162 絶望と後悔と懺悔と
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逃げたくても、
……逃げられないこともあるわ。
[声に感情はこもらない、
それはどこか遠くにあるのを感じている]
忘れてしまったら、約束した相手が、……可哀想。
[こんな言葉が何故零れたのか、わからない。
けれど機械的に告げられた言葉よりも、少し温度があった]
あなたと戦う理由が無いわ。
[問いかけには少し、不思議そうに返した]
よく来た。
[雛達が揃えばその眼光と纏う羽根を、見定める様に
玉座から見下ろす。
身に付けさせた衣装も武具も最高級のモノ。
それに見合う中身かどうか。
玉座に向ける視線や殺意が混じろうが歯牙にも掛けない]
喜べ。
初陣だ。
[掛ける言葉は簡潔なもの]
目標は帝都陸軍。
誰も残すな。
お前達の成長を私に見せろ。
いよいよね。
期待しているわ。
[そう言って笑う表情は愉しげで。
手塩にかけた教え子を送り出すようには到底見えないだろう。]
今までと違って外部の家畜を殺すのだもの。
緊張するかもしれないけれど、頑張ってね。
―初陣の前―
[召喚を受ける時は必ず、黒百合の後ろや、
理依や真弓や零瑠よりも下がった位置につく。
この習慣は、心臓の巣食いとともにすぐに覚えた。
不要な言葉も発しない。]
……承知しました。
[和装をすることは昔から変わらないが、
腰にある短剣は西洋の趣を備えている。]
[そう、この5年間の指導の中では当然ながら家畜を殺す訓練だってあった。
食事のためでは無く、邪魔だから相手を殺す事。
それもまた、トルドヴィンの求める戦力には必要な事なのだから。]
――5年後――
[扉の前で脇に挟んだものは学生帽。
視界を塞ぐ為に『兄』から与えられたもの。
名残惜しい訳ではない。
ただ、体が成長するにつれ、隙間がなくなっていくから手離せ難かった。
開く扉。歩を進め、ブーツの踵を揃えて理依の隣に立つ。]
………。
……魔鏡?
変わったものを持っているのね。
[>>*251 古いけれど大切にされていただろう手鏡の、その仕組みがそう呼ばれることは知識にあった。
一歩前に近づく、ろうそくの炎が揺らめければ、壁に映る花模様もあえかに揺らいだ]
うん、……綺麗、
牡丹の花ね、冬にも咲く花。
――……あなたは何か、祈るの?
[問いかけて振り返る、
ゆらぐろうそくの灯りは、柔らかな色。
照らされた頬は、魔物ではない人のような色だった]
お前達が携えて良いのは吸血鬼の誇りと勝利のみ。
未だ分を弁えぬ家畜達に思い知らせろ。
[儀礼用に携えていたサーベルを抜くと、一度天に掲げて
ゆっくりと扉を指した]
― 初陣の前 ―
…外、ですか。
[外の光を浴びなくなってもうどのくらいになるのかな。……五年?
日にちを数えるのはとっくにやめていた。
僕はにーさんやねーさん達より小さいままで、相変わらず長袖の服しか着なくて、
もう意味ありげな笑い顔が顔中に貼りついちゃったに違いないんだけど、
鏡を見なくなってやっぱり長いから実際のところはわかんない。
でも今は表情を消して頭を垂れている。
だってここは“始祖様”や“お姉様”の前]
行け。
[放った一言で控えていた吸血鬼達も一斉に動き出す。
玉座から動いた始祖が率いて向かうのは帝都の陸軍駐屯地。
火力に任せれば勝てると思い上がる家畜達に、
どれだけ戦力を集結させても無意味だと思い知らせる為だった*]
[東洋の雀金の衣服に手にしたもは二振りの小さな乾坤圏]
初陣って誰にとって喜ぶことなんだよ。
[サーベルが指す先、扉を見つめる。
5年ぶりに見る外の世界とはどんなものだろうか。
不思議と胸騒ぎがする。それが期待なのか不安なのか、
わからない]
ホリー。あんたは来るの?俺はあんたを守らないといけないから。
律儀な事ね。
けど、今日はいいわ。
久しぶりの外なのだもの、好きに愉しんでいらっしゃいよ。
[そして、自分も愛用の日本刀を右手に持つと。
余裕の表情を見せたのだった。]
第一、あたしの方が強いから。
たかが家畜相手の戦闘で、守ってもらう必要は無いわ。
私にとって。ホリーにとって。お前達にとって。全ての吸血鬼にとって。
[誰にとっての喜びかと耳に入った声に返した声は
当然と言ったもの]
お前達が吸血鬼としての力を示す事が出来る。
家畜達に吸血鬼の力を改めて思い知らせる事が出来る。
それが喜び以外の何だと言うのだ?
[己が吸血鬼である誇りを世に広げる機会だと言うのに。
何を聞くのだと一笑した*]
[マントの下、腰から下げるのは刀身の短い日本刀。
懐剣は鍔のないせいで柄握る手まで血に濡れてしまうからと、
新しい武器を求めたのはいつの頃だったか。
初陣と聞いて、声援と鼓舞に背を伸ばし表情をこわばらせる。
いつか来る日が来ただけのこと。]
―――御意。
[言葉と態度が示すのは従順。
ゆるゆると微笑み浮かべて頭を垂れる。
灰みの僅かに残る紅は、何を顕すか、知られる前に帽子をり、余計な事を言うなと視線で理依を咎める。]
|
− 初陣の時 −
[吸血鬼に強襲されたのは帝都内で、 最新の軍備が整えられていると言う陸軍の駐屯地。
火力さえあれば吸血鬼さえ押し切る事が出来る。 そんな思い上がりを潰す様に鬼は舞い降りて。
孤児院の時とは全く違う。
初陣と言う名の殺戮が始まった]
(452) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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大好きなんだ。不思議だね。
俺は大嫌いなのに、ホリーには大好きな人とかさ。
誰より強くなってもあの人は俺のこと大好きにはなってくれないのにね。
[好かれたいとかではなくてただ不思議だっただけ
確かに殺す理由はない]
―回想・リカルダについて―
もちろん……夜でも、良いよ。一緒に寝る?
[眠りたいのに眠れない事があるのだと、察する。
自分が傍にいる事で、少しでも安らげるなら。
手を握り、頭を撫でる事が許されるなら。
形見の手鏡の事も、そうした晩に彼女へと教えた。]
――うん。
[リカルダが手を伸ばす時、どこかこわごわと尋ねる。
だからいつも、笑みを浮かべて許し、両掌を差し出す。
そうして、]
痛くは、ない? 痛くないなら……大丈夫だよ。
リッキィは大丈夫。
[尋ね返すのだ。*]
[「おとうさん」という言葉に憧れたこともあった。
だけどもうそれも昔の話。
記憶のかけらがまた一つはがれて落ちる。
「おとうさん」と呼んで笑う弟の記憶。
その時、一瞬だけ複雑そうな目でホリーを見たのだった]
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さぁ。私を楽しませろ。
[家畜達は全力だろう。 配下の吸血鬼達も無様な姿は見せられぬと 全力で狩りを始める。
視線はそんな必死な配下では無く、初陣の眷属達に向けられた]
行け。そして滅ぼせ。
[短く命ずると、サーベルを腰に携えたまま気儘に 軍人達の命を刈り取って行く。
金の吸血鬼率いる強襲は、すぐに守護部隊にも伝わるだろう]
(454) 2014/02/09(Sun) 23時半頃
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― 回想 ―
――そんなもんでしょ。
誰からも愛される人も居なければ、誰からも愛されない人も居ない。
それぞれ好みも違うんだからそれで良いんじゃない?
[そう言ってから、彼の言葉を思い返し。]
ま、君がお父様の事を嫌ってるうちは向こうだって好きにならないでしょ。
―回想・真弓について―
うん。
――お母さんの、形見だったんだ。
[壁に近付く真弓によく見えるように、角度を変える。
何か祈るのかと尋ねられて、こくりと頷いた。]
……家族が皆、無事で、ありますようにって。
祈ってる。
[揺れる火には温度があった。
滑らかな頬を優しく照らしている。]
そう言えば、牡丹は、紙で折れるのかな……?
[彼女の部屋に散らされる千代紙を思い出す。
もし作れるのなら見てみたい、と願った。*]
[律儀な返答を最後まで聞いてから、零瑠は扉に向かう。
一度足を止め]
――柊。
[5年前の誕生日から変えた名で明之進を呼ぶ。]
……長物、
置いてきてしまったわね。
[刃がなければ戦えないわけではないから、
そのまま命に従うことにする。
フードのついた白いマントは、
毛皮に縁取られてふわりとたなびいて、
そのまま離れるかと思えば、一度振り返った]
……リカ、
[多分彼女を案じていたのに、
案じる言葉がどんなものだったか。
――剥離したままの感情が、戻らない*]
――はい。
[出立するところ、零瑠に呼ばれた。
主である黒百合が己を呼ぶ様子がないのを見ると、
彼の元に控える。]
難しいかな。…うん、柊が練習したいというなら、いくらでも付き合うよ。
[淡い期待とは違う答えに僅かに眉が下がったけれど、血の壁を考えればさもありなん。
その場はそれで終わらせた話だった]
是非俺に勝てるようになってほしいね。
柊。
[くしゃりとかきまぜた柊の髪の毛。
感触は昔のまま。ちくりと胸にささった痛みは正に柊の葉のようだった]
多分、俺も忘れられてるんじゃないかなぁ…。
もう、何も思い出せないままだ。
[マユミへ投げた「俺に勝てるか」の問いに返ってきた答えには
僅かな苦笑だけを返した。
強くなってくれたなら、もう約束そのものを忘れても責められないんじゃないかと
ほんの少し思ったのもあったけれど]
そうだね。馬鹿なことをきいた。
[それきり、その問いを繰り返すことはなかった]
君の大好きなお父様の命令だからね。
……。そうだ。君のほうが強い。
なんで俺は君を守らないといけないんだろうか。
[行け、と命じられ、きんいろに一瞥をくれてやってから踵を返す。
その手の日本刀を目を細めて眺めながら]
今度理由を聞いておいてよ。
背面を任せても、よいかな?
[自由にというのなら、方面を同じくしないかと尋ねる。]
[顔を上げる。“始祖様”の合図は済んだ。
左の腰に下げた東洋と西洋の剣が触れ合ってかちゃりと鳴る]
…呼んだ?
[真弓ねーさんだ。先に歩き出したかと思ってたけど。
何も言わないで隣に立つ。どんな顔したかな。
僕はふと昔のことを思い出す。部屋に入る前に慌てて踏みそうになった折り紙のうさぎ。
僕、まだあれを取ってあるんだよ]
……行こう。
[笑う赤の眼を隠すように、男の子っぽい帽子を深くかぶった*]
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