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"逃げろ"……ねぇ。
[ゆらと青鉄を細める。]
どういう意味なんだか?
……それは、
言葉どうりの意味ではなくて?
でも、気狂いの戯言では、片付けられないわ。
[人狼という言葉の一瞬でもたらした静寂、
この町には確かにまだ残っているのだろう。
かつての、記憶が]
あん? ……どういう意味だ?
[同席している船乗りや町娘は、昔話の存在程度にしか
その存在を認めていない。
ならば、いかにも妄言で片付けられるものではないか]
それは、
……この町には昔人狼がいて、
そしてその正体を暴く者がいたからよ。
それを知る者も、
大分老いたけれどまだ生きている。
つまり、――野放しにはしておけない、って事か。
[暴く者が今も町に留まっているなら。
否、叫んだ男こそがそうだという可能性も低くない。]
厄介だな。
[町に入って早々、あんな風に騒がれては。
まるで、今しがた寄港した船が人喰いの怪物を運んできた、
そう取られてもおかしくない。
口を封じても、封じなくても。]
[ただ、問題は]
ヒトが腹空かしてる時に。
[船旅は飢えとの戦いだ。
航海中に人を喰らえば逃げ場のない騒ぎになる。
今回だって彼女の――僅かな、しかし肝心な助けがなければ
この町までの海を越えては来られなかったと思う。
それが、船に根を下ろす心算などさらさらない事の本音]
着いてすぐは疑われるから、避けたい所だったが。
……、あの男を?
[問いかけは低く短い。
己の抱く懸念は無論、彼も考えたことだろう。
それでもそうするというのなら]
……私に何か、手伝えることは、ある?
[最初に告げたと同じ言葉を囁くだけだ]
あぁ。
[低く短い懸念を吹き払うように、軽い首肯。]
いや、今回は良い。上手くやるさ。
……俺の席からは、男の姿形は見えなかった。
叫びを聞いた後で、見ようとして見た以外にはな。
[言い換えると、男が逃げろと叫んだ時点では、
己の存在は知られていなかったのだと思われるのだ。
――ならば、男は何故人狼と言ったのか?
それを考えている。]
[夜も更けに更け――
しかし、白銀がぼんやりと僅かな光を浮かべる雪明り。
青鉄の眼が、裏路地を彷徨う人間を捉える。]
……すぅ
[冷えて冴える空気を吸い込んだ。
仕込みも何もない、]
[獲物に掛ける声もなく、その爪牙にかける。]
[すみやかに命を刈り取る襲撃を受けてなお、
まともに物を見る余裕が、かの痩せた男にあればだが。
最後にその目に映ったものは、
砂金の毛皮に鮮紅の瞳の獣の姿だっただろう。]
……駄目ね、
私ではあの男の行方もわからない。
[人としても獣としても、
この身は酷く中途半端だ。
そして彼の言わんとすることに瞑目する。]
……そうね、
あの男がただの気狂いだとしても、
何を切欠にあんなことを言い始めたのか。
[目蓋を閉じても、伝わるような。
しんと冷えた夜の空気と、息遣い。
雪が導く無音の静寂]
……気をつけて。
[案じるは今現在ではない、その先だ*]
気が触れてるんだとしても、だよ。
普段からああいう事を言ってるんじゃなければ、
あの男にとっては何かがあった、って事なんだよな。
[そして町人の反応から想像すると、
恐らくあれは、男の常の言動ではない。]
もし、俺に気付いてたんだったら、俺を指差すよな?
例えば、単なる気の迷いじゃなかったとすると、
誰かまでは解らないが、人狼がいる事だけが解ったのか。
……それとも、俺以外にも……とか?
[案じる声を受ける背は、どこかくすぐったい。]
……――っはあ
[さして鍛えた所のない痩せた獲物ではあったが、
久々に得る、遠慮なく肉を食い裂き、本能を満たす行為が
己の隅々に充足を与えてくる。
うっとりと、喉を鳴らした**]
……あなた以外に、
まさか。
[届く声は彼一人、
それでも彼以外の人狼、
その言葉に蘇るのは、ありえぬ感傷だ。
小さなため息、そして]
[宴の場で異質であった、
あの怪我を負った青年を思う]
……ああ、でもそうね、あの子は何か、
[人狼という言葉へ見せたあの反応、
憶測は憶測に過ぎないけれど―――、
怯えや畏れのようなもの、
それが己自身に向いていることも、
あるいはありえるのかも、しれない]
けれど、
声は聞こえなかったわ。
[どこか寂しげにも、呟きは零れて]
――ねえ、
“それ”は、気持ちいいの?
[肉食獣が喉を鳴らすような、
甘くも聞こえるようなそんな呻きに、
女の囁きには薄い笑みのような気配がのった]
そうだな、まさかだけど。
ありえないと思える事だって、案外起きる。
[あの子、というのが何をどう指すのかは知れないが、
言う通り、声は己と女のものしか聞こえて来ない。]
耳が遠いのか、話す気がないのかは知らないけどな。
[事ここに至って話す気がないのだとしたら余程の世捨人か。]
……うん?
[気持ちいいのか、と問われた。
食事に対してなかなか斬新な質問だ。]
そりゃな。
人間だって、好きな物食って腹一杯になれば気分良いだろ。
それと同じじゃねぇのかな。
[飢えが満たされる事。
狩りをする衝動が満たされる、事。]
それ位ならあんたも解るだろ?
[それは己の生と性が充足する時間だ。]
えーと、何っつったっけな。
カタル……何とかって奴じゃないか?
カタルシス?
……ふふ、ごめんなさいね。
随分と気持ちよさそうに聞こえたものだから。
人を裂くのに、どんな快楽が伴うのかしら、って。
[肌をざわつかせるような、
甘く喉奥を疼かせるような
そんな感覚を、その声に覚えたのは確かだ。
――確かに己の中にも、
その血は流れていると理解する]
ありえないこと、
そうね、何かわかったら教えるわ。
[不確かな憶測と、
――人狼を暴く術と]
そういえば、
まだ、聞いていなかったわね。
あなたがどこから来て、どこへ行くのか。
……昔話は、寝物語の方がいいかしら?
[教会へいたる雪道、
眼下に静かな海を見やりながら囁きを]
そうそれ。
[こんなやり取りでさえ――]
……どうだろうな。まぁ、気持ち良いけど。
人間も野山に入って猟をするけど、
あんたはそういうのもやった事なさそうだしなぁ。
[箱入りの、いかにも良い所のご婦人といった風情の女だ。
今、囁き交わす声が少し浮き立っているようなのが、
記憶と少しだけ違う。]
ん、あぁ。気になるっつってたっけ。
そんな大した話じゃねぇし―― っと。
[急に荷物を振られた旅人はそちらに意識を向けつつも]
別に、いつでも良いぜ。
[そうして、旅人はぽつぽつと話し始めた。
自分がどこから来たのか。]
元は行商の……と言うか、
それに扮した移動性の群れの生まれでな。
うんと小さい頃は母体の事があるから、
確か、少しの間は定住してたと思うけど。
ほとんどずっと、今みたいな暮らしだったな。
[旅が塒とは、よく言ったものだろう。]
……猟はしたことないけれど、
こう見えて、山歩きは得意だったわ。
[ほんの少しすねたように口にするのは、
まだ少女と呼べる年の頃の昔の話だ]
あら、そう?
いつでもいいなんて……、
少しくらい焦らしてくれても、いいのよ。
[そんな無邪気だった面影はもうない、
頼る者も無いまま、一人故郷を離れなければならなかった。
利用できるものは利用した、
結果、悪女と呼ばれたけれど、
後悔も懺悔もない、少しばかりの憐憫があるだけ]
群れというのは……、
家族のようなものかしらね。
[行商というのは理に適っている。
人を襲う以上ひとところに留まり続けるのは危険だ。
それはよく知っている、その結果を見たのだから]
――そう、
その口ぶりでは、故郷の記憶はないの?
ご両親とか、兄弟とか。
……会いたい誰か、とか。
[ぽつりぽつりと、途切れるような囁き]
【人】 女主人 ダーラ―回想― (80) 2013/12/22(Sun) 21時半頃 |
[あの男が警告した人狼なる存在が己でない別人だとしたら。]
[己は同族喰いの嗜好を持たない。
よって、妨害が入った際など、いくつかの例外はあるものの、
極論、"喰おうとして喰えなかった奴"が、
話しかけて来ない同族であるとは言える。]
へぇ? 意外だな。
[あるいは、例え良家の令嬢というやつであっても、
誰しも幼い頃はお転婆な少女だったのかも知れない。]
そうだな、人間で言う所の家族か、集落か。
……故郷の土地っていうのはなかったけど、
小さい頃に住んでた所は、暖かかったな。
多分、春だったんだと思う。
[両親、兄弟、その言葉に左手をポケットに突っ込む。]
――
[子供が少し口をとがらせたような、
何故か決まり悪そうな小声が零れた。]
……狩りも出来ねー位よぼよぼの爺さんになったら、また来る。
つった所なら、あるけど。
【人】 女主人 ダーラ―翌朝― (88) 2013/12/22(Sun) 22時頃 |
【人】 女主人 ダーラああ、お客さん。朝、食べていく? (90) 2013/12/22(Sun) 22時半頃 |
[拗ねたような口ぶりが、
かわいらしいと言ったら彼は不本意だろうから、
零れたのは小さな忍び笑いだけ]
そう、故郷の土地はなくても。
あなたには、
……ちゃんと帰る場所があるのね。
……多分、そういうんじゃねぇよ。
[人の間で人を喰い殺す狼が、
そんなに長くを生きられるとも思っていないし、]
そいつらの仲間になれる訳じゃないしな。
[きっとそれは叶える心算のない約束なのだ。]
旅から旅への根無し草だよ、俺は。
【人】 女主人 ダーラそりゃあねえ、ここに立ってりゃいやでもその辺の噂話は聞こえてくるよ。やけに騒がしいとは思ってたんだ。 (98) 2013/12/22(Sun) 22時半頃 |
いいじゃないの。
いつか帰るかもしれない、
そんな場所があると思うくらいは、きっと
……生きる理由に、なるでしょう?
[それは酷く人間らしい思考だと己自身そう思った]
【人】 女主人 ダーラああ、気をつけるよ。こっちは従業員も抱えてるんだし。 (104) 2013/12/22(Sun) 23時頃 |
【人】 女主人 ダーラそう。ちゃんとやってるならいいのさ。 (106) 2013/12/22(Sun) 23時頃 |
【人】 女主人 ダーラそうそう。噂だもの。 (109) 2013/12/22(Sun) 23時半頃 |
【人】 女主人 ダーラああ、そうだね。つい長話になっちまった。 (112) 2013/12/22(Sun) 23時半頃 |
【人】 女主人 ダーラ野犬?さあ……その辺の街道じゃどうか知らないけど、町中に野犬なんてこの辺じゃあんまり聞かないよねえ。 (117) 2013/12/23(Mon) 00時頃 |
生きるのに理由が必要か?
[解らない、と言いたげに声は囁いた。]
……しかもそれだと、まるであんたの方が、
帰る場所がないみたいに聞こえるぜ。
[都の方で、絵なんかを売り買いする商売だと聞いていた。
そちらは帰るべき場所ではないのだろうか。]
【人】 女主人 ダーラあら、おかえり。 (121) 2013/12/23(Mon) 00時半頃 |
[単純な答えは予期されたもの、
けれどそれは、今は好ましいものだ]
……そうね、
[そしてゆるやかな肯定]
優しい人を大事にしなかったから、
きっと罰があたったのね。
[珍しく自嘲のようなものが溢れて]
つまらないことを聞かせたわね、
ごめんなさい。
【人】 女主人 ダーラ人狼……ねえ。 (134) 2013/12/23(Mon) 01時頃 |
……ふうん。
[返す相槌は、少し気のないものになった。
人間にとっての、その罰が当たる、という感覚も、
あまり実感が伴わない、知識の上の言葉だ。]
[ただ、血が薄れて人間になってしまったのに、
こうして声だけがする女の性質は、やはり、
己の目からは中途半端なものに思えて――
生きにくいだろうな、と思ってしまう。]
【人】 女主人 ダーラあら、おはよう。 (146) 2013/12/23(Mon) 01時半頃 |
……こういう時に、
慰めの言葉のひとつでもさらりと言えると、
もてるのよ?
[返る相槌にそんなことを言ったのは、
あまり引きずりたくない感情だったせいだ]
それに私の話より、
あなたのこと、でしょう?
[そんな一言も添えて*]
【人】 女主人 ダーラなんだか呑気だねえ。いやまあ、あのぐらいの方がいいんだけど。 (153) 2013/12/23(Mon) 02時頃 |
そりゃぁ、失礼?
[冗談めかして言われる"もてる"との弁も、
女と己では意味合いが変わってしまうのだが。
とは言え、そうした文句が使える価値はあるだろうから、
次からは何か考えておこう、と思う程度]
つっても、あぁ……どこまで話したっけ。
ほとんど話は終わったみたいなもんだしなぁ。
[生まれた群れについて。
そして、いつか再び訪れるかも知れない先について。]
別に、先なんて決まってないしな。
どこまでだって行くし――どこに着く事もない。
[終着がある旅ではない。狩り場を求めて流れるだけだ。]
【人】 女主人 ダーラ安宿で悪かったね。 (159) 2013/12/23(Mon) 02時半頃 |
【人】 女主人 ダーラああ、そうだね。 (164) 2013/12/23(Mon) 02時半頃 |
……意外と、人狼の仕業ってのは信憑性ないみたいだな。
この分なら俺、必要な食事の分だけで良いのかね。
[他の獣が血の匂いに誘われなければだが。]
お上が人狼の仕業って言ったらまた変わるだろうけどな。
あの男の言う事を本気にしそうな人間、他にいるかな……
【人】 女主人 ダーラ―朝凪亭― (195) 2013/12/23(Mon) 22時半頃 |
【人】 女主人 ダーラ[記憶を辿り起こし、宿に泊まった面々を思い出す。セレスト、ホレーショ―、ヤニク……他にも何人かはいるが。] (196) 2013/12/23(Mon) 22時半頃 |
……私の弟はね、
この町の教会の司祭様に、
正体を暴かれたのよ。
[ぽつりと零して]
……知らせは聞いた?
しばらくはこの町を離れるのは難しそうね。
あぁ、こっちも聞いた。
[予想の範囲内ではあるので、そちらは殊更驚かないが。]
そっか。
そんな事があっても、この町に来るんだな。
[彼女にとっては予定外の寄港だったのかも知れない、が、
その事は己には解らない。
何の為にか。
例えば故郷は、ただ故郷というだけで訪れる価値があるのか。
あるいは――生きる意味に関わるのか。]
……この町に来たのは、ただの偶然だわ。
乗るはずだった船に事故があっただけ。
あなたはでも、
私があの船に乗っていて有難かったでしょう?
メイドの客室もあけてあげたのだし。
まあな。
[メイド用とは言え良い部屋だった。
あんまり良い部屋過ぎて居慣れなかった結果、
ほっつき歩いてホレーショーのような
船乗りの知己が出来た訳だけれど、そこはそれだ。
寝心地は良かったです。]
……――どうした?
……昔の知り合いに会っただけよ。
でも、私がわからなかったみたい。
私は人狼ではないから、
あの子の身代わりにもなれなかったのに。
こんなことで、
人間でもないなんて思い知らされるなんて、
………馬鹿ね。
[震えるような声音の囁き]
へぇ。あの爺さんが。
[己の事を、子か孫のような歳と言う位だから、
確かに、老人と知り合いであっても不思議はない。]
[そして人狼は、]
――それは、本当に解らなかったのか?
[あくまで人狼。]
見えない所で密告する可能性があるんじゃないのか。
嘘をつけるような人じゃ、ないの。
それに、私は……別にいいのよ。
ただ、あなたの無事は祈っているわ。
……。
なら、良いけどな。
気をつけな。
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