65 In Vitro Veritas
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ニック………。
[そして、ニックの言葉には、表情を固める。
そう、その純粋さ。それは、自分にはない、もの。]
僕らだけいればいい。
あいつらはいらない。
そして皆で帰るんだ。
だから僕達に任せて。
[ニックの言葉に頷きながら、
それでも、赤毛がイワセを求めるならば、
きっと、手を下すだろう。
ニックはきっと驚くだろうけれど、
彼はオリジナルに誑かされてしまったのだと…。
だけど、彼がイワセにそこまで捧げるのなら、
悲しいけれど、そうしようと…。]
[問いに応えない。
そんな赤毛を見ている視線は、だんだん醒めたものになってくる。
自分はまだしも、こんなに思っているニックに対しても、
何も、応えないなんて…。]
――…ニック……。
赤毛はこのままのほうが幸せだと思うか?
[少し、苛立ったように、囁く。]
――……もう、目がない んだ。
ペナルティもちだ。
[その意味、ニックはわかるだろうと…。]
……コーダ。
[怪我。
ペナルティ。
そして痕が残るような傷を負ったものはロボットに連れて行かれて二度と戻ってこなかった。
今なら、その理由が分かる。
けれど。
だからこそ同時に]
……赤さんのオリジナルはもういない。
だから、怪我をしてても……関係ないんだ。
いや、そもそも……僕らは僕らだ。
オリジナルの交換品になんて、なってやるもんか。
そうか……。
[ニックの答えは、ニックらしかった。
だけれども、だからこそ、
そんなニックの想いに応えず、
そして、己の問いにも応えない、
そんな赤毛に苛立ちは増す。]
――…俺も、部品になんかならない。
だけど、俺は、
あんな風に生きていたくはない。
[ちらりと赤毛を見やる。]
ニック……
俺は、今、赤毛よりも、お前のほうが大事だよ。
お前は、誰かと誰かを比べたりはしないだろうけど…。
[でも、それよりも、なお、自分が大事だとは、言わない。
だけど、ニックも大事なのは事実で……。]
赤さんが、こうなってしまったのは、とても悲しいことだけど。
でも僕は後悔なんてしない。
[もしコーダが手を下していなくても。
自分が、赤毛のオリジナルを壊していただろう。
それが赤毛を悲しませても。
恨まれても。
彼の命を守るためならば]
コーダ。
僕は、コーダが好きだよ。
だからコーダのことも。
僕が、守るから。
[そのまっすぐな瞳は、危うい無垢さを宿していた]
[テンソウソウチ。
それが動けば、帰れると]
皆、一緒に帰るんだ。
[けれどまだ動かない。
人数が多いからと聞いた。
なら、減らせばいい。
壊せばいい。
オリジナルを。
それは同時に、皆を守ることにも繋がるのだから]
僕は絶対に。
皆を、守ってみせる。
[意志の宿る瞳は揺らがない。
赤毛の行動に、言葉に、動揺はしたけれど。
けれど変わらない。何も変わらない。
皆を守る。ただその意志だけは]
オリジナル……
あいつらさえ、いなければ……
[目的は、行動は何も変わらない]
ニック……。
[その瞳の危うい光。
それは、でも、己も同じ。
ただ、ニックは純粋。己は利己的で…傲慢という言葉は知らないけれど、そうだと知っている。]
ニック、お前は、いいやつだ。
[もし、一緒に部屋を出たなら、その出口で、そう呟く。
そして、手を伸ばし、その頬に触れようとする。]
[刻まれたしるしを、知っている]
……コーダ。
[それは“終わり”を示すその記号の名前だ、
だから、その時、彼の名前を読んだわけではなかった。
刻まれた、それ は、
所有のあるいは、所属のしるしなのか。]
[止めるべきだったのか]
[どうやって]
[殺させる前に]
[殺してでも?]
[ゆっくりとゆっくりと沈殿していくような思考がある]
[大事な人というのはなんだろう。
ただ自分のクローンは自分であることを否定し続けた。
それもやっぱり、自分であるような気がする。
生きる知識を得るために生かされたのだろうか。
だとしたら、それは逆に自分から遠い気がする。
知識を教えたのが、
音楽を聞かせたのが、いけなかったのだろうか。]
――……、
[あれは自分ではない別の者に、
なろうとしているのかもしれない]
[胸のざわつくような感覚、
たぶんそれは無意識の不快感だった]
別に、いいやつなんかじゃないよ。
ただ皆が好きなだけ。
[伸ばされる手。
それに自ら頬を寄せた]
僕はただ、皆と笑っていたいだけなんだ……
それは僕の望み、だから。
[セシルの肩にしるし、をつけたとき、
彼がそう呟いたなら、返事をするだろう。]
[それは、名前を呼んでもらったのだと、勘違いをする。
そして、目を少し開いてから、
小さく、笑んだ。]
[だから]
[その為に]
[オリジナルを]
[排除しなければ]
[ニックが人気者なのは知っている。
でも、コーダはだからと特に近寄ったりはしなかった。
だから、意図的に彼に触れたのは、とても珍しいことで…。]
ニック……。
[その頬を撫でて、肩に抱き寄せる。]
そう、
ニックは、本当に、
優しいね。
[頭を撫でて、髪に口づける。]
ああ、ニック、
そう、俺のオリジナルだけど……。
あれは、俺がやるから。
[そして、嘘をつく。]
それを言うなら、コーダだって優しいよ。
赤さんのために……赤さんを、守るために。
オリジナルを壊してくれたんだから。
[くすぐったそうに目を細めて笑う。
触れ合う行為は、嫌いではない。
自分も同じようにコーダに手を伸ばした。
ただ触れて、温もりを確認するだけの行為]
……うん。
コーダのオリジナルだものね。
コーダに、任せるよ。
[自分はもうオリジナルとは決着をつけたから。
あいつは壊れた。
もう二度と声を――クローンを蔑む言葉を聞かされることは無い]
うん、そうだ。
[それは、あのとき、確かにそうだった。
赤毛を守りたくて、イワセを殺した。それは事実。
だけど、いまは、心持が変わってきている。
人数を減らすなら、
もう死にそうなやつは死ねばいい。
そんな、合理的な、
だけど、純粋なニックの言葉を訊けば、
いまの考えは伏せる。]
[そして、ニックがこちらのぬくもりも求めてくれば、さらに抱きしめてから、
そっと、解放する。]
――……ニック、
くれぐれも、気を付けて……。
[そして、彼が誰かのところに向かっていくのを見送った。]
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コーダ(ラテン語のcaudaに由来するイタリア語・coda、
「尾」の意)とは、楽曲において独立してつくられた
終結部分をいい、しばしば主題部とは違う主題により
別につくられているものを指す
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