162 絶望と後悔と懺悔と
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[そして彼の代わりのように、増えた眷属]
……周、
[名を呼ぶ響きは、それ以上の言葉もなく]
ごめんなさい。
[零瑠を留めたあの時に、本当は彼を逃がしたかったのだ]
― in the distant past ―
[初対面の少女がまさか同意を示すとは思わなかった。
しかも媚びたものではない、単純に興味だけの声色]
お前も随分面白い。
部下達は私に気に入られようと躍起でいるのが見え見えだが。
お前も退屈だから、更に退屈そうな私を暇潰しに
見に来たのだろう?
その度胸も気に入った。
飽きる迄、城に留まると良い。
[黒衣の少女は仕えると言ったが、部下として迎え入れた
わけでは無かった。
飽きたと言って出て行くなら止める事の無い、
永い永い客人として迎えたのが始まりだった]
ホリー、東の端にある『日本』と言う国があるのを知っているか?
[ホリーが客人から、城にいるのが当たり前になってから
どれだけ経った頃か。
全くの未開の地。
他の鬼達はあまりに離れた地へと食指はなかなか向かぬ様で]
全く我等を知らぬ国は、どんな歓迎をしてくれるだろうな?
[まだ他の力ある鬼が手を出していない地。
始祖と呼ばれる最上位の鬼が眠りに就いたと言う報せもあった]
ふん。
愉しみを探す事を止めた枯れ木は朽ち果てると良い。
その国を最初に落すのは私だ。
[そうして渡った異国は、退屈を暫し忘れさせた。
戦い方を知らぬのに挑み、消えて行く命。
始祖を追い掛けて、この国の戦士に鬼と戦う術を教えた
戦士達との激闘。
そして文化と全て物珍しく高揚させた]
ホリー、まだ死ぬ理由を私は持たぬな。
[左腕を落した戦いの中、命のやり取りに昂揚し嗤いながら
ホリーに告げた言葉をまだ覚えている]
いいの、かな。明にーさん。
円を連れてかないで、帰って来ても。
[迷う。
どの道が円にとって幸せなのか。
だってこんな、吸血鬼とニンゲンの戦いに乗り込まないで、平和に暮らすのが、
僕の考える幸せの中では最良の形だから]
あなたを逃がせなかった。
[>>+8 それだけの理由を告げて、続く言葉はない]
[名を、呼ぶ声がした。
零瑠だけを呼ぶ声が。
現状をふと冷静に考えて見れば、そもそも零瑠の一択しかない。]
は。
[応じたのは、まだ視界に真弓の背があった頃。]
[暫く掴んだままの理依の手を右の方向へ放ると、守護隊の一員が悲鳴を上げた。彼の顔を打った腕が地に落ちきる前に、軍服を更なる赤に染め上げた。
駆けながら、主に報告を。]
―――真弓が、あなたに弓を。
反逆の意を示しました。
……良いんじゃないかな。
[5年ぶりの我儘。]
リッキィの、やりたいようにやってごらん。
[自分の我儘にも重なっていた。
自分が手を伸ばさなければ助かっていた人がいたことに、
それは通じている。]
[指の先までも支配する絶対的な命。
感情も意志も捩じ伏せられる――のは、自分だけなのか。周の様に、拒絶出来ずに居るのは。
同じ命は今も真弓を縛っているはずなのに。
それとも、ホリーを討ったから楔は消えたのか。]
……
[あぁ、どんな表情をされるのか。
直接見れないのが残念だ。
此もまた、喜びなのか。
愉しいと笑うのか。
主を想えばこそ、何が最善であるのか、迷う。]
……ホリー様の剣を前に、芽を潰す事が出来ませんでした。
申し訳ありません。
[随分と言い訳めいている。
仕方がない。
真弓に武器を向けた守護隊員しか、殺して居ないのは事実なのだから。]
真弓が?
[反旗を翻したと零瑠が報せる
続いて止める事が出来なかったと詫びる聲
思えば真弓は感情の操りが上手かった。
常に分厚い氷の上の姿しか見せず、凍えた水の下で
動き続ける感情を隠し続けていた。
あからさまに反抗を見せていた理依。
静かに静かに『機』を狙っていた真弓。
従順に仕え続けた零瑠。
最も、零瑠の心の内も本当は知ってはいないのだろうが]
なかなかに面白いな。
[それぞれの違いが面白い]
[雛がここまで育つとは想定外だが、だからこそ面白い。
だからこそ、まだ。
人間は全滅させるには惜しい。
餌と言う意味だけでなく]
私を愉しませるのに、やはり必要だな。
[その意味を理解出来るとすれば、永い永い時を生きた
鬼だけだろうが]
ホリーと並ぶだけの鬼が横にいないのは残念だな。
……零瑠、お前はどちらの横に並ぶ?
真弓か、私か。好きに選べ。
[寂しいと言う感情は未だ知らず。
ただ、誰も横にいないのも退屈だと。
少しだけ思った。それだけだ]
――……、ありがとう。
[僕は相変わらずうまく笑えないままだけど、明にーさんにそう言われて気が軽くなった。]
頑張れると、いいけど。……にーさんの分まで。
[さっきの口ぶりはまるで、誰かの幸せを願うことさえ、誰かの迷惑になるって思ってるみたいだった。
僕がここでうまくやれれば、明にーさんは誰かの幸せを願えるようになるのかな]
[記憶の欠片。
『漣桜様と――お父様と、愛した結晶がこの子なの』
『贄』は『子』になった。
つまり、愛が実った事になる。
……いや、この理論は飛躍し過ぎている。
仲睦まじい『両親』と、それを主と自分に重ねて――例えば、主の私室で過ごした穏やかな時間がずっと続けば――とも、想う。]
[反旗を翻した真弓がどれ程抵抗出来るのだろう。
零瑠に問い掛けた後、呼び掛けは真弓へと]
真弓、よく耐えたな。大したものだ。
褒めてやろう。
だがどうせならもっと抗って貰おうか。
吸血鬼以外、目に収めた命は全て殺せ。
その力で。
[ホリーの血が何処まで抗う力になるのか、知らないが。
今まで明確にしていなかった命令を彼女に告げた]
[浮かんでは留まり消える、紅鬱金の瞳。
面白いと言うのなら、
そう望むなら、
あなたの額に鏑矢を――…]
……なに、が
[何が必要と? 分からず問いを落とし]
っ!
零瑠。私の横に並ぶ技量があるか。示して見せろ。
[浮かぶ笑みは無慈悲に告げる。
選んだのなら、その覚悟を、能力を見せ付けろと**]
………ねぇ、あまね。
おれは、家族を、うらぎってるの?
[遠く問い掛ける声は、弱く震え、縋るよう。*]
……真弓を選ぶとでも、お思いでした?
[返事を期待せずに問いを聲に乗せ。]
選んでも裏切ったとは思わなぬな。
[零瑠が投げかけた問い>>*に笑みは深まる。
どちらを選ぶか、苦悩する過程が大事で、
結果は気にはしていなかった。
斃す相手が増えたと思う位だったが]
だがホリー以外が側にいるのも悪くは無い。
[ホリー並みの能力の鬼で無ければ、ただの邪魔であった。
今の零瑠がホリーに匹敵するかと問われれば、等記号で
結ぶ事は難しい。
しかしそのレベルで無くとも、側にいる事を許容は出来る]
私の傍にいるのは1人で良い。
零瑠、お前が選んだと言うなら人の心捨て、
仲間の首を持って見せて見ろ。
そうすれば常に私の一番傍に置いてやろう。
[毒を注ぐように零瑠に言葉を注ぐ。
人と鬼の合い間を溺れながらも泳ぎ続ける様を
面白いと眺めていた。
だがもうそれも終わりだろう。
ならば人を棄てて鬼となって見せろと、最後の決断を
誘惑と共に零瑠へ投げた**]
――……、
[>>+9 気に病む必要は無い、
その言葉には、すると言葉が滑り落ちた]
そうね、
最初からもっと、
死に物狂いで抵抗してくれたらよかったのに。
……ばか。
[喧嘩傷を諌めたような、
そんな物言いと似て、けれど確実に違う言葉*]
……そうでしょう。何も裏切ってはいない。
寧ろ、あなたの命に逆らいながらも刃を向けた方が―――…
[息を吐く。]
俺は、あなたの機嫌ばかり窺っている。
どうすれば歓びに為るかと。そんなこと、を。
それ、は……
[どういう意味だろうか。
もしやと期待に胸が踊る半分、ただの自意識過剰だと胸が痛む。
誰のことを言おうとしている?
死んだ理依を忍んでか。
弓引く真弓か。
獣の周か。
それとも、それとも……。
その、一人とは…………。
安吾やジャニスの見えぬところで眉が寄る。]
[……あぁ。嗚呼。
甘い毒が零れ、耳から滑りこんでくる。
望む名を呼ばれた。一番の傍にと――。]
……あなたこそが、『冀望』
そうだ。お前は正しい。
[零瑠が歩み出そうとする足元を隠す様に、毒はその背を押す]
人間と共に歩めると思うな。
人間は、お前達を置いて死んで逝く。
どれだけ悲しもうが望もうが。
お前達と心通わせた人間がいたとしても。
すぐに死に、残るのはお前達を敵とみなした者達だけだ。
そして共に生きようとした人間達は、裏切り者と
鬼の私達より更に鬼と見られるのだろうな。
[後に続く呪詛は、恐らく自ら動き出そうとしている鬼達に。
現実を残酷に突き付ける]
――……ッ
[呪詛は強かに胸中を巡る。
喉の奥の呻きは、事実としてそれを知るからだ。]
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