216 宵闇駆けるは天つ星
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さっきなんぞ言っておったが、
誰か、喰らいそうになったのか?
………そいつはさぞ、悪くない気分じゃったろうな。
[直後、太鼓を地面に向けて振り下ろした。
鈍い音とともに地割れが一直線に相手へ向けて奔る。
同時、妖自身も地割れを避けて斜め前方から相手へ向けて突っ走る。
それは、そう、人をからかうばかりの妖が見せなかった、喰らうための動き。
爪を立て身を引き裂き血をこの身に浴びねば喰らったことにはならない、と*]
[喰わぬのに殺すのは人の業とも言えよう。
己が欲望のため、身を護るため、理由は様々。
この村の者達は、その中でもある意味清廉で、幼い妖と付き合う術を見出していたのだろう]
…なんぞためぇ生きて来たかは、おんしが考えぇことじゃ。
わしが与えるもんじゃあねぇで。
少のぅとも、誰かん血肉になるんだけが生きぃ意味じゃあなか。
[村の者達とは教えられたものだけでやって行けただろうが。
けれど、退魔師は妖を祓うことを生業とする者。
妖たるこの娘>>+8>>+9とはそもそもが相容れぬ]
わしがこげなことするんは仕事じゃからやが…。
そぃが他ん奴護りぃに繋がるけぇ。
被害ば未然に防げぇも、わしらん仕事じゃ。
[言葉にはするものの、相容れぬ相手では納得はされぬやもしれない]
おんし、怒りからなんがしらんが、わしば”喰らう”言うたじゃろ。
切欠がわしじゃったとしても、人ば喰らう妖は放っとけんき。
じゃけぇ、わしぁ他ん奴護りぃためぇおんしば祓う。
[その信念は覆せぬものだったから、余四朗はしっかりと妖を見据えて言い放った*]
[滴る毒は誘うように甘く香るが、退魔師がそれに惑わされるはずもなく。
真正面から突っ込むかに見えたその身は、上空向けて翻される]
逃がすものか……!
[人型へ直接攻撃されなかったは上首尾であるが、枝の届かぬ上空や背後へ行かれては、動けぬこちらは対処が難しい]
ちい……っ
[爪を最大まで伸ばし、更に髪へも毒を含ませ上空向けて逆立てる。
髪は一瞬紅へと変わるも、その後急速に色褪せ始める。
これほどの毒を一度に生み出すことなど今までになく、妖力は限界に近付いていた。
それでも、一撃でも、針穴一つ分でも鬼丞の身を傷付けんと、全てを全力で己を越え行く男へ向ける。
それはまるで、天へ向け両手掲げるようでもあった*]
薬売り 芙蓉は、メモを貼った。
2015/02/14(Sat) 00時頃
[不機嫌そうな言葉に、小鬼は振り返ってべぇ、と舌を出す仕種。
そのまま青年の肩へと飛び乗ると、何故か太刀を収めた。
青年は青年で、にんまり顔に、薄い笑みを返し。
どこかずれたような楽琵琶の音と太鼓の音に僅かに目を細めつつ、近づく妖との距離を測り──]
……は?
[向けられた問いかけに、ひとつ、瞬いた]
……ああ、まだガキの時分にな。
どーしよーもなく腹減ったー、って星が泣きよるもんで、それに負けて、人、喰おうとした。
[さらり、告げる言葉は何でもないような口調で紡がれる]
……は……生憎、自分がやられて死ぬほど痛かったこと、人にやっても楽しゅうなかったわ。
[それでも、そう返す時は口調は珍しくも吐き捨てるようなものへと転じ。
同時に走った地割れに、舌打ちしつつ、四弦を掻き鳴らした後]
……滅紫!
[呼びかけるのは、紫影そのもの。
青年の基本的な身体能力では、これをすぐさま避けてどうにか、というのはできぬ相談。
故に、影を足場に安定を図りつつ]
……二藍、内に戻れ……影鬼、憑依!
[上げた声は鋭いもの。
応じて鳴いた小鬼の姿は、二藍色の霞となって青年の内へと消える。
直後、青年が取ったのは、手にした楽琵琶を天へと放り投げる事と]
……紅桔梗、でませい!
[翳したその手に力集わせ──細身の外見に似合わぬ大薙刀を作り出す事。
大薙刀に括りつけられた二つの鈴が、りりん、と甲高い音を立てた。*]
[樹怪の上を飛び越えようとしたその後を伸ばされた爪が追う]
つっ!
[爪の一本が、鬼丞の左足、踝あたりに届いて、そこに浅い引っ掻き傷をつけた]
ぐ、う...
[背後へ飛ぼうとしていた身体がゆらりと揺れる。
小さな傷からでも毒は確実に身体に回る。回り切る前に勝負をつけねばやられる、と、鬼丞は覚悟を決めた]
[揺らぎながらも樹怪の背後へ回ろうとする軌道は変えず、その手に凝った風をぎゅう、と握りしめ完全に手のうちに押し込める]
おおっ!
[気合いに似た声と共に、風がびょう、と鬼丞の拳の中で啼いた]
[鬼丞の操る風は、術者の身を離れれば離れる程力を失う。それは逆を言えば、近ければ近い程、強い、ということ。
最強なのは、身に纏う風。だからこそ、纏う風はつねに護りの鎧ともなる。だが、その護りの力を攻めの力に転ずる術が一つだけある。
鎧を脱ぎ捨て、刃に変えるその技は、刀鍛冶たる鬼丞が、風を打ち上げ刀と為すにも似て]
びゅう…!
[輝く風が、鬼丞の腕から細く長い軌跡を描いて、すう、と伸びる。煌星の色に、その腕から流れる紅を滲ませ波紋のように揺れる様は、朱の乱れ紋浮かぶ白刃の如し]
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