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―――私が厭きて仕舞わぬうちに。
―――…朧掛かる藤を愛でるのも一つの愉悦。
朱華の丁助詰んのも悪くねぇな。
ニコラス坊やに花遊び教えてやんのも吝かじぇねぇし…、
おう、女衒も着てるのかい。そいつぁ、剛毅だ。
[廊下を渡る際に呟いたのは、シーシャの後姿を垣間見た所為。
うっそりと、悪辣なる男は今宵の華を計りに掛けて笑んだ。*]
[さあどうしたものかと男は一人首を傾げた。
脳裏に印象付くのは淡藤の君。しかしされとて朧な花の言うように、ひとつひとつ味を確かめに行っても悪くは無いと、疼く心中ただ胸中のみに抑え、ゆうるり靴先を花主の腰の据える方へ]
――いち、に、
[ひいふうみいと目にした花を指折り数え歩む中に、
軈て視界の端、廊下の先に一人の男
[そうして、ふと覚える視線。
顔を起こせば、花にも見間違えるほど美しい蝶が一頭。
緩やか指先振って簡単な挨拶向けると、ニィと口角が捩じれた。]
毛並み違いが好きそうな顔をしてやがるな。
ニコラス坊やと喧嘩するなよ。
[肥えた眸の色など、見れば解かる。
密やかに飛ばす声は、喉を震わせつつも。
乱痴気騒ぎも好む男は、彼のような作法を知らない。]
[今日は様々な花を見知った…。
見かけただけでまだ会話を交わしていない花もいる。
さてどの花に留まろうか。
先ほどは亀吉に意味ありげな言葉をかけたものの、
まだ何一つ心に決めたことはない。
可憐な櫻の梢に止まるのは居心地が良さそうだ。
さっきの言葉通り亀吉に会いに行くのだっていい。
まだ言葉を交わしてない丁助の人となりを知るために
一晩を共にするのはどうだろうか。
とりあえずヘクターさんに相談してみるという手もあるか…。
そんなことを考え歩んでいれば、二人の蝶
[花達と余暇を愉しんでいれば、新たに集う一羽の煌き。
悪事を企むように、性質の悪い顔を晒して彼も傍に呼んだ。]
相変わらず、お前さんは天性の色男だねぇ。
目移りしてるって、顔に書いてあるぜ?
[揶揄を坊やと呼んで憚らぬ彼に掛けると、視線は更にスライド。
シーシャの後頭部へと投じる眼差し。]
お前さんは如何するね。
なぁに、どうせ毎晩夜は暮れる。
お前さんも道楽者を気取るなら、俺がさっさと買っちまうぜ?
色男だなんてそんな。
目移りしてるのは確かですが。
[面と向かって軽い調子で色男だなんて言われて顔が少し熱くなった。
そういえば丁助さんという花をご存知ですか?
ちょっと中庭で見かけて、
話してみたかったんですけど、会えずじまいで。
興味はあるんですけどね…。
[この館に何度か来ている様子のヘクターなら、丁助がどのような花か知っているだろうかと尋ねてみた。]
【人】 半の目 丁助[とうのすけの癖、と言われた彼の気質は、悪意の感じさせない優しくありがたい物だと思う。>>19>>20 (28) 2014/09/14(Sun) 20時半頃 |
[花よりも濃い色を醸し出す羽音の群れ
人の集う場所には美味い物が付き物だと足を揃えたはいいものの、どうやら味覚が異なる蝶ばかりのようで。
そもそも男はまだ廊下すら歩んでいない。掃除をしに来た訳でもあるまいに……朱色の花と言の葉を交わせた事は収穫であったが。]
……まだ決めあぐねてる所でなァ
何ならお前らが先に決めてくれ。
残った花を、両手に抱えて降りて行くのも悪くねェし。
[羽ばたきの中でも、最も線が細い音
ああ、丁助は中々の悪辣よ。
坊やも冒険家じゃねぇの、アレが欲しいかい。
[軽く口笛鳴らすように貰ったばかりの煙を燻らせた。
そうして、会話に加わるシーシャの奔放さも鑑みる事数秒
―――…なら、大盤振る舞いでもすっかな。
愉しませておくれよ?
花も蝶も。
籠の中で、妖艶に。
くふはははは…
[花にも蝶にも届くまい。
男の高笑いは、闇に溶け *消ゆ*]
朧、朧はいますか?
……その……茶色の蝶が貴方を呼んでいるのです。
もしかしたら彼への指名なのだろうか――多分そうだと思うと年の離れた友人を探す
へえ、あんなに優しそうなのに悪辣なんですか?
それはますます興味が湧いてきました。
正直アレもコレも欲しくて困ってしまいます。
[言って、恥ずかしげに頬を掻く。
しかし強欲は良くない。
少しの間目を閉じて考えると、
この日一番心に残った花を摘むことに決めた。
その姿を見せていない時にすら会話の端々に現れて、
僕の興味を掻き立てたあの無垢な花を。]
でも今夜のところは僕、
櫻子さんと一緒にいたいですかね。
[心情を蝶の群れに吐露するとくすくすと笑った。]
そりゃそうよ、花だけ見て実が知れようかね。
次々手を付けるは、良き蝶よ。
―――櫻子を摘むなら、たんと甘く可愛がってやんな。
お前さんの蜜を鱈腹含んだ櫻なれば、俺の食指も伸びようや。
[ニコラスの声に離れゆく男が煙と共に悪趣味を吐き出して。
また、花を責める一手を一つ打つ。
大変美しく笑んだ良家の子息に、いけねぇ坊やだ。と、
彼の貪欲誉めそやすよう、甘く囁いたが最後。
えへへ、分かりました。
[去っていくヘクター
それにしても食指が伸びる、とは他の花たちを揶揄っていたみたいに櫻子のことを虐めるつもりなのだろうか。
…それはそれで「興味」がある。
ヘクターが去り際に耳元に囁いた言葉ににやりと笑んで、少し間を置いて自分も花主の下へと。]
[――次々と歩みを宵闇へと向けて行く彼等
こんな夜から大盤振る舞いなんて、随分なことだね
[先に投げられた言葉
そうして脳裏に返るは朧月夜。揺らめく月光空より降り。
ただその月を手に入れたとならば――この飢えも満たせようか]
…。あの淡藤、今夜は俺が貰う。
[ただ廊下にその声を反響させたとならば、男もまた名も知らぬ花主の元へとその姿を見せに、声を届けに行ったことだろう]*
[男が言った矢先お客は二輪刺しを所望したように思えて、買われた者達には同情の二文字を送る。
次いで、考えがあってか天然なのか……天然だとしたら末恐ろしいが、頬にかかったブロンドの奥を恥ずかしげに染める蝶
櫻子……慎ましい風の、アイツかな?
まだ俺も買った事がねェ花だ。
土産話、期待してるよ。
[言っては、続いて廊下に消え行く二人を見送るだろう。]
[聞く前に残った一羽
おうおう、了解。
今夜の花とは丁度いっしょにいる事だ。
お手手繋いで行こうかねェ。
[穏やかな気を纏う男の姿が見えなくなったならば、自分も後を追って*]
【人】 半の目 丁助[火傷慣れ、そう言いながら何事も無かったかのようにする蝶の手を、少しだけ視線で追う。>>48 (53) 2014/09/14(Sun) 23時頃 |
[慣れた動作で腕へ収まる隣の友人
自分も楚々とそんな風に――普段ならできるはずだがかの男の腕へと留まる瞬間僅か、体が震えた
これではまるでおぼこではないかと自分を叱咤し次の瞬間にはいつもの、顔に]
[どこか何時もの様子………とは言っても闇夜に浮かぶ藤之助の姿を見た事は無いに等しかったか……に
心配そうに藤之助を一瞬みやる。視線は合っただろうか。
瞬きをしてしまえばその色も消え失せ意識は無理やり蝶へと。]
[視線が合えば
瞬き一つで蝶へと心向ける彼を見れば、自分もまた蝶へと意識を戻す]
【人】 半の目 丁助―地下へと― (61) 2014/09/15(Mon) 00時頃 |
【人】 半の目 丁助[先客たる二輪花の在る格子へ、視線は僅か。 (62) 2014/09/15(Mon) 00時頃 |
【人】 半の目 丁助[やがてやって来た蝶。 (78) 2014/09/15(Mon) 01時半頃 |
【人】 半の目 丁助 こうして欲しい、等の要望を聞いたり、或いは……言葉を交わさず、好きに、して頂いたり。 (79) 2014/09/15(Mon) 01時半頃 |
それが僕の『しあわせ』なのです。
[窓に映るは、薄明かり。
蝋燭のくゆる姿に、今暫く時を遡ることを
どうか、お許し頂ければと思います。]
── 広間での刻 ──
[亀吉さんが隣に腰掛けて下さった時のことにございます。
振り返り、微笑み返した表情は
何時ものように、微笑ましいそれではなかったのです。
書物綴る呪いの言葉に、僕は大切な人を思い出しておりました。
勉強にと開きましたのは別の頁でありました。
けれど僕はふと、問わずに居られなかったのです。]
亀吉さん。
あなたには、『特別な御方』は居られますか?
[違う異国の言葉を射干玉に移しながら。
僕は先程の言葉を心に返していたのでございます。]
‘Tis better to have loved and lost
than never to have loved at all.
[流暢に唇が、呪いの言葉を紡ぎます。
その意味は亀吉さんには判らないでしょう。
それを教えて差し上げるための、この時間に
僕は、訊かずしていられなかったのです。]
───亀吉さんは『しあわせ』ですか?
[下がる眉が寂しげに。
揺れそうな射干玉が、亀吉さんを見詰めていたのでありました。]
─広間での刻─
[流れるような闇色を揺らし振り返った先。
浮かべられた口元の弧に少しの間戸惑いを窺えたのはきっと。
広間を照らす月灯りのそば、傍らに存在する梢のみだろう
戸惑いつつも笑みを浮かべてしまったのは、その中に滲む芯に触れた気がした悦び。
それでもこの花弁に群い喰らおうとする、その陰の存在を邪推すれば表情は曇ったのだった。]
[かける言葉が見当たらず、口先は先程のやり取りを演じ。
勉強会が始まったのなら、書に刻まれた文字を幼子のように読み上げていたでしょうが。
唐突に匂いを増す射干玉の香りに、飲み込まれるように唇を動かしたのだった。]
──…特別、ですか?
[惑うまま鸚鵡のように繰り返せば、口籠らせ。
けれども何か答えなければならない。見えない何かに促されるよう、悩んだ結果、唇が紡いだのは──…]
…私には、愛が何なのか、どのようなものなのかは……分かりません。
ただ、誰かを特別に思い、思われることは…。果たして本当に幸せ、なのでしょうか。
[薄桃の唇
首を傾げつつも、凪いだ瞳で一輪の花を見つめて。]
──…いいえ。
だって、貴方が哀しんでおられるから。
[言い切っては、今にも零れそうに湖畔にて揺れる射干玉に。
時計の針が重なるまでの暫しの間。
そっと、きめ細かな白い手に腕を伸ばしただろう。
もし許されたのなら、重ねようと。
少しでも戸惑う素振りを感じたのならすぐに膝に下ろしたけれども。
双眸はただただ、僅か睫毛伏せつつ憂いたように、灯る。]
[僕の突然の問いはきっと亀吉さんを困らせていたことでしょう。
『特別』を鸚鵡返しする声をききました
籠らせてしまった挙げ句、それでも亀吉さんは言の葉に思いを乗せてくれたように思います。
「誰かを特別に思い、思われることは…。果たして本当に幸せ、なのでしょうか。」
僕はこのとき、とても寂しい顔をしてしまったように思います。]
僕にも、判りません。
愛がどんなものであるのか、などと。
[『花』には必要のないものなのです。
僕たちは愛し、愛されるのではありません。
『蝶』を惑わせ、誘惑し、休ませ、慈しみ、夢を魅せる。
ですから僕には到底、判らぬのです。
「真実の愛は朽ちることがない」
判るはずがないのです。]
[僕の手に、ゆっくりと重なる手がありました
嫌がる素振りも、戸惑うこともありませんでした。
僕はその手に手を重ね、ゆるりと此方側へ引いたのでございます。
身長の差のせいでしょう。
いえ、元からそうしようと思ってだったのかもしれません。
僕は亀吉さんの手を引く反動にて、彼の胸元へとその身を預けたのでございます。
射干玉は酷く哀しげな色をして、見上げておりました。
揺れ揺らぎはすれども、雫が落つることはやはりなかったのでございます。]
僕の『先生』は、愛など要らぬと僕に教え。
懇意の蝶の毒牙にかかり。
『特別』を知り、『愛』の中に、なく、なられたのです。
[この廓でその毒にかかるとどうなるか。
『花』は聞かされずとも、みなが感じ取っているでしょう。
僕は、僕を厳しく優しく育ててくれたその『花』の末路をしっております。
だからこそ、僕は凛とした『櫻の花』であろうとしているというのに。]
それを、少し思い出して…。
辛かったのです。
[『しあわせ』ですか、という問いに『いいえ』と答えたその人に。
僕は遠慮もなく、きゅうと抱きついていたのでございました。]
特別など、あってはならぬのです。
『花』は蝶を選んではなりません。
『花』は翅がほしいと願ってはなりません。
何方かを好いても
何方をも嫌っても
けっして、ならぬのですよ。
[まるで言い聞かせるように零れた言の葉。
嗚呼、また気遣って喋らせてしまうでしょうか
あのときの複雑に曇った笑顔の奥底を知らず。
僕は暫く、亀吉さんの胸に身体を預けていたのでございます**]
[浮き上がるうら淋げなお顔
瞳の中に宿したのなら、暫し胸を締め付ける感覚に戸惑うように瞳を泳がせていたものの、続いて薄桃色が紡いだ言葉
花を愛づる彼が愛を知らない、だなんて。
淡藤にはひとつの虚言のように思えてしまったために。
全てが嘘だとは思っている訳では無く。
まるで己に言い聞かせているように聞こえた、というだけ。]
判らない。
…そういうことにしておきましょう。
[こんなにも寂しげに愛を判らないとと告げる言葉に、うまくかける言葉は思い付かず。
だからと言って判らないという結論には寂しく思うのもあり。
曖昧なお返事を返したのだったか。]
[伸ばした指先は花を愛づる手のひらと重なる。
そのことにホッと一息を吐けど、少しして緩慢ながらも引かれてしまえば、虚を突かれた身体は、素直に小さな頭を胸元にて受け止めただろう。
そして揺れる射干玉には、無意識の内に噤んでいた唇を許し。
揺れはするものの、雫を伝わせることのない頬に人差し指を伸ばしたのなら拭うような素振りをして。]
──…。
[そっと自身よりも幾分か華奢に思える肩に腕を回すことができたなら、宥めるように黒髪を梳きつつ、全ての言葉を飲み込んで。
そっと先人の教えに耳を傾ければ、愛の夢で花弁散らした花の存在を知ったのだった
………。
[桜の唇から紡がれる“先生”とその周りをつ移ろう蝶の末路
きゅうと抱きつかれたのなら、拒むこと無く享受しただろう。
「辛い」「少し思い出して」と、彼の口振りから推測するに教えを伝えたという花の末路に足を踏み入れようとしてしてまったのだろうか。
…一体誰が? 呟きは声にはせず心の中で押しとどめれば、耳にする先生の言葉
[きっと、きっとこの御人の胸の内には“特別な人”がいらっしゃるのだろう。
それがどのような味の実なのかは流石に判らずとも、己に言い聞かせるような言の葉に。ただ小さく頷いただろう。]
……ええ。分かっておりますとも。
[けれど、蝶に選ばれ摘み取られてしまったのならどうするのだろう。
唇を迷うように閉じては開きを繰り返していたけれど。
胸元にかかる重みと花の匂いに暫し、酔うように結局目蓋を閉じたのだった。]**
[僕の言葉に、亀吉さんの表情は細やかながらも変化を見せるようでありました。
寂しげな表情には、目を泳がせておられましたし
紡いだ言葉には、瞼が閉じられてしまったのです。
「…そういうことにしておきましょう。」
亀吉さんの選んだ言の葉に、半分は救われた気がしました。
ですが残り半分は?
詰まる思いを胸に押し込み、僕は身を寄せたのでございます。]
[とん、と。
一度胸元に添えることを許された頭は、そっと微かな音を立てました。
亀吉さんという御方は、とてもお優しい方です。
何も謂わずに突然と身を預けた僕のことを責めることもなく
享受し、果てはその指で頬を撫でてまで下さるのです。
涙など枯れ果てた、可愛いげのない櫻の枝葉を
淡藤の蔓が、柔らかく撫ぜてゆきました。
落ちることも、流れることもない朝露。
その色も、その味も、僕自身とて知ることなどないのです。
亀吉さんの手が、僕の肩へと回るのならば
僕はまるでそれが自然であるかのように、身体を彼へと擦り寄せました。
眸同じく射干玉の髪を梳く手に、吐息を溢したのでございます。]
[暫くは、流れるだけの時をまるで止めるようにして
『花』が『花』へと、寄り添いあっていたのでございます。
髪を梳く指先、伸ばした艶やかなその毛先が着物に擦れ
長い睫毛が、上と下とで合わさる音だけが
ただ、止められぬ時の移ろいの中で
微かに響いていたのでございます。]
……、…ありがとうございます。
[やがてはそんな穏やかで、どこか寂しげな時も終わりを迎えねばなりません。
このままでいられたらと、我儘を口にしてしまうよりも前に
僕は寄せていた身を、緩やかに離しました。]
あなたは、とても聡明な『花』。
朧さんからは振舞いや、花たるそのお心を。
僕からは読み書きや、言の葉に乗せられる想いを。
きっと藤之助さんからは、柔らかなお心遣いを。
きっと丁助さんからは、その面に浮かべる笑みを。
こんなにも『先生』が居てくれるのですから、とても美しく咲き誇れるでしょう。
『花』として、あなたと巡り会えたこの『仕合せ』を
僕は本当に『しあわせ』に思います。
[離れを惜しみ、僕は彼を象徴する淡藤に細い指先を伸ばしました。
慈しむように撫で、僕は背を伸ばし。
薄い櫻色の唇で触れることは、許されたでしょうか。
許されたならばその髪に、そっとやわらかな感触が音もなく触れたことでしょう。]
今日は、あまりしっかりとお勉強が出来ませんでしたね。
[身体を離してからは、そんなことを紡ぎました。
ふふっと笑みを溢す表情と、異国の呪いへと落とした表情とは明らかに違う
いつもの朗らかな微笑みを、彼に向けていたのでございます。]
時間のある時だなんて、寂しいことを仰るのですか?
僕はいつでも、此処におります。
居なければ書斎、居なければ中庭。
「お会いしたかったので、会いに来ました。」
また、そう謂って下さい。
[繰り返すは、意趣返しに溢された言葉でありました。
ありがとうございますともう一度告げたのならば
僕は小さく頭を下げて、彼を上目に見つめた後に
その場を離れたのでございます**]
[この御方のように、優しげな笑みなど浮かべない
高慢で傲慢なひとひらが、僕の脳裏をよぎっても。
ひとつ、落とす言の葉は音になどなるはずもないのです。]
[淡藤は桜の梢と寄り添うように腕を回しただろう。
さすればごく自然な動作でふわりとした花の匂いが近付き
そっと小さくはにかんだでしょう。
漏れた吐息は二輪、同じ頃だったか。
溶け入るように吐き出しながら、そっと流れに沿うように艶やかな射千玉に指先を絡めていただろう。
けれども時間は無情にも過ぎ行くもの。
胸元に香る気配が離れてしまえば、視線で追ってしまいつつも、引き止めることはせず
いいえ、出来ないといった方が正しいでしょうか。
何故なら淡藤の指先も胸元に残る花の香りと同じく、枝葉に過ぎず。
『花』には『花』を引き寄せることも、その場で縫いとめることも、出来ないのだから。]
[淡藤は年の瀬こそ丁助という花と重なるにしても、此処へ訪れたのはきっと、花達の中でも遅咲きであったと記憶しており。
だからこそ多くの方に教えを請うては苦労をかけさせたものの、こうして座敷にて一部屋お借りすることが出来ている。
それもひとえに此処に御座す花籠のお陰。
先に咲いた可憐な一輪の言の葉を耳に頂戴したのなら
綻んだような笑みを向けてみせたでしょう。]
…ええ、貴方達に育てられた『花』ですから。
些か甘い露を啜り過ぎた気も致しますが、きっと。
……、きっと、咲いてみせます。
[するりと、淡藤に戯れなさる指先を拒む筈も無く。
欲張りな花は少しだけ甘えるように頭を下に傾けて。
やがて音も無く唇を落とされたのなら、そっと頬を赤く色付かせたでしょう。]
[顔を上げる頃には頬紅は成りを潜めていたけれど、言葉紡ぎ朗らかに微笑む御方には目元を和らげてみせ]
…いいえ。今日も甘露を頂きましたから。
[櫻色の唇を落とされた髪をゆるりと揺らしながら微笑み。
選ばれ遊ばれた言葉を頂けば]
…月が欠けてしまう前に、必ず。
貴方にお会いしたい。
[針が示す前と同じものを紡いでは、射干玉を凪いだ瞳で見つめ返し、後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、見送ったのでした。]*
【人】 半の目 丁助[二人の位置が、少し変わる。 (108) 2014/09/15(Mon) 16時半頃 |
【人】 半の目 丁助 次は…… (121) 2014/09/15(Mon) 20時半頃 |
[聴こえません。
花の声も、蝶の声も。
蜂蜜色へと変わる櫻は、彼の『蝶』だけを見つめているのです。]
[藤之助の声も、他の花の音も。
届かないフリ、聞こえないふり。
――――……そうでなければ朧を保てなくなってしまう。]
[腕を引いてくれと、そう望んだのは他ならぬ自分。
その手にまた触れることが出来た時、確かに左胸は鼓動を大きく揺らしたというのに。
結局、『花』は『花』でしかあらぬのだ。
胸元に残る花の教えを深く、深く刻みつつ。
そっと銀で覆われた縁を歪ませた。]
【人】 半の目 丁助[此の蝶が、何を愉しむのか、愉しんでいるのか、予測は淡い水音に消え。>>128>>129 (138) 2014/09/15(Mon) 22時頃 |
【人】 半の目 丁助 ……んっ。 (139) 2014/09/15(Mon) 22時頃 |
[見ないで、と声に出さぬまま、口はそう紡いで
目尻には快楽からか――うっすら涙が浮かんでいたろう]
[とうのすけ。
音にはせずに藤色の花を呼ぶ。
頭を撫でてやることも、雫を拭ってやる事もできないこのもどかしさ。
己が『朧』である事を、友である事をこれ程に後悔した事は無い。
関わりが浅い『花』となら、こんな思いをせずに済んだのか。]
【人】 半の目 丁助[触れる、黒の内側から露になった素肌の温度。 (157) 2014/09/15(Mon) 23時半頃 |
【人】 半の目 丁助 ……シーシャ、サン。 (158) 2014/09/15(Mon) 23時半頃 |
[今宵は二輪が共に買われているのかと
心のどこかで、そう思っておりました。
聞こえぬフリをしていても、耳には否にも届くのでございます。
お優しい藤の花が、辱められているのでしょう。
麗しい朧の花が、甚振られているのでしょう。
揺れる焔の花は、遠くに身を委ねているのでしょうか。
綻ぶ淡藤の花は、求められるまま咲いているのでしょうか。
───裡に渦巻くものから眸を逸らし。
僕は金糸雀の唄に、耳を傾けるのです。]
朧、お願い……もう……
[小さく、願う様に囁く声は涙と色に濡れ
彼にこんなことをさせてしまっているのだと自覚すればぱらぱらと汗に混じり雫が頬を伝った]
【人】 半の目 丁助 いいえ、どういたしまして。 (178) 2014/09/16(Tue) 01時頃 |
―――坊やの悪趣味に比べちゃ、俺なんぞ可愛いもんよな。
[喉を震わせた独り言を聞くものは居ない。
ただ、と思案巡らせ、瞳を微かに揺らした。]
あれもつくづく、面白い坊やだ。
[溜息のような感嘆は、男にしては珍しい他者への興味。
花籠の外に向ける視線は、久しく。
過ぎった感覚を自覚すれば、
笑気一つ零して、夜に再び身を浸した。**]
[ごめんなさい、と
唇は涙浮かべた子供の様に震えながら言葉を紡いだ]
[隣より聞こえるは、激しさを表す声でありました。
肌の打ち合う音も、粘膜擦れる水音も。
やがては明瞭でない嬌声が、弾ける瞬間を伝えたでしょう
見えぬはずの涙の音が、此方へ届いた気さえします。
他の牢でもきっと、花々は咲き乱れているはずです。
此処はそういう場所なのですから。
そしてそれが僕たち『花』の、『しあわせ』であるはずなのです。]
[僕の戯れのような接吻けに、頬を染めた銀花も
誰ぞ彼の腕の中、咲き誇っているのでしょうか。
丸窓からちらりとだけ、月の端が見えました。
「月が欠ける前に」などという言葉を
不意に僕は思い出し
傾く月を眺めては、彼の『花』の行く末を想うのです。]
あなたは、いま。
『しあわせ』ですか?
[尋ねる事が出来たのは、亀吉さんだけでありました。
丁助さんには、寸でのところで訊くのを躊躇ってしまいました。
朧さんに訊けば、叱られてしまうでしょうか。
藤之助さんに訊けば、困らせてしまうでしょうか。
他の花たちにも、訊きたくとも訊けないでしょう。
どうして、訊けないのでしょう?
何故、訊けないのでしょう?
わからないまま、僕はいつであろうとこう答えるのです。]
僕は『しあわせ』です、───と。
【人】 半の目 丁助 っ、……は。 (196) 2014/09/16(Tue) 05時頃 |
【人】 半の目 丁助[そろりと彼の腰へ手を伸ばす。 (197) 2014/09/16(Tue) 05時頃 |
──幸せとは、こんなにも胸が苦しいことなのですか。
[“教えて下さい”
闇世の中、音にさえならなかった吐息が小さく反響しては、消える。]
僕は『しあわせ』です。
[何時の時もそう答えましょう。
何方さまにもそう応えましょう。
胸が苦しいなど、僕にはわからぬ想いなのです。
朽ちた花の行く末を知ればこそ。
その毒に囚われてはならないと。]
[櫻は誠の『しあわせ』に、まだ散るを知りません。
咲いてさえ、いないのですから。]
‘Tis better to have loved and lost
than never to have loved at all.
[この感情をどう表せばいいのか。
腹の辺りに渦巻くこれを。
怒りか、呆れか、それとも悲しみか、羞恥か。
『花』として誇りを持ち、美しく咲き誇れ。
俺を育てた花は口癖のように言っていた。
どんな辱めを受けようとも、どのような思いをしても蝶を惑わせる花であれ。
その言葉を道標に、今まで歩んできたはずなのに。]
――……
[ごめんなさい、朧
と。蝶の言葉により友の貌を伝える際に小さく告げる
命によりその怜悧な顔を穢し、なおも言葉で責めねばならぬ事への謝罪と、それでも目を逸らせぬことへの懺悔であった]
【人】 半の目 丁助 ……そう、ですが。 (253) 2014/09/17(Wed) 00時頃 |
【人】 半の目 丁助[やがて解れた其処を拡げ、丁の上へと蝶を導く事ができたなら、言葉にした通りに出来る限りの気遣いを持って、沈めて行く事になる。 (254) 2014/09/17(Wed) 00時頃 |
[こんな、ゆめものがたりが誠であれば
所謂『しあわせ』というものなのでしょう。
ですが、なりません。
『特別』になることも
『特別』をもつことも
『花』には許されざるべきことなのです。]
[僕たちに許されているのは、ただひとつ。
『花』として咲く。
ただ、それだけなのでございます。]
[――朧、朧
声ならぬ声で彼を呼ぶ
そんな顔をしないでと虚空を見つめる彼の頬
友にだけは、こんなに泣き濡れた姿を見せたくなかった
失望されたくないんだ、と]
――――退屈だよ。
愛しい愛しい吾が子達。
お勤め、ご苦労様。
夢を売り売り、躯を売って。
せっせと借金返しておくれ。
いやいや、返せなくとも構わないんだよ。
花咲く内は、私が愛でていてあげるからね?
[どうせいつかは枯れる花なれば。
月下の元 夢に揺蕩うことは許されよう。
押し潰した筈の芽は 結局は小さく蕾を芽吹かせた。
けれども孰れ摘み取られてしまうのだから。
蜜濃くなるその一瞬だけでも。
『花』として、『蝶』を望む]
[花しかしらぬ男の一面。
笑い、嗤っては、今宵の対価をばら撒いていく。
地下牢に舞うのは紙幣の花吹雪。
花弁の枚数が、今夜支払われた対価。
さあ拾えと、男は花々を見下した。
歪んだ唇に滲むのは、狂気の沙汰であっただろう。]
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sol・la
ななころび
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