298 終わらない僕らの夏休み!
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[ 9月1日23時59分59秒。
この世に表示されている様々な時刻が
9月2日0時0分0秒に切り替わった。 ]
(#0) 2019/09/10(Tue) 00時頃
─9月1日深夜・叶い橋─
[皆や会堂と別れた祭りの夜、浴衣姿で橋の欄干に腰を下ろし、根良伊川の水面を覗き込む。
燻り続ける炎に炙られた思考は曖昧に掠れつつある。
嗚呼、この町の時間が巻き戻る瞬間が近付いているのだ。
時折橋脚に纏わり付くようにして渦巻く水の飛沫が、燃え上がる女の纏った焔に煌めいてチカチカと光るのを半ばぼんやりと眺めながら、浴衣の懐から一通の封筒を取り出した。]
[何度渡そうかと記し、その度に書き損じてはあきらめきれずに仕舞い込んでいた手紙の束は全て処分した。
娘を亡くした母親が机や荷物を整理した時にうっかり未投函のこれらを見つけ出して最後の願いとばかりに彼の元へ届けられてはたまらない───
この先の未来へ進むその背に重たいものなど残しては行きたくないのに。
伝えれば良かったと後悔した事も数えきれない。
それでも悔いる事が出来るのは生きてその先の未来へと己も進める者だけが持つ権利だと思えた。
それでも想いの全てをただ破棄してしまうのは哀しいと最後に記したこれだけは共に去ろうと持ち出して来たのだ。
封筒を開き、一枚ずつ切実に綴られた文字を眺めては、昏い水面へと落として行く。]
『嫌いにならないで』
[書き連ねられた文言の挙句の果ての最後の一文には呆れ笑いに肩を揺らしながら、そう言えば似たようなメッセージを送り付けた、と結局同じ事を繰り返した日の己を小さく鼻を鳴らして嗤った。
否、こうして繰り返した日々もまた死に際した己の都合の良い夢だったのかもしれないけれど。
最後の一枚を手放す。
ひらひらと風に舞い川面へ落ちて行く紙片を目で追う内にぐらり、と体が傾いで己もまた水面へと崩れ落ちる。
9月1日に託した願いを叶える事の叶わなかった燃え盛る亡者は、然し満足げに笑みを浮かべて水底に降り積もるいくつもの願いの上に溶け零れるように姿を消した。
苛まれ続けた痛みも熱も、憂いも悔いも既に無い。
後は川面にちかちかと瞬く星々の明かりが映るばかりだった───**]
[ひとりっ子だった。
けど、近くに住むふたつ上の姉貴分は、本当に本当のお姉ちゃんみたいで、口に出しては言わなかったけど、ずっと拠り所のひとつだった。
中学に入った時そうだったように、レイ姉のいる学校に入学する。
残り半分の中学生活を捨てる代わりに、戻ってきて同じ学校に通う。
それはいつも目指す場所で、帰る場所だった。]
[だけどもう、宍井澪はいない。
夏休みを終えたあとの拠り所は、どこにもなくなった。
それがわかったとき、ああ死ぬんだ、って思った。
帰る場所、目指すところが"向こう側"になった気がした。]
[ただ、反対に覚悟するだけの時間と思い出ももらったように思う。
こんなに楽しい夏休みは、今までになかった。
少し背伸びした新しい友達ができて、高校生活を先取りしたようだった。
疲れ果てるくらい遊んで、遊んで、遊んで。
それから最後に言葉を交わして、お別れを言った。
この日々が終わる時まで教えてもらった。
だから、覚悟を決めたんだ。]
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