84 戀文村
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[セレストが己の選択の理由に疑問を抱いているとは知らず、簡素なテーブルに普段は敷かないクロスを敷いて、裏山で摘んだリラックス効果のある薬草に、湧かした湯を注いで淹れた。]
ここで待ってて。
今、便箋と封筒を持って来る。
[そう言い置いて、自分の寝室へと向かった。 ベッドサイドの小さな木の抽斗から、隣村の知人との文通に使っている、白い無地のレターセットを取り出し戻る。]
(234) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[お茶の鎮静効果が作用してか、少しすると、気を張り続けて疲れていただろうセレストは、こっくりこっくりと船を漕ぎ出して。
向かいに座ってペンを握り、白紙の便箋を前に書き出しの言葉を迷っていた女は、その様子を見てくすりと小さく笑んだ。]
(238) 2012/03/27(Tue) 00時半頃
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[戦争など、恐ろしい報せなどなかったような、あどけない寝顔。 束の間の、現実を忘れたように流れる穏やかな時に身を委ねて、白亜の紙の上を、あまり書き慣れていないたどたどしい筆跡で埋めて行く。
その瞳に、脳裏に、描くのは───。]
(253) 2012/03/27(Tue) 05時半頃
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[────最後に、宛名を書いてペンを置いた。
思いの外長くなってしまった手紙に、くす、と目を細める。]
(254) 2012/03/27(Tue) 07時頃
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[まだ、セレストは寝ていたか。
この瞬間が永遠に続けばいいと思いながら、冷めてしまった茶を一口飲んだ所に、扉をノックする音が聞こえた。]
───…?
[まだ、埋葬までには少し時間があった筈だが、もう誰か来た者があるのかと、カップを置いて扉に向かい]
…──ダーラ。
[そこに人影はいくつあったか。 内開きの扉を引いて、見えた人物に淡い色の瞳を見開いた。]
(255) 2012/03/27(Tue) 07時頃
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[その表情から、既にセレストの事を聞いているのだと知れた。]
入って。 今、お茶を淹れなおすから。
[一歩引いて中へと通す。 今まで自分が座っていた席にダーラを座らせ、もう一人いるようなら寝室から椅子を持って来て席を用意する。
手紙はさっと、籠にしまった。]
(256) 2012/03/27(Tue) 07時半頃
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…─────。
[しばらくは、湯を沸かす音、ポットに湯を注ぐ音、それだけを響かせて。人数分の茶を淹れなおすと、自分は立ったまま火の消えた暖炉に凭れて、誰かが口を開くのを待った。**]
(257) 2012/03/27(Tue) 07時半頃
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ヨーランダは、そこで漸く、指の付け根に血が滲んでいるのに気付いて、カップを握ったまま舌を伸ばしてちろりと舐めた。**
2012/03/27(Tue) 07時半頃
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─ 自宅 ─
[ダーラの訪いによってセレストも起きたらしい。 女はカップを持ったままセレストに笑いかけた。]
…──おはよう。 安心して。まだ1時間ちょっとしか経っていないから。
このお茶には気分を鎮める効果があるからな。 きっとそのせいだ。
───…?
[救急セットと聞いて、不思議そうに見るが]
…──あぁ。 そうか、ブローリンが。
[セレストの手が伸びれば抵抗する事なく両手を差し出した。]
(272) 2012/03/27(Tue) 19時半頃
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[傷ついた手が手当されて行くのを見ながら目を伏せる。]
奴にも悪い事をしてしまったな。
今思えば、私を助けてくれたんだろう。 あのままホレーショーに食って掛かっていたら、 軍に捕まっていたかもしれない──…。
(273) 2012/03/27(Tue) 19時半頃
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…──あぁ、そうだな。すまない。
[微笑むセレストと視線を絡め]
(一緒にいってやれなくなる所だった。)
[と、耳元に唇寄せて小さく囁く。
ダーラが質問するか、或いは問うような視線を向けて来るなら、朝方起きた事をかいつまんで伝える。 勿論、セレストとの間に交わした会話は省いてだったけれど。
それにダーラが何か言う前に、再び扉が叩かれ、次いで村長アルフレッドが自分を呼ばわる声がした。]
(275) 2012/03/27(Tue) 20時頃
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[セレストに手当の礼を言い、カップを暖炉に置いて扉を開けた。 開かれた扉から中を見た村長は、セレストとダーラを見て一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに目を伏せ]
『埋葬の準備が整ったのだが──…、
…──今回はいいから、君はここに居なさい。』
[そう言って、おおきな掌を女の頭に置いた。]
……───ありがとうございます。
[女は小さく礼を言って頭を下げた。]
(276) 2012/03/27(Tue) 20時頃
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──…そうだね。
日のあるうちは目立ってしまう。 いくのは夜になってからにしようか。
[呟きを、耳を撫でる微かな掠れ声で返し、女は窓辺に寄った。]
(278) 2012/03/27(Tue) 20時半頃
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[墓地の管理という仕事上、自宅からでも墓地は見渡せる。 大きめに切った窓に目を遣れば、二人にも墓地の葬儀の様子が窺えるだろう。
墓地に運ばれた二つの棺は、成人が入る程の大きさをしておらず、遺品を収めるのが精一杯というサイズ。それを収める穴も棺と同等の小さな穴で、どちらも女が用意したものだった。 常なら棺も墓穴もそれを用意してくれる者がいたのだが、どちらも戦争に行ったきり音沙汰がなく、女手一つで短時間で用意出来るのはこれが精々。
墓では幼い息子の手を引いた少々年嵩の婦人と、それより少し若いくらいの母親が、どちらも黒衣を身に纏い、寒空の下棺が墓穴に収められるのを見守っている。]
(280) 2012/03/27(Tue) 20時半頃
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[程なくして略式の葬儀は終わった。 家族は未だ墓石の前に佇んで祈りを捧げている。]
…───ダーラ。
[ふ、と小さく息を吐いて、友の名を呼ぶ。]
(284) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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養父(ちち)が使っていた寝室の金庫に、 墓地の権利書が入ってる。
こんな小さな村の墓所など、 面倒なだけで誰も欲しがりはしないだろうが、 念の為だ、持って行ってくれ。
[唐突に告げた意味。 クラリッサから話を事のあらましを聞いていたダーラには通じるだろうか。]
(286) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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[ダーラに何か言われる前に女はダーラに近寄り、靴の踵の分だけ高い身長を仰ぐように伸ばした腕で、ぎゅっと首に抱き着いた。 そうして穏やかな声で語り掛ける。]
覚えているか?
私まだ七つの時だ。 お前は生まれたばかりのセレストのお披露目に、 私とベネットを誘って行ってくれただろう?
(291) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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今でもそうだが──…、あの頃は特に、 出自のわからぬ私を村の大人達は敬遠していて、 そういった席に参加する事を養父(ちち)は避けていたから、 初めての事にとても戸惑っていたっけ。
養父とて、元は外から流れ着いた身だ。 長い時間をかけて受け入れられていたとは言え、 どうしたって、私は余所者なのだという思いが拭えなかった。
[女はぽつり、ぽつりと、記憶を辿るように話し続ける。]
(294) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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初めて見た赤ん坊はとても小さくて、 周りの人集りに怯えたのか、大声で泣き喚いていて、 ──…少しだけ、怖かった。
けど、お前に背を押されて、おそるおそる伸ばした私の指を、 セレストは小さな小さな手で掴んで、
───ピタリと、泣きやんだ。
そして、それはそれは愛らしく、笑ったんだ。
(302) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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私が指を離そうとすると、また泣き始めて──。
…────馬鹿な話だけど、 ずっと、自分の居場所がないと感じていた私が、 その時初めて、この村に受け入れられたような気がしたんだ。
必要とされている、ここに居てもいいんだ──って、 そう、思えたんだ。
(304) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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その時こっそり誓ったんだ。
何があっても、この子を守ろうって。 私も、この村の家族に加えてくれたこの子の為に、 出来る事ならなんでもしよう──って。
…──それ以降も、 一部の大人達の態度は相変わらずだったから、 あまりおおっぴらに何かする事は出来なかったが、 大きくなったセレストは、やはり変わらず私を慕ってくれて、 私のつまらない言葉で笑ったり泣いたりしてくれて──…。
(309) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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セレストのお陰で、私は未だ、ここにいる事が出来る──。
(310) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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[ダーラの拳を背に感じ、女も腕に力を込める。 落とした声に、確固たる意志を滲ませて]
これは私の我儘だ。
セレストを一人で行かせたくない。 けれど、共に行く事は出来ない。
村は兵士に取り囲まれていて逃げる事は不可能だろう。
だからせめて───…
(314) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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彼女を奪われる前に、共に果てたい。と───…。
(316) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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[ダーラの「妹」と言う言葉に、女の声に嗚咽が混じる。]
…──ッ、ダーラ、
あぁ。 あぁ……、わかってる──…。
(318) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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でも、許して──、くれ──ッ、 セレストを一人にしたくない、んだ──…。
どうせ私も、すぐに徴兵されて、 全く別の所で、死ぬ事になる──…。
そうなる前に、共に過ごしたこの村で、 この、《家》、で──っ、
死───……、 なに?
[最後まで言い切る前に、ダーラの声に遮られた。 少し、きょとんとして見上げた後、意味を理解して、月白の瞳を笑みの形に細めた。]
…──ありがとう。
(321) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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うん──…、 ……───うん。
[頬を引っ張られた女の瞳から、いくつも涙が零れ落ちる。]
…──そうだ、これを……。
[女は一旦ダーラから離れ、台所の隅から小さな瓶を取り出し、中の粉薬を薄い紙に包んで二つの小さな薬包を作った。 それを持ってセレストに近寄り、片方を差し出し]
…──セレスト、 これは、養父から教わった、ある薬草から取り出した薬だ。
飲めば、身体の全身の筋肉が弛緩して、 やがて呼吸困難で息絶える。
…──大丈夫、苦しいのはほんの僅かな間だけだ。 私も一緒に往ってやるから、怖くないよ。
[耳元でそれが何かを説明し、セレストの手に握らせた。]
(330) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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…───もう、これで本当に思い残す事はない。
戦地で迷った養父さんの魂も、 きっと私が導いてあげる。
……───行こう。
(332) 2012/03/27(Tue) 23時半頃
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[抱き締めるセレストに、首を傾げて]
…───お前を、外に行かせたくない。
ひとりが怖いと言っていた。 先に、待っているなら平気なのか?
[確かめるように、訊く。]
(336) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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[頷く瞳に、恐怖の色はない。 女はセレストの髪を撫で]
…──わかった。
じゃあ、行こう。 最期は、温かい場所がいい。
[ひとの温もりが感じられる場所へ、と。 三人連れ立って、ダーラの宿へ向かう。
途中、ブローリンを見掛ければセレストへ]
…──別れを告げてる。
[と、促し]
(342) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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[宿で、全てを忘れるように酒を飲んで───。
朝方、ホレーショーが覗く頃には。 寝台の上、セレストに抱かれて眠る女の骸が在った。**]
(344) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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