナメル質の硬くなめらかな感触が触れる。 だが、それは剃刀よりも鋭い牙を具えた、肉を容易に喰い千切り皮膚を裂く顎(あぎと)、なのだ。]
(74) 2010/08/11(Wed) 10時頃
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―朝の森>>73― [ 草を踏み繁みをかき分ける物音から、イアンが自分を追ってきたのには気付いていた筈だが、『それ』はわざわざ振り返るようなことはしなかった。 彼が声を発してはじめて、横目でチラリと見遣る。
――月光の下での一夜の間に、彼は変わったのか。変わらなかったのか。これからどう変わっていくのか。 それは、彼自身もまだ解かってはおらぬことに違いない。]
(75) 2010/08/11(Wed) 10時半頃
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―深夜の森>>77― [ イアンの放った生命の雫を、喉鳴らし甘露と飲み下す。 羞恥と快楽の余韻に震える肉体を見下ろし、『それ』は満足げに赤い舌を閃かせて口唇にこびりついた汚れを舐め取った。]
お前の味、だ。
[ 囁き膝裏を掬い、イアンの下肢を大きく割り開いて、もう一度からだを重ねる。 『それ』は最後に残された、肉の狭間の唯一触れていない部分にも舌先を捻じ込み、開口部を押し開いて内臓を暴いた。]
(80) 2010/08/11(Wed) 18時頃
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―深夜の森>>81― [ 『それ』は灼熱の槍でもって、イアンの身体とこころの両方を貫いた。 遠い海の波濤のように、嵐にざわめく樹々のように、それは幾度となく激しく打ち寄せ、イアンを揺さぶり、高波の頂点に押し上げては打ち砕いて夜の底に引き攫った。 それだけでなく、夜ひらく花となって彼の上で揺蕩い、燃え立つ花莟のうちに迎え入れ、イアンの生命の蜜を取り込んだ。 繋いだ身体の境界も判らなくなるほどに蕩けあい――
――けれども草叢の中、失神したイアンの汗みずくの身体を抱いて眠る時。 彼の目の縁に溜まった涙を舌先で拭い取りながら、『それ』の双瞳は寂寞たるいろを湛えていた。*]
(83) 2010/08/11(Wed) 19時頃
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―朝の森― [ 木に凭れたイアンの身体がずるずると滑り落ちる。 その視線の先にある筈のミッシェルの姿を、彼は見ていない。彼の目に映っているのは、ここではないどこかの、ここにはいない誰かなのであろう。
『それ』の眼から一切の感情が消えた。 宵月いろの鏡となって、不在の誰かに向かって饒舌に語り続けるイアンの姿をただ映した。]
(85) 2010/08/11(Wed) 19時頃
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―朝の森―
イアン。
……イアン。
[ 『それ』はイアンの名を呼ばう。]
(86) 2010/08/11(Wed) 19時頃
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―朝の森>>87― [ 穏やかな笑みを浮かべるイアンはもう平静に戻っているようであった。が。]
――…… そうか。
[ 素っ気無く答える表情は変わらねど、瞳の底ひっそりと、哀しみに似たいろが過ぎった。]
(88) 2010/08/11(Wed) 22時頃
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―満月の夜― [ ――血塗れた手はそのままに。
降り注ぐ月光の下、森にぽっかりと開いた空き地に二人は立っている。 全き円の形を取り戻した月は、黄金の円盤が夜空に嵌め込まれているとさえ。]
何者かを知れば、答えが出ると言うのか。 それで理由がつくと言うのか。
[ クッと薄い口唇の片端が歪む。] 「ヒトではない獣」。 お前自身がそう理解しているではないか。
(90) 2010/08/11(Wed) 23時頃
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お前は俺が、お前の全てを捨てるに足る神であって欲しいのか。 お前が繰り返す、信仰告白どおりの存在であって欲しいのか。
[ 嘲りに似て――けれどもそれは、怒りにも似ていた。]
(91) 2010/08/11(Wed) 23時頃
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[ 長い沈黙の後。]
――お前は俺に喰われたいのか。
[ 尋ねるのではなく、それは確認。]
(94) 2010/08/11(Wed) 23時頃
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[ すう、とひとつ大きく息を吸った。
『それ』は暫し瞑目し――再び目を開けた時には、月の黄金に輝く瞳は蠱惑を湛えて煌いていた。]
(96) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ 口唇が艶冶な微笑の形を刻む。 差し出された手に合わせ、重ねるように手を伸ばし、招く。 言葉は無い。 ただ、誘(いざな)う――ここへ来い――と。]
(97) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ かつて「ヘクター」と呼ばれた同胞にしたように。 ほんの一夜前、彼を差し招いたように。
腕を広げ、イアンを待つ。 自らの内に招き入れるために。
『それ』もまた、うっすらと開いた唇から欲望に濡れた熱い息を吐いた。]
(100) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ 彼の手を握り返し、腕を引いて抱き取る。]
イアン、お前が欲しい。
お前を、喰らいたい。 お前を、丸ごと、くれ。
[ 待ちかねたように、擦れた声で囁いた。]
(101) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ 胸を合わせ――深い、深い口接けを。]
(102) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ ――……そうして彼は、自らを灼き尽くす情欲と食欲の軛を解き放った。
イアンを組み敷き、下肢を押し開き、肉の剣で貫き、抉り、打ちつけ、掻き乱し、逃れることも許さず徹底的に蹂躙する。 愛撫する口唇と肉を噛み裂く牙は手を携え、彼の全身を朱で染めた。
『それ』はイアンの肉を二つながら貪る――生贄たちにそうしたように、だが、もっと時間を掛けて、快楽と苦痛の時を引き伸ばすように。]
(105) 2010/08/12(Thu) 00時頃
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