217 【突発誰歓】幸福の壷【十二支騒動記】
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[けれど、心の内では思っていたのだ。
それは違う、と。
自分のことではない――――と。*]
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[驚く声も、なんのその。 勢いをつけすぎ少し彼の体が強張るのを感じるも、 その胸にすり、と頬を寄せ 首に沿う掌の、ひやりとした感触、ひりりとはしる痛み それに震え、驚き黒い瞳で巳を見上げ、]
う……? どうしてですか? それよりも 南方さんは 無事ですか
[何故謝るのだろうと、首に集まる気を感じながら 不思議そうな顔をした。]
(77) ゼロ 2015/02/20(Fri) 13時頃
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―後の世―
[戦の面影が残る村。ひとりの少女が泣いていた。
大粒の涙を溢すのは朱金の目。
その気味悪さから皆からは蛇の目を意味する「鬼灯≪カガチ≫」と呼ばれ、捨てられたその子は親も知らず、名も知らず。
ただひとつ、己の中にあるのは大切な大切な、名前だけ。]
[ある夏の陽が降り注ぐ上佐川。
そこで佇み川を眺めながら、はらりはらりと涙を流す。]
何処にいるの……『しんしょう』……
[産まれ出でた時より持つ、誰かの名。]
あなたに逢いたいの
また、わたしの名を呼んでちょうだい……
[己すら知らぬ己の名。
それはきっとこの者が持っている、と何故か疑わず。
春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も。
何処かにいるとも知れぬ名を呼ぶ。]
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[平気だと、応えた彼の金の目を見上げ、 ふわりと流れる清浄な気に安堵するように目を細めた。 申し訳無さそうな表情をするから、眉を下げ]
……それは南方さん、あなたのせいでは ありません わたしのくびを しめたのは のろいであって あなた、ではないから
それに、ともに眠るなら、……う、なんでもないです
[それでそれから困ったように微笑んで、 巳の手をとって 桃色の頬にぺたりと押し当て目を閉じる。 悪い気配も、奇妙な絆ももう、ないけれど。 ほんの少しこうしていても、罰はあたるまい。 ――巳にとってはわけのわからぬ行動だっただろうけれど。]
(85) ゼロ 2015/02/20(Fri) 19時頃
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[彼は自分のいう事をひとつきいてくれるらしい。 巳の手から頬を離すとはにかんで 名残惜しそうに掌を開放してから、金色を見つめて云う。]
それじゃあ、もう謝るのは やめましょう 自分を責めるのも やめましょう
[この場にいた誰も、悪い気を纏ってしまったひとを 責められない。 「終わりよければすべてよし」と笑う>>79申のこの声が耳に入り]
(86) ゼロ 2015/02/20(Fri) 19時頃
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これがお願い …できますか?
[首を傾げて、巳に微笑む。
兎はエゴイストだ。 律儀な巳が困ると知っていて、そんな願いをまずはひとつ。 いつかは白蛇の笑顔を見たいと望むがゆえに。*]
(87) ゼロ 2015/02/20(Fri) 19時頃
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ありがとうございます
[善処してくれるというならば、それ以上は言うまい。 ぺこりと頭下げれば 律儀な彼の、大きな掌が黒髪に乗せられ、 ゆるりとなでられる。その感覚に、 兎はくすぐったそうに笑ったけれども、
続いて見えた 優しい笑みに、目を見開いて、驚いた。 それでそれから、頬を染めてふふふと笑う。]
(97) ゼロ 2015/02/20(Fri) 20時半頃
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( ……やっぱり 笑顔がいいなあ )
[そんな声を心にとどめ、ほくりと温まる胸を抑えた。 宴だったか、と問う巳の声に、]
今宵は望月。月の宴。 うたげの準備を、しなくっちゃ。
[小さく呟いて、 皆の姿を黒い目に映し、 それでそれから、確か、 ――かみさまが倒れる前に、もう、支度は済んでいただろうか? そっと確認をしに行っただろう**]
(98) ゼロ 2015/02/20(Fri) 20時半頃
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[赤き血潮に染まった頃も。あったという。
怨嗟の声が止まぬ夜も。あったという。
お伽噺にするには新しい、昔ばなし。]
………だれ?
[岩陰の、奥から人の声が聴こえた気がして。
少年は足を向ける。]
[血に染まり、怨みに染まる事もあった上佐川。
そうと知っても其処に佇み、飽くることなく泣いたのは、其処にいれば己の持つ名を持った人に、必ず逢えると思ったが故。]
逢いたいわ 逢いたいの……
[何時までも何時までも泣いていると、誰かが此方へ来た気配がして。]
誰なの……? 『しんしょう』……?
[それは、そうであってほしいという、願いにも似ていて。
肩までの長いとも、短いとも言えぬ黒髪を靡かせながら振り返る。]
[振り返ったその少女は。
川面の光を黒髪に受け。まるで光の輪を冠しているかのよう。
初めて聞く声が、初めて聞く名を呼んでいる。
それは誰の名?]
[いや。
己の名だと―――信じることができた。]
なつひ!
[叫んだ。開いた口から飛び出た名前。
駆け寄り、腕の中に抱き締めて頬を擦り合わせた。]
夏日、夏日、なつ……ひ
[手は黒髪を乱す。光を払うかのように。]
[振り返った前にいたのは見知らぬ少年。
駆けてくるその少年が紡ぐ名は、聞き覚えのない、知らぬ名ではあったけれど。
其が己を示す名であることは、すぐにわかって。]
しんしょう……? 辰星なの……?
[尋ねなくとも、己の中で答えは出ていて。
駆け寄り、すりより、されるが侭に髪を乱れれば、今度は嬉しさで目が熱くなる。]
今度はちゃんと、忘れなかったわ
貴方もちゃんと、覚えててくれたのね
[抱き締め、その温もりが本物であると実感すれば安堵し。
やっと逢えたと、鬼灯色の目からまた涙を溢した。]
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[かりゃり、かちゃん。 宴の支度を進めてく。
かみさまと上戸な大人達には旨い酒。 酒飲めぬ者には甘い菓子。 無論、腹を満たす魚や米やも用意して、 (騒動の前に準備してくれていたから、 苦ではなかったのだけれど )
それでそれから、餅をあげていないひとの席には兎餅。 それぞれしっかり並べれば、ほどなく宴会は始まるだろう。]
じゅんびが すみました
(170) ゼロ 2015/02/21(Sat) 22時頃
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[かみさまにそう告げて、 辰に甘える寅>>158のこの、姿を見れば 先ほど亥と連れ立ったとき薫っていた血の匂いを案じつつ
十二支になりたての幼子の、ふわりと白く柔い毛を 見て ふるりと頬染め震え、]
……さわってもいいですかっ
[そう問いかけ手を伸ばした日を思い出す。 だから、微笑み、自分の席には戻らず。 そっと縁側に座り込んだ。]
(171) ゼロ 2015/02/21(Sat) 22時頃
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[宴の声に笑む酉の、零した声>>166に、ふと頷く。
なにより巳>>91の笑顔を一日に二度も見れたのだから 卯にとっては あれはあながち悪い壷とも云えぬ。 だいすきなともだちに 辛い思いをさせたということはあるものの。
そういや、おいしそうなご飯があったのだった。 あとで丑と一緒に食べようと考えて、]
(172) ゼロ 2015/02/21(Sat) 22時頃
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[ まだお酒は飲めぬ年の頃。 それでも とろりと杯満たす上等の酒に うつる酒まで飲む戌>>112の真似して一献傾けた。
甘く、馨しい香り。 かみさまの傍にいた時と同じ気分。
ほう、と頬に朱がのぼる。 ゆっくり外を見上げてみりゃ 夜空にひとつ、潤むうさぎの目にひとつ。 まぁるい月が、浮かんでた*]
(173) ゼロ 2015/02/21(Sat) 22時頃
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[巳 火性 陰
その方角を司る神は『おそれ』を表し、凶とされ
司る星も凶星たる星『螢惑星』 別名『火星』
方角も、星も、司りし神も、己が名でさえも
凶事ばかりを示すもの
軈て来る吉事を、深く味わう為に在るもの]
[禍福は糾われる縄の如く、表裏一体を成すもの
何れ程願い、神にすがろうとも、大吉は何れ凶に還る
其は禍とて同じこと
身に振り掛かりし厄は、廻り廻って何れ吉へと還る
――だが、その何れも必要な事に非ず
大事は、禍福は神が決めるに非ずと云うこと
総て己が決めし事、と云うこと]
[己を不幸と思う者よ 己の禍を嘆く者よ
禍凶を知りし時、初めて幸福を知ると思し召せ
禍凶ありてこその幸福だと思し召せ]
[総ての禍福は意味あること
総ての禍も福も、己が決め、定めたと云う事]
[―――――――幸せだ、
と思えたのは久方振りだった。]
[その瞳は赤橙。
遠くからでも招き、誘う色。
胸焦がす名前を呼べる幸せは喉を震わせる。]
……あぁ、そうだとも。
僕が「辰星」だとも。
[遠い記憶。暗闇のなか。光のなか。
確かな感触、甘やかな香り、心地好い声。
なつひ。
其れ以外の名前など知らないとばかりに、繰り返す。
なつひ。 夏日。]
忘れさせるものか。赦さないと――言っただろう?
忘れるものか、忘れるなんて――…
もう一度喪うなんて。
……今度こそ離れず、共に生きていこう。
夏日。
君の全てが―――欲しいんだ。
生きる時間も、何もかも。
もう待たせないで済むように。
[奪わせて欲しい。
独りにしないで――と
請い願う。恋願う。**]
[己が紡ぎし名を肯定せし少年に、繰返し繰返し名を呼ばれ、幸を噛み締める。
赦さないという愛しい名を持つ相手に暫し目を見張るが、軈て笑みへと変えて]
そうだったわね 赦さない、と言っていたわ
[嫌だと紡ぐ口に、ふふ、と笑いを溢し。]
いいわ 全てをあげる
あの時叶わなかった、全てを――
[あなたに奪われてあげる。
其は、娘なりのもう二度と離れないという契り。]
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