22 共犯者
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―真昼の森>>34― [ 燦々と降り注ぐ日差しも、深い森の奥には届かない。 禁忌の森には、人は踏み入ることを許されない。 本来であれば、聖なる樹木に捧げられた生贄を人間が弔いのために回収することは許されることではない。
しかし、それを表立って阻止できる者は、もうこの地にはいない。 そう、最も伝統に忠実なヴァンルナール家でさえも、それを止められない。]
(83) 2010/08/04(Wed) 17時半頃
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―真昼の森 >>34― [ イアンが目を覚ました時まず第一に気付くのは、間近で顔を覗き込んでいる皓い貌。 そして、それを縁取る薄暮の長い髪、宵月いろの瞳だ。 紅をさしたように薄紅い唇の端が、うっすらと吊り上っている。]
(84) 2010/08/04(Wed) 17時半頃
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―真昼の森>>85>>86― [ 寝惚けているとしてもあまりに饒舌なイアンの独り言が余程おかしかったのか、クスクスと楽しげな笑い声が上がる。 それにしても、その笑い声はかなり近くから聞こえてくる。殆どイアンの顔の真正面、覗き込む顔はもう少し下がれば口接けが出来るほどだ。
イアンは身体が動かないことを訝っているようだが、それも道理、彼の言う「インキュバス」が、何も纏わず裸の胸を合わせて乗っているのだから。]
(98) 2010/08/04(Wed) 20時半頃
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―真昼の森― [ 『それ』はその彼の饒舌過ぎる口を塞ぐように、口唇をイアンのそれに重ねた。 あたたかくやわらかい感触が、ほんの僅か感じられ。 それはすぐに離れて、彼の眼前で微笑の形を保った。**]
(101) 2010/08/04(Wed) 21時頃
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―真昼の森>>102>>114― [ 口接けを更にもう一度。]
目が醒めたか?
[ 呆然と見上げるイアンを揶揄う声はかろやかな響きを伴っている。]
(116) 2010/08/04(Wed) 22時半頃
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―真昼の森>>119―
ならばよい。
[ イアンの動揺など知らぬげに、唇は一層笑みを深くした。 『それ』は先程自分が触れたばかりの口唇に長い指を押し当て、その縁をなぞる。]
形容する「言葉」を見つけたいと言ったな? お前が欲しいものは本当に「言葉」なのか? これ――ではないのか?
[ 太腿に添えられた片方の手に軽い力が加わる。]
(121) 2010/08/04(Wed) 22時半頃
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―真昼の森 >>119― [ 真昼の月が、イアンの上に昇っている。 『それ』は、ゆる、と動いて、覆うものの無いからだの容をイアンの身体に伝える。 宵闇の髪がひとすじふた筋、零れてイアンの頬に落ちる。]
(122) 2010/08/04(Wed) 23時頃
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―真昼の森>>125― [ イアンの反応を確認するように、顔は更に寄せられ、頬に息が掛かるほど。]
――イアン・マコーミック。 お前は、生贄を喰らったのが俺だと気付いているのだろう? それでもお前は、望むか?
[ 漸く聞き取れるくらいの低い囁きが、産毛を振るわせた。]
(127) 2010/08/04(Wed) 23時頃
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―真昼の森>>132― [ 迷いの無い、イアンの応え。]
――……
[ 問い掛けた者は、果たしてその答えを予期していたのだろうか。 イアンの上を這っていた手が動きを止めた。 『それ』は裸の胸を離して身を起こし、イアンの顔を見下ろした。 月は鏡となって、その瞳に見上げるイアンを映した。]
(134) 2010/08/04(Wed) 23時半頃
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―真昼の森―
では――
お前は捨てねばならない。 人として生きることを。
[ 冷厳にして、非情な宣言。]
(137) 2010/08/04(Wed) 23時半頃
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―真昼の森>>138>>140―
そうではない、が、
「それ」が「何」であるのか知りたいのであれば。
[ 感情を抑えた呟き。 白い面は、先程までの熱も全て消し去り、問い掛ける視線を受け止めて揺らがない。]
お前は、血に塗れることを覚悟せねばならない。
出来ぬのであれば――
(142) 2010/08/05(Thu) 00時頃
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―真昼の森― [ カチカチカチ、と口唇の合間から仄見える白い牙が鳴る。 燦々と木漏れ日が降り注ぐ昼の森が、急に彩度を失う。大気が急速に温度を下げていく。]
(146) 2010/08/05(Thu) 00時頃
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―真昼の森>>147― [ 頷きはしないが、答えぬのは肯定しているも同じこと。 否諾(いなせ)を問うてはいるが、拒否すればどうなるかは自ずと分かる。が。]
(150) 2010/08/05(Thu) 00時頃
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―真昼の森― [ 『それ』は不意に振り返り、森の奥を見据えた。 近付く何かの気配を感じたか、顔を風上に向け、小さく鼻を鳴らす。 見返って、惑いのうちにあるイアンをもう一度見遣った。]
夜にまた。 返事はその時に聞こう。**
(159) 2010/08/05(Thu) 00時半頃
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―午後遅く・自宅二階― [今日も彼は窓辺に座り、髪を梳る。 草原や低木の繁みを縫って、工房へと続く小道を眺め、愛しい人を待つ娘のように。
彼の家も彼自身も、幸いなことに今のところ嫌がらせを受けたり荒らされたりされるような気配はなかった。 ボリスの家族の気持ちはどうか知らないが、今下手に彼にちょっかいを出して、村全体に「身内の恥」を広めるような真似はしたくないのだろう。 元々話し掛けてくる人は少ないから不穏な噂も耳には入らない。 数少ない訪問者も今ではもうここには来ない。]
(193) 2010/08/05(Thu) 16時半頃
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―自宅― [ もう来ない友の代わりに、彼が待つのは誰だろうか。 稚(いとけな)い幼子のように孤独と不安を瞳に宿して見詰めていた同胞か。 恐怖と陶酔の間で引き裂かれながら、それでも決して逃げようとしないイアンか。
やがて身仕度を終えた彼は、自宅を出て広場へと歩き始めた。]
(200) 2010/08/05(Thu) 18時半頃
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―広場― [ 今日は彼が一番乗りであったようだ。 長老達や見送りの村人たちは既に広場に集まっていたが、巡礼たちの姿は見当たらなかった。 彼は、それらの人々の目を避けるように隅に座って、夕暮れ時の空を眺めていた。]
(207) 2010/08/05(Thu) 19時頃
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―広場>>211― [ 急に掛けられた声に顔を上げると、よく日に焼けた小柄な少年が手を振っていた。 駆け寄ってきた少年から、差し出された黒パンを受け取る。]
ありがとう。いただくよ。
[ 唇に自然な笑いがのぼった。]
(213) 2010/08/05(Thu) 19時半頃
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そうか。用意してくれてたんだ。 ブルーノ司祭にもあとでお礼を言わないとね。
[ 手に持った黒パンを一口齧った。]
(215) 2010/08/05(Thu) 19時半頃
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―夕刻・広場― [ トニーに差し出した水筒にはピリッとした芳香を放つ薬草茶が詰まっている。**]
分かりました。 私も明日には顔を出すようにしますよ。
(222) 2010/08/05(Thu) 21時頃
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―広場― [ イアンの話に耳を傾けていたヴェスパタインは、っ唇に指を押し当て、少し考え込むような顔つきになった。]
イアンさん。 そう言えば、亡くなったリンクヴェスト夫人が生前あなたに何か原稿のようなものを渡していたように思いますが…… それには何か書いてはなかったのですか?
(233) 2010/08/05(Thu) 21時半頃
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ランタン職人 ヴェスパタインは、靴磨き トニーの背を苦笑しながらとんとんと叩く。ついでにハンカチで顔も拭いた。
2010/08/05(Thu) 21時半頃
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[ 生贄たちを森へと追い立てる鐘が鳴り響いた。]
……やれやれ。
[ イアンの返答を待たず、彼は憂鬱な溜息をついて立ち上がった。 土や草を腰から払い、間近の森を眺めやる。 見れば他の生贄、もとい巡礼たちも三々五々森へと歩き出していた。]
(251) 2010/08/05(Thu) 22時頃
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[ 用意していたランタンに明かりをつけ、手に提げる。 そうして、他の巡礼たちの後を追って、闇の帳が落ちる森に入って行った。]
(254) 2010/08/05(Thu) 22時頃
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[ 今宵も月は明るく、更に丸みを帯びて地上に淡い光を投げ落とす。
しかしその恩恵も、幾重にも枝の重なった森の深部には届かない。 森の際ならば樵や薪取りに村人が入ることもあるが、その奥は禁忌となっているのだ。誰も手入れなどしない原生林である。
其は人の支配する領域にあらず。 森に棲まう神々の領域なのだ。]
(258) 2010/08/05(Thu) 22時頃
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[ ランタンを持ってゆっくりと歩いていたヴェスパタインはふと、イアンを振り返り、]
あれ?イアンさん、襟が……
[ 彼のシャツの襟に手を差し伸ばす。]
(260) 2010/08/05(Thu) 22時頃
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>>263 [ イアンに向き合うと、後ろ襟に手をやり、形を直す。 と、唇を殆ど動かさず、こっそり耳打ちした。]
――話があります。 何とかふたりだけになるようにして下さい。
[ 身体を離して、にっこりと微笑む。]
さ、もう大丈夫ですよ。
(265) 2010/08/05(Thu) 22時半頃
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[ 突き出した木の根や倒木を避けていく彼の足取りは慎重で、他の巡礼たちより遅れ気味だ。 闇に包まれた森では、各人の進み方もバラバラになりがちなのだろう、連れ立って森に入ったはずなのに、早くもぽつぽつと明かりの間隔は開き始めていた。 それでもまだそれぞれの話し声は耳に入る。
勿論、彼らよりも遥かに鋭い聴覚を持つ彼は、聞こえる範囲の音を拾っていた。]
(282) 2010/08/05(Thu) 23時頃
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[ 彼の視線は闇を通してミッシェルを追う。 木々が邪魔して視界は良好とは行かないが、それでもこれほど明るければ――ランタンの明かりのもとでは夜の闇も真昼も同じ――オスカーの傍に近寄っていくのは容易に見分けられた。 目を凝らし、オスカーの反応を読み取ろうとする。]
(290) 2010/08/05(Thu) 23時頃
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>>298 [ 足を少し引き摺り、がさがさとわざと音を立ててゆっくりオスカーの方へと近付いていく。 掲げたランタンの明かりが揺れる。]
オスカーさん。 大丈夫ですか?
[ 気遣わしげな声がランタンの光の後ろから上がる。]
(305) 2010/08/05(Thu) 23時半頃
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>>307 ……なら、いいのですけど。
[ オスカーが気掛かりだけれども、うまく言葉が出てこない……そんな感じに、彼は頭を少し傾けて立ち止まった。]
(311) 2010/08/06(Fri) 00時頃
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