22 共犯者
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─夜の森>>0─ いえ。大丈夫ですよ。
[ ペコリと一礼するオスカーに、やわらかい笑みを返し、ランタンを差し出す。]
ええと、ホリーさん?でしたっけ。 きっと一人では不安でしょうから早く持っていってあげて下さい。
(1) 2010/08/04(Wed) 00時頃
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>>4 [ 姿を消した片割れを求めるオスカーの悲痛な声がする。 彼は、そこから少し――だが夜の生き物ではない人間にとっては充分に離れた場所に立っていた。 遮光板によって前方のみを照らし出すように明かりを絞られたランタンを掲げ、声を張り上げる。]
オスカーさん?! 何かあったんですか?
[ オスカーを案じるような声音。 しかし、死角となったその足元、蟠る暗がりの中には、気を失った彼の姉がぐったりと地面に横たわっていた。]
(22) 2010/08/04(Wed) 09時頃
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>>4 [ 恐らくオスカーは半狂乱になって姉を探し回るであろう。 それを避け、尚且つ『彼にホリーを攫う暇はなかった』とオスカー自身に思い込ませるために、調光した明かりを巧みに使い、なかなか辿り着けないふりをして時間を稼いだ。
彼が必死の形相で姉の行方を訊ねるオスカーと出会う頃には、ホリーの姿はない。 彼と同胞しか見出せない場所に隠され、彼女は昏々と眠っていた。*]
(23) 2010/08/04(Wed) 09時頃
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―明け方の森>>27― [ ――オスカーの号泣が耳に飛び込んできたのは夜も白む頃であったか。 朝霧を切り裂いて、それは明るくなり始めた森に響き渡った。 ヴェスパタインは、星の瞬きが薄れ、夜の藍から朝の青へと変わりゆく空を見上げ、暫しその嘆きの音に耳を傾けた。 そうして、ゆっくりとホリーの遺骸を置いた場所に戻って行った。]
(44) 2010/08/04(Wed) 13時半頃
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―明け方の森― [ 辿り着いた時には、ホリーの遺骸の傍には既にオスカーの姿はない。 形容のし難い沈黙に支配されて立ち尽くす人々と、貪り喰われ解体されたホリーの骸があるきりだ。]
オスカーさんは……
[ 怯えをはっきりと顔に貼り付けながらも、彼はおそるおそる皆のいる方へ近づいて来た。 と、ホリーの遺骸に目を落とすと、口を押さえてその場にへたり込んだ。]
(47) 2010/08/04(Wed) 14時頃
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―明け方の森>>48― [ 反射的に背けた視線は、二度との方向に戻らない。 嘔吐を堪えるような音が押さえた手の奥から洩れた。]
そんな……
[ 涙目でミッシェルを見上げる。 彼女の視線を追って、森の奥へと目を向けた。]
(49) 2010/08/04(Wed) 14時半頃
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―夜の森―
――え?
[ 唐突に何を問われているのか分からない、というようなきょとんとした表情で振り返る。 困惑の視線で、ミッシェルの真意を測るようにぽつぽつと答えた。]
私は…… 「後悔してない」と言ったら嘘になりますね…… 折角やっとこの村に慣れて、ここでずっと暮らせそうな気がしてきたのに、こんなことになってしまって……
(51) 2010/08/04(Wed) 14時半頃
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ミッシェルさんは聞いてなかったですか。 私がダン親方の作る工芸品に惹かれて弟子入りしたこと…… 何故今更そんなことを?
[ まだ吐き気が治まらないのか、胸と喉元に手を当てたまま、怪訝な顔つきで見ている。]
(53) 2010/08/04(Wed) 14時半頃
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>>54 ……私は参加したくてしてるんじゃありません。 逃げられるものなら逃げ出したい。今すぐにでも。
[ 「吐き捨てる」とまではいかないが、血の気の薄れた唇から零れた言葉は酷く苦い。]
どうせ無事に生きて祭を終えられたって、私はもうこの村には居られないんです。
(56) 2010/08/04(Wed) 15時頃
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>>58 さあ……どうでしょうね。 もしこの儀式が私の思っていた通りのものならば……
[ と、そこで言い淀み、この先は語られなかった。 最後にチラリと投げた視線からは、ミッシェルをあまり信じていない様子が窺える。]
私は死んだ方がいいってくらいに思っている人達がいるってことです。 それ以上は言えません。
[ ついとミッシェルから目を逸らせたまま、マーゴの問いに応えを返した。]
(62) 2010/08/04(Wed) 15時半頃
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[ 村に帰ってよくよく調べれば、本来はボリスが巡礼に出る旨彼の家族から届け出ていたことが分かるだろう。 儀式が始まる直前になって、ヴェスパタインが彼の代わりに『志願』したことも。 ボリスの家族は沈黙を守り、詳細は不明のままだ。 村人の大部分はこの経緯を知らないが、知っている者は憶測を逞しくしていた。]
(65) 2010/08/04(Wed) 16時頃
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>>71 [ マーゴの控え目な問いに、ひくりと肩が動く。]
好きでした……いえ、好きになれると思っていました。 でももう……
[ 呻くように言葉を吐き出すと、顔を覆ってしまった。 その後はもう話す気力を失ったのか、「すみません」とのみ呟いて、その場から去った。*]
(72) 2010/08/04(Wed) 16時半頃
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―広場― [ 広場に戻った彼は、昨日と同じように柊の葉を供物台に置く。それは形式に過ぎないと彼が一番よく知っていたけれど。 還らぬもう一人はピッパと説明され、彼は小さく首を振り嘆息した。 ピッパやホリーの骸がどうなるのかは確かめず、のろのろと足を引き摺り未だ朝靄の漂う道を村外れに向かい歩いて行った。]
(80) 2010/08/04(Wed) 17時頃
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―真昼の森>>34― [ 燦々と降り注ぐ日差しも、深い森の奥には届かない。 禁忌の森には、人は踏み入ることを許されない。 本来であれば、聖なる樹木に捧げられた生贄を人間が弔いのために回収することは許されることではない。
しかし、それを表立って阻止できる者は、もうこの地にはいない。 そう、最も伝統に忠実なヴァンルナール家でさえも、それを止められない。]
(83) 2010/08/04(Wed) 17時半頃
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―真昼の森 >>34― [ イアンが目を覚ました時まず第一に気付くのは、間近で顔を覗き込んでいる皓い貌。 そして、それを縁取る薄暮の長い髪、宵月いろの瞳だ。 紅をさしたように薄紅い唇の端が、うっすらと吊り上っている。]
(84) 2010/08/04(Wed) 17時半頃
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―真昼の森>>85>>86― [ 寝惚けているとしてもあまりに饒舌なイアンの独り言が余程おかしかったのか、クスクスと楽しげな笑い声が上がる。 それにしても、その笑い声はかなり近くから聞こえてくる。殆どイアンの顔の真正面、覗き込む顔はもう少し下がれば口接けが出来るほどだ。
イアンは身体が動かないことを訝っているようだが、それも道理、彼の言う「インキュバス」が、何も纏わず裸の胸を合わせて乗っているのだから。]
(98) 2010/08/04(Wed) 20時半頃
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―真昼の森― [ 『それ』はその彼の饒舌過ぎる口を塞ぐように、口唇をイアンのそれに重ねた。 あたたかくやわらかい感触が、ほんの僅か感じられ。 それはすぐに離れて、彼の眼前で微笑の形を保った。**]
(101) 2010/08/04(Wed) 21時頃
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―真昼の森>>102>>114― [ 口接けを更にもう一度。]
目が醒めたか?
[ 呆然と見上げるイアンを揶揄う声はかろやかな響きを伴っている。]
(116) 2010/08/04(Wed) 22時半頃
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―真昼の森>>119―
ならばよい。
[ イアンの動揺など知らぬげに、唇は一層笑みを深くした。 『それ』は先程自分が触れたばかりの口唇に長い指を押し当て、その縁をなぞる。]
形容する「言葉」を見つけたいと言ったな? お前が欲しいものは本当に「言葉」なのか? これ――ではないのか?
[ 太腿に添えられた片方の手に軽い力が加わる。]
(121) 2010/08/04(Wed) 22時半頃
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―真昼の森 >>119― [ 真昼の月が、イアンの上に昇っている。 『それ』は、ゆる、と動いて、覆うものの無いからだの容をイアンの身体に伝える。 宵闇の髪がひとすじふた筋、零れてイアンの頬に落ちる。]
(122) 2010/08/04(Wed) 23時頃
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―真昼の森>>125― [ イアンの反応を確認するように、顔は更に寄せられ、頬に息が掛かるほど。]
――イアン・マコーミック。 お前は、生贄を喰らったのが俺だと気付いているのだろう? それでもお前は、望むか?
[ 漸く聞き取れるくらいの低い囁きが、産毛を振るわせた。]
(127) 2010/08/04(Wed) 23時頃
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―真昼の森>>132― [ 迷いの無い、イアンの応え。]
――……
[ 問い掛けた者は、果たしてその答えを予期していたのだろうか。 イアンの上を這っていた手が動きを止めた。 『それ』は裸の胸を離して身を起こし、イアンの顔を見下ろした。 月は鏡となって、その瞳に見上げるイアンを映した。]
(134) 2010/08/04(Wed) 23時半頃
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―真昼の森―
では――
お前は捨てねばならない。 人として生きることを。
[ 冷厳にして、非情な宣言。]
(137) 2010/08/04(Wed) 23時半頃
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―真昼の森>>138>>140―
そうではない、が、
「それ」が「何」であるのか知りたいのであれば。
[ 感情を抑えた呟き。 白い面は、先程までの熱も全て消し去り、問い掛ける視線を受け止めて揺らがない。]
お前は、血に塗れることを覚悟せねばならない。
出来ぬのであれば――
(142) 2010/08/05(Thu) 00時頃
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―真昼の森― [ カチカチカチ、と口唇の合間から仄見える白い牙が鳴る。 燦々と木漏れ日が降り注ぐ昼の森が、急に彩度を失う。大気が急速に温度を下げていく。]
(146) 2010/08/05(Thu) 00時頃
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―真昼の森>>147― [ 頷きはしないが、答えぬのは肯定しているも同じこと。 否諾(いなせ)を問うてはいるが、拒否すればどうなるかは自ずと分かる。が。]
(150) 2010/08/05(Thu) 00時頃
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―真昼の森― [ 『それ』は不意に振り返り、森の奥を見据えた。 近付く何かの気配を感じたか、顔を風上に向け、小さく鼻を鳴らす。 見返って、惑いのうちにあるイアンをもう一度見遣った。]
夜にまた。 返事はその時に聞こう。**
(159) 2010/08/05(Thu) 00時半頃
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―午後遅く・自宅二階― [今日も彼は窓辺に座り、髪を梳る。 草原や低木の繁みを縫って、工房へと続く小道を眺め、愛しい人を待つ娘のように。
彼の家も彼自身も、幸いなことに今のところ嫌がらせを受けたり荒らされたりされるような気配はなかった。 ボリスの家族の気持ちはどうか知らないが、今下手に彼にちょっかいを出して、村全体に「身内の恥」を広めるような真似はしたくないのだろう。 元々話し掛けてくる人は少ないから不穏な噂も耳には入らない。 数少ない訪問者も今ではもうここには来ない。]
(193) 2010/08/05(Thu) 16時半頃
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―自宅― [ もう来ない友の代わりに、彼が待つのは誰だろうか。 稚(いとけな)い幼子のように孤独と不安を瞳に宿して見詰めていた同胞か。 恐怖と陶酔の間で引き裂かれながら、それでも決して逃げようとしないイアンか。
やがて身仕度を終えた彼は、自宅を出て広場へと歩き始めた。]
(200) 2010/08/05(Thu) 18時半頃
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―広場― [ 今日は彼が一番乗りであったようだ。 長老達や見送りの村人たちは既に広場に集まっていたが、巡礼たちの姿は見当たらなかった。 彼は、それらの人々の目を避けるように隅に座って、夕暮れ時の空を眺めていた。]
(207) 2010/08/05(Thu) 19時頃
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