64 色取月の神隠し
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芙蓉たちはたまこさんとこ行ってんだっけ?
そっちは任せた。
[短く告げた。]
今、着いたよ。
確かに、由緒ありげな簪だ。
[短い囁きに、こちらも短く返す]
めがねよりは、色気があると思うけどねえ?
[男は皆面食いだ、と言っていた鵺へ、からかう調子]
ま、流れ次第さ。
……確かに、おたまは磨けば光る瑠璃の石とも言えるかな。
里でお志乃辺りに磨かせりゃあ、佳い女になるやも知れないなぁ。
[揶揄う色を含んだ芙蓉の声音に、しゃあしゃあと応える]
あーあ、あんたにゃ敵わないよ。
[手慣れた応答に、大げさなため息をつく]
でもまあ、それも悪くはないか。
志乃に、沙耶に、たまこが着飾ったら、さぞ華やかだろう。
朝顔に夕顔も、可愛らしくてさ。
それじゃあ、村の男どもが、みいんな隠世の里に来たがっちまうねえ。
己なら其の花篭の中に、さらに芙蓉を一輪添えて
飽かずに眺めるがねェ。
……まぁ確かに、何れ里には、人の子が此処が浄土かと見紛うほどに、綺麗どころが揃うことになるなぁ。
**
あっはは、あたしも物の数には入ってたかい。
安心したよう。
――でもね、あたしのこれは……、
[今は菊屋の前で、人の形をしている己の姿]
むかあしむかし、狐を助けた薬売りを真似てるのさ。
……なるほどねぇ。
[姿や生業の真似事をする程
芙蓉はその恩人とやらを慕っているのだろう]
で、その恩人とやらは、今はどうしてるんだい。
姿を借りるのは良いが、ばったり出くわしでもしたら不味かろう?
現世で出くわす心配は、ありゃしないさ。
[薬売りの姿をした狐は、小さく笑う]
あたしの仲間の狐が、目えつけちまってねえ。
魅入られちまった人の子は、隠世の里の奥の奥。
とうに、あやかしになっちまったよ。
ふぅん。……そうなのかい。
[男なら、例え情交を交わした相手であれ
人の子の末路など気にも留めない。
けれど芙蓉はどうだろうか。
あやかしと化した恩人の運命を、如何様に見ているのだろう]
己なら、獲物を横から掻っ攫うような舐めた真似をした奴は
赦しちゃおかないがねェ。
[心に浮かんだ問いは口にせぬまま、勇ましい言葉を吐いた]
さあて……たまこのことは、どうしたもんかねえ?
辰次は、うまくやれてるかねえ。
あきのしんは、どこへ行ってるんだろ?
「「「「「たつー ふえふいてー たつー」」」」」
[小さな毛玉達が辰次を呼ぶ]
「きれいって」
「きれいだよー」 「うつくしー」
「わーい」「やったよー」
「えへへー」
「よーし」
「やっちゃうぞー」
「やったれー」
「たつー」
「たつたつ」「たっつじー」
「たつじー」「たっつん」「たっちゃんー」
「たつのじ」「たつ」
「ねー」「ふえー」「ふえー」
[小さな毛玉達は辰次に催促している。]
―秋月邸で毛玉が大量発生していた頃―
!?
[ざわざわと一気に増えた囁きに、龍笛はびびった。]
ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、
慌てるな…!
[日向に会う前か、別れたあとか。
とにかく、小さな声に歩きながら笛を吹いた。]
「ふえふえ」
「ぴーひょろ」「きこえたねー」
「あつまれー」
「どこー」
「こっちだよー」
「あつまれー」
「ふむなー」「やだー」
「おなかすいたー」「ばかー」
「おしろいー」
「あつまれー」
「「「「「「「「あつまったー」」」」」」」」
[あだ名、たくさんついたなぁ…と内心思っていたとか何とか。]
[毛玉たちの元気がでるような、軽快な曲調を選ぶ。]
[力を持つ笛の音は、小さな毛玉に
ちいさなあやかし、力ないあやかし達に力をあたえる。]
ちりもつもれば やまとなる
けだまもつもれば すごいあやかし
そろそろ僕はあちらに帰るよ、たつ。
こちらにいると、力が抑えられて苦しいしね。
どうも頭に靄がかかって、思考が鈍る。
[あちらとこちらの境目の近くでいるためか、
抑える力が弱いらしく、流暢に話す。]
おしろい おみやげ よろしくね
[力を押さえられているときのたどたどしい話し方を真似て辰次に語りかけた。]
ぽやぽやしてるの、なかなか面白かったけどな。
おう。白粉はもう買ってあるから、帰りを楽しみに待ってろ。
[そう長くは待たせないだろう、と明之進に笑って]
ぽやぽやしてるときは、たつが良く可愛がってくれるから嫌いじゃないよ。
じゃ、またね、たつ。
[あちらに行く間際に言葉を残して行った。]
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