255 【RP村】―汝、贖物を差し出し給え―
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……終わり、ってことかな。
なら、もう、あれはいいや。
[さあ、帰ろう。
僕たちのうちに。]
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―翌朝・扉の前―
鍵が……開いてる。
[昨日まで開いていなかったそれが。館がしん、と静まり返る中、ただただ、開かれた扉の向こうに広がる"いつもの景色"が、"いつもの音"を伝えていたのですわ。]
……ショクが、居なくなった、っていうこと……?
[結局。誰がショクだったかなんてわからない。誰の記憶が奪われて、誰が密告されて。今その人達がどこに居るのかなんて。でも、館を探そう、なんて夢にも思いませんでしたわ。
きっと私の顔は生気を無くしていたことでしょう。"思い出すだけ思い出して"。それで"失われなかった私"は。きっとそれだけで多くの罰を受けているのだから。
ふらり、館を振り返る事無く、外に出ましたの。]
(22) ししゃもん 2016/10/13(Thu) 10時半頃
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―山道―
[山道は険しく、ヒールなんかで歩く道ではなかったのですわ。でも迎えの馬車なんかに乗るつもりなんてなかった。今はひとり、考えたかった――
失われなかった記憶。遠い遠い、まだ少女だった頃の記憶。奉公人だった私が「身分相応」の恋をしてしまって、「純潔を失った」、たった一度の夜の記憶。
『ねえべネット、おかしな話かもしれないのだけど――』 『素敵な君に、渡したかったものがあるんだ――』
少年と少女の声は耳にいつまでも響いていて、今も忘れられない温かな想い。最後に贈られた一粒のパール。
"忘れたくない"なんて偽ってたけれど、これは、きっと違うんだわ。"忘れたくない"んじゃない。"忘れてはいけない"。私に課せられた枷。
どこまでも純潔であることが求められた身体。親の想い、手に入れるべきステータス。偽りの「純潔」が手に入れたそれを、幸せを。享受することなく、いつまでも"覚えていなければならない鎖"。]
……だから。奪われなかったんですわね
[自嘲気味に笑う声は、森の奥へと消えていく]
(23) ししゃもん 2016/10/13(Thu) 10時半頃
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……もう。戻れないわ。
[私は全て、覚えていますの。物心ついたその日から、今に至るまで、すべての記憶を。本当は、忘れたかった。こんなに大切な記憶だったのに、本当は忘れてしまって、ドレスに似合いのダイヤモンドを身につけて。そのほうが周りはどんなに幸せだっただろうなんて思えたの。
でも、私の胸元にはパールがあって。純潔ならざる者に似合いの宝石。それに気付かされてしまった数日間。 ああ。「どちらにも、戻れない」私は、不相応な格好をして、こんな場所を歩いているんだわ。
――ヒールの踵は、もう、折れた。
右も左も、東も西も、わからない。 ただ深い深い森が広がっていて。
靴をその場で脱ぎ捨てたなら、裸足で歩き始めますわ。木の枝も、鋭い岩も、枯れ葉も。汚れた素足を傷つけていくの。 でも、もう、いいの。どこにも、戻れないから。]
(24) ししゃもん 2016/10/13(Thu) 10時半頃
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―やがて、いつか―
[森の奥に身体を横たえて。ぼろぼろのドレスと傷だらけの足で。 それでもしっかり掌には大切な宝物を握りしめたまま。
――せめて。誰かの"記憶"に残っていればいい。
そんなことを、願いながら**]
(25) ししゃもん 2016/10/13(Thu) 10時半頃
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――この手紙を読む、誰かさんへ。
どうしてここを訪れたんだい?暇つぶし?たまたま?
どちらにせよ、そこに小猿がいたなら、彼の引取主になってくれないか?
彼の呼び名はあるけれど、君が新しくつけるといい。
二枚目に、普段僕が彼と接する時に気をつけていたことをまとめておいたよ。
見つけたからには、彼を見捨てないであげてほしいな。
二度捨てられるなんて可哀想だろ?
連れていきたかった。本当はね。
この先、彼を連れて行くことは出来ない。
僕は総てをゼロにしなくてはならない。
記憶を消すことが出来ないなら、思い出は置いていかなくては。
そうだね、たとえそれで、誰かのこころを苛むとしても。
君がもし、ここに僕を探しにきた誰かさんなら。
忘れてほしい。
君はどこへだってゆける。
だからこそ、忘れるべきだ。
何をかって? そんなの、君が一番わかってるんじゃないかい?
どうせ、僕の要求なんて聞きやしないことも、知ってるよ。
願うだけはタダだろ? 神様だって祈りゃ天啓をくれるんだ。
君に全く心当たりがないなら――……
そうだね、そのままでいるべきだ。
僕が何者かなんて、君は知るべきでないし、探すべきでもない。
そろそろ筆を置こう。
大好きな友人だった君に愛をこめて。
――御休み、良い夢を。
……っ、
ブローリン!ニコラス!聞こえる!?
……ねえ、二人は、大丈夫なの!?
[暗くて息の詰まる場所に移動させられてから、パンがつっかえたみたいに響かなかった僕の赤い声が、また通るようになっていた。
空気の流れに乗せて呼びかけるけど、半端者の僕の声は元々遠くまで届きにくいし、"仲間"の気配なんて探れやしないから。
呼びかけて反応がなければ、もう、そこまででしかないんだ。]
僕は外に出られるようになったよ!
だから二人も、早く逃げようよ、ねえ!
………………、ばか、だなぁ。
[宛名も差出人も何もない手紙。
だけど、僕にはわかる。
いつだったか、この子が床を足跡だらけにしたものだから、
これからは開けっ放しに気をつけようと笑った墨も。
僕がいつ来てもいいように用意してくれた、
彼にとっては余分なはずの皿や小柄な服も。
雨の避難時に慌てて持ち出したはいいけど、
意味を成さずにびしょ濡れにされたおんぼろ傘も。
街で見かけるたびに嬉しかった、僕が選んだキャスケットでさえ。
何もかも"残した"ままの、思い出が沢山詰まった部屋。
僕がここに来ることを確信した上で、
僕の目の前にこうして、全部全部用意したままで、
忘れてほしい――だなんて、ふざけた望みを書き残すんだから。]
― 邂逅 ―
[その屋敷へ訪れたのは、とても幼かった頃。
楓の葉程の小さな掌を伸ばして、優しげな面立ちの皺皺の手を取った。
幼子の"ショク"は、かくして初老の夫婦により館に出迎えられた。
その屋敷の"孫"として。
"ショク"は個体差が大きい。
食事の頻度も、体格も、寿命も。
まるで人間と同じように、バラつきがある。
幼子の"ショク"は少食であった。
食べる頻度も、量も。
ゆえに、体格も周りの人間より劣っていた。]
[幼子の"ショク"は食事に困ることなく、育てられた。
"餌"は、自らの引き取り手である老夫婦の"記憶"。
幼子が食事をする度に、彼らはひとつ、何かを忘れていく。
幼子とできた記憶を、ひとつ。ひとつ。
その度に、幼子は記憶していく。
忘れてしまった老夫婦との過去を。
そして――、
最後には、青年に育った幼子のことも忘れてしまった。]
[その夫婦は"ショク"に食事を与える前に、必ず記録した。
しかし、記録したことを忘れてしまっているために、彼らがその記録を読み返すことは無かった。
青年のショクの手元に残ったものは。
彼らから与えられた莫大な資産と、"青年"のみが知る思い出。
何冊にも認められた、彼らの記憶。僕の思い出。
何故、彼らがそこまでしてショクを引き取ったのかという理由だけは、書かれていることはなかった。]
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