158 雪の夜に
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[そう、実際は、この時、ティモシーを訪ねてきたのは、 ソフィアの母と、赤ん坊のソフィア、だったわけだけど…
最期の夢は、船から降りてくる姿を 誰よりも愛しい女に見せたのだ]
(78) nostal-GB 2014/01/01(Wed) 20時半頃
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――……ああ、ジェリー、おかえり。 本当に、本当に、おかえり……。
[そして、涙で視界は歪んで、 彼女の顔はよく見えない]
**
(79) nostal-GB 2014/01/01(Wed) 20時半頃
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…そう、言われたとしても
[ハナを抱えたヤニク >>65 の言葉には、掠れて消えそうな声を落とした。 船乗りである彼に、行って欲しく無いと思う事自体に彼女は後ろめたさを前々から感じていた。 だから、彼女はこれは自分に対する罰なのではないかと、そう感じていた部分もあるだろう。]
(80) みう 2014/01/01(Wed) 22時半頃
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[ホレーショーが人狼に襲われた後、ソフィアにホレーショーが襲われたと知らせにきたのはヤニクだった。 何故、あんな事ができるのだろうか、ソフィアには理解が及ばなかった。 彼が人狼だからなのだろうか、それとも他に別の要因があるのかは、はっきりとはソフィアにはわからなかったが…]
……
[落とされた鍵の束へと視線を伸ばす。 それは、彼女が手を伸ばしても届かぬ距離に思われた。 少なくとも、彼女には。]
(81) みう 2014/01/01(Wed) 22時半頃
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[ヤニクとハナが牢を出て行ってから、牢に捕らえられた者たちの元に自警団員や診療所からの応援が現れるまでそれほど長くはかからなかっただろう。]
おじいちゃん……? そんな、やだ…、やめてよおじいちゃん……っ!!!
[診療所から来た応援の人々に被せられた毛布がばさりと床に落ちた。 祖父の元に跪き、肩を揺する。 首筋に触れると、そこに生の証は無く、恐ろしい程に冷たかった。]
(82) みう 2014/01/01(Wed) 22時半頃
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そんな、やだよおじいちゃん… ひとりにしないで……
[じわ、と目が熱くなった。 零れ落ちるものを拭う事も無く、そのまま祖父の肩を揺すりながら声を掛け続けた。 暫くすれば、誰かに肩を叩かれただろうか。 自分も診療所へと声をかけられると最初は首を振ったが無理やり抱えられるとよろけながらも立ち上がった。
祖父の傍にあった女性から、預けられていた手紙を受け取ったならば、恐らくこの時だっただろう。 すぐに目を通す事はできず、手に握りしめたままに牢を後にした。]
(83) みう 2014/01/01(Wed) 23時頃
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─ 診療所 ─
[外から診療所内へと入れば、その温度差に一瞬気分が悪くなった。 濡れた服を脱ぎ、乾いた服を着るよう指示され、それに従った。 依然として身体は冷え切ったままだ。 医師からは暫くベッドで休むようにと言われたが、その言葉を聞きいれはしなかった。
手紙を握りしめたまま、ホレーショーとヒューが寝かされている部屋へと向かう。 途中、静止の声がかかったかもしれないが、それを無視しソフィアはドアを開けた。
セレストの姿はそこにあっただろうか。]
(84) みう 2014/01/01(Wed) 23時頃
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[ホレーショーは眠っていただろうか、目を覚ましていただろうか。 ホレーショーが寝かされている寝台までふらふらと歩いて行くと、そっと彼の顔を覗き込み、頬に触れた。 髭が伸びてざらついた、少しかたい皮膚ごしにあたたかな温もりを感じた途端、ソフィアは床に崩れるようにして座り込んだ。]
………っ、 、
[必死に嗚咽を噛み殺そうとしたが、どれほど迄効果があったものか、そしてそんなには持たなかっただろう。 うー、と唸る様に聞こえたかもしれない。 そうしてそのまま、暫く泣いていた。**]
(85) みう 2014/01/01(Wed) 23時頃
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[診療所に訪れたのは、 その日からしばらくしてのこと。
――彼の死を聞いて、 再び滲むものを押し込む。 あまやかな希望は端から抱いていなかった、 諦めることには慣れていた、
だから涙を押さえ込むのは、 難しいことではないはずだったのに、 頬を伝う雫は黒いレースのチーフに染み込んだ]
(86) sen-jyu 2014/01/02(Thu) 00時半頃
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[人狼の被害者、 船乗りの青年と女と様態はどのようなものだったか。 人狼に肩入れしているのに、人間の身を案じる。 それは、自覚のある矛盾だ。
どちらにも、なれない。 陸にも海にも居場所の無い。
女にとっては同類を見つけたような、 己を憐れむにも似たそんな心地だったのだ。 けれど、彼の青年はそうではなかった。 ――自分とは違うはずだった、というのに]
(87) sen-jyu 2014/01/02(Thu) 00時半頃
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[女は彼の――名も知らぬままだった、 あの青年の部屋の前にいる。
もしも望みが絶たれてしまったのならば、 誘う手を差し伸べることは出来る。
波の彼方にも、 希望などなかったとしても*]
(88) sen-jyu 2014/01/02(Thu) 00時半頃
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― 診療所 ―
[堪らず診療所の外まで駆けだして、朝凪亭までの最短の道乗りを選んで進むと、すぐに人だかりが見えた。 道をあけるよう、怒号が飛び交っている。 駆け寄った。ヒューの嫌な予感や、悪い想像は、的中していた。 診療所へ運ばれているのは、セレストだった。]
せ、セレスト、セレスト! 先生、助けて、セレストが、
い、いやだ! 起きろ、セレスト、セレスト!!
[ヒューは追い縋って、泣きそうな声で、何度も名前を呼んだ。 それが出来たのも、病室の前まで。 ヒューは廊下に取り残された。]
(89) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[そこで、張り詰めていたものが、ぷっつりと途切れた。
足から力が抜け、膝がかくんと折れ、冷たい廊下に座り込んだ。 抜け殻のようになって、病室の扉をただ見ていた。 涙が流れるまま、ぽたぽたと落ち続けている。 拭うために、腕が持ち上がる事はなかった。 喚く力も湧いて来ない。 最早、立ち上がる気力も失せた。
どれほどの間そうしていただろう。]
(90) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[長い沈黙の後で、出て来たのは、不思議と、笑いだった。 額を膝につけて、背中を震わせる。 腹に力も入らず、ただ漏れるに任せてくすくす笑っていた。 ヒュー自身にも、自分がどうして笑っているのか全く分からなかった。 滞った思考がとろ火で生暖かく煮られ、匙でどろどろにかき混ぜられているような、酸素が足りずにぼんやりするような、わけのわからぬ温度を頭に感じる。]
……はぁ
[ひとつ息をついてみれば、笑っていたことさえ急激に冷めて、虚しくなった。 なるほど、と、ヒューは唐突に思った。]
(91) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[おとぎ話は、教訓話だったのだ。 先人は偉大だった。
悪い人狼がやってきて、みんな食べられてしまう。 だから人狼は、やっつけなければならない。 或いは、食べられる前に、逃げなければならない。 そういう悪者として描かれてきた。
良いとか悪いとかは、本当に、どうでも良い事だ。 だから、それはさておく。
けれど、逃げる、やっつける、というのはきっと正解だったのだ。 きっと、誰かが身を以て知っていた事だったのだ。
愚かしくも先人の教えに背いた結果が、これなのだろう。]
(92) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[蹲ったままの姿勢で、小さく、呻いた。]
いてぇ……
[切り裂かれた手が先についている方の腕を、頬で押す。 手で腕を擦り、誤魔化そうとする事すら、出来ない。 出来なくしてしまった。
当然手を使わなければ出来ないことは、それ以外にも山とある。 もう船で働くことは不可能だろう。 それどころか、ワンダの魚屋で仕事を続けることすら無理だ。
諦めなければ人生なんとかなると、セレストから言われたのが、ほんの数日前の事。 今この瞬間においては、もう一度、同じ人間にそれを言って貰う事すら叶わない。 あの時、一瞬でも望みを持てたことが、嘘のようだ。
もう、なんのともし火も残っていない。 からっぽだった。 つまり、諦めてしまった。 こうなってしまうと、セレストの論でも、人生なんともならないのだろう。]
(93) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[手の痛みが弱まる気配はない。 今まで、この痛みや、行く先の真っ暗さを差し置いて動けていた方が余程おかしな事だった。]
いてえ……いてえ。 くそ、いてえ……
[腕を噛んだ。少しも痛みは紛れそうもなかった。 苛立つように、体を揺する。 腕を噛んだまま、ふうふうと息を吐き、痛みを堪えていると、少しして足音が聞こえてきた。 *ヒューは、医師によって、病室に戻された。*]
(94) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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― 診療所 ―
[セレストが診療所に担ぎ込まれた日から、数日経った。 ヒューは、無関心そうに、出された食事を見下ろしていた。 小さく切られた食べ物が、皿に乗っている。
手は使えない。よって、食べる方法は限られていた。 ヒューは抵抗なく、犬のように、皿に顔を近づけ、食べはじめた。
最初は食べさせて貰っていたが、もう、断っていた。 うまいまずいは、気にもならなかった。]
(95) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[皿へ伏せていた顔を上げた。 人の気配がしたからだ。 何の用だろうかと視線を向ける。]
……。
[口の中の物を飲み込んでから、唇を腕で拭った。]
(96) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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今日は、どうなさったんですか。
[病室へ入ってきた喪服の婦人へ、尋ねた。 人の死を思わせる黒色が、病室のなかにあるのが、なんだか少し滑稽にも思えた。 なにか忘れているなと、一瞬考えるような間があって、思い出したとばかりに、ヒューはうっすらと笑みを浮かべる。]
誰かの、お見舞いですか?
[行儀よく、寝台に座ったまま、*首を小さく傾げた。*]
(97) gekonra 2014/01/02(Thu) 02時頃
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[気付いた時、女は船の中にいた。 馴染みのある景色、これは女の乗っている船だ。 ぼうっとでもしてしまっていただろうか、海が黒い。 まるで悪い夢でも見ていたかのようだ、 洗濯籠を持って佇んでいると遠くから名前を呼ばれた。
ヒューだ。こちらに手を振って呼ばれる。 ホレーショーや他の船乗り達も一緒にいる。 ああ、そうだ。夢だったんだ。そう笑って。
女は友人に手を振り返す。ヒュー、と名前を呼んで。]
(98) chiz 2014/01/02(Thu) 03時頃
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[呼んで。]
(99) chiz 2014/01/02(Thu) 03時頃
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[――…呼べない、声が出なかった。 どうしてだろう、不思議に眉を潜めながら 仲間達のところへ向かおうとする。
向かおうとして。
――…進めない、体が動かなかった。 代わりに足に痛みが走る。痛い、痛い。 足元見下ろして何かに気付く。音だ。 肉の裂ける音、血の滴る音、咀嚼の音。 音に合わせて、じわりと黒い海が染まっていく。 赤い、紅い、血の色に。揺らめく暖炉の灯の色に。]
(100) chiz 2014/01/02(Thu) 03時頃
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―――――……!!!!!
[ヒュー達の名前を呼ぶことができない。 どうして。 喉を潰されてしまっているからだ。 彼らのところへ駆けていくことができない。 どうして。 どうして。 足を齧られているからだ。彼に。あの人狼に。 どうして。 どうして。いやだ。 どうして。たすけて。 裂かれた喉からも血が吹き出て叫ぶことができない。
誰か。誰か。たすけて。 減っていく、音が鳴る度、自分の体が減っていく。]
(101) chiz 2014/01/02(Thu) 03時半頃
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. . .
(102) chiz 2014/01/02(Thu) 03時半頃
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[運良く一命を取り留めた女が目を覚ましたのは 運び込まれてから数日経った後のことだ。
船にはもう乗れないだろうと医者は言う。 齧られた左足は切断せざるをえなかった。 それに、足だけではなく、
そこで医者は言葉を止める。
果たして、運が良かったのだろうか。 女には金も身寄りも、戻る故郷すらないのだという。
――…死んだ方が楽だっただろうに。
独りごちるような呟き。
女と船乗り達との面会が許されるのは、 更に数日経った後のことになるだろう。**]
(103) chiz 2014/01/02(Thu) 03時半頃
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[かつりと半歩後ずさる踵が音を立てる。
>>95 手という機能を失った青年が、 犬のように食事を取る姿がそこにあった、 それもまた、己が何もしなかったことの結果だ。
ゆっくりと瞬いた双眸は、 向けられた問いかけと薄い笑みに、 ゆるやかに首を振った]
……いいえ、そうね。 強いて言えば、あなたへのお見舞いかしら。
[花の一輪もないけれど、と零す空白を落として]
(104) sen-jyu 2014/01/02(Thu) 21時頃
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あなた、これからどうするの?
(105) sen-jyu 2014/01/02(Thu) 21時頃
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[言葉はさらりと繋がった。 しかし、それは欺瞞のようなものだろう。
あるいはそこに、情のようなものがあったとしても、 自身の情はすべからく偽りに過ぎない、と女は思う。 ――真実、情けのあるのであれば、 こんな風になる前にどうにかすべきであったし]
……当てが無ければ、 私の元にいらっしゃい。
[こうして片手を差し伸べながら、 もう片方の手であの人狼の少女を匿っているのだから。
女の顔には、何か痛みを堪えるような微笑が過ぎった*]
(106) sen-jyu 2014/01/02(Thu) 21時頃
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― 診療所 ―
[婦人の質問へ、一瞬の沈黙を返した。>>105 思わず、鼻で笑っていた。]
どうって……。
[先ほどの後ずさりをされるような食事風景。 着替えも一人でするのは困難だ。 体を洗うことだってそう。]
さあ……? どう出来るんでしょうね。
[自分自身に呆れ果て、自嘲していた。 昔話の言いつけを無視して、良くないことが起きるのは、大人も子供もみんな同じだったのだろう。]
(107) gekonra 2014/01/02(Thu) 21時半頃
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