84 戀文村
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最後の夜だろ。
ゆっくり……自分の言葉で伝えればいい。
[薬を一緒に飲むと言えば、ヨーランダは死ぬと判っていても
飲むだろうか。
だがそれをセレストに伝える事はない。
嘘偽りない自分を受け入れてくれた相手を最後に騙すような
形になる事を、セレストは望まないだろうと思ったから]
自分の…言葉で…
[できるだろうか、自分に。
一時の別れの時間は…近づいている]
食合せてはいけない食べ物ってあるでしょう。
そういう感じで、ヨーランダの薬草にも
決して混ぜてはいけないものがあるのを知っているわ。
昔、それこそギリアンさんが生きている頃に
墓場で遊んでいたら教えてもらったの。
……母さんも、ほかもそれを使ったから効果は。
でもね、アタシがそれを良しとすると、思う?
セレスだけじゃない、一緒にヨーランダも失えって、
言うんだよね。
そんなこと、アタシが黙って見ていられると思うかい?
[ダーラの言葉は痛いほど分かる。それだけに胸に突き刺さる]
ダーラさん…そうだよね…
やっぱり…我儘だよね、私の。
[だからこそ、戸惑いがある。]
…ダーラさんがどうしても嫌というなら、
私…ひとりでも、いいよ?
[自分より、年の近いダーラのほうがヨーランダへの思いは強いだろうから。]
[……と口に出来れば良かったのだろうか。
ただの機械の筈の通信機から何かが溢れて来る。
その想いに衝動的に口を付き掛けるが。
だが結局それを言葉には出来ず]
すまない。
[口に出来たのは何に対してか。謝罪のみ]
人殺しでいいなら、アタシにくれば良かったのに。
ねぇホレーショー。こうなったら、皆で静かに眠りましょう?
手伝ってくれるわよね。
[ヨーランダの決意が固いから、出る言葉は、村を覆う仄暗いもの]
順番に、すれば……ネ。
ああ、あんた達が安らげるなら手伝ってやるよ。
[その場にはいないが、無機質な鉄の塊の向こうの張り詰めた、
痛い程純粋な想いが伝わって来る。
この想いを戦火で散らせるくらいなら、と改めて決意を固め。
ただ、それに自分を含めなかったのは。
この村の人々には安らいで欲しいと思ったから。
自分は戦場で散るべきだと判っていた。
地獄に落ちて、馬鹿な上官達を引き摺り込むのが役目だと。
だからこの村で眠る事は出来ないと…決めていた]
……アンタも、もうこの村の一員よ。
そこ忘れないで。
[小さく息を吐いて、あのときの―母を殺めた時―と同じ顔になる]
アタシは皆を眠らせるまで、起きているわ。それでいい。
…ダーラさん。
私は(戦地に)行くよ、…だから…私には毒を盛らないでね。
[おどけた言い方をする。でも本気である]
あら、バレちゃったなら仕方ないわね。
ふふ。
[一緒に飲めたら、どんなに良かったか]
ちょっと、冗談で言ったのに。
ダメだよ。私が行かなかったら村が危なくなっちゃう。
[融通が利かない“妹”である。]
……感謝する。
[ダーラの言葉に目を閉じて数秒の沈黙の後、静かに礼を。
本当なら抱きついて大人気もなく大声で泣き喚いてやりたかった。
共犯者として、村人として、家族として……。
だがそれだけは出来なかった。
2人に嘆きを背負わせたのは戦争で、結局は自分達のせいなのだから]
セレスト……ヨーランダ…良い夢を……。
[絞り出した言葉がヨーランダには届かないとは知っていても。
酒を呑もうと言った彼女を思い出しながら、呟かずにはいられなかった]
[ヨーランダの行動にうろたえた]
ヨーランダさん…ここまで本気だったなんて。
……やっぱり盛っちゃうべきかしら。
[真顔でぼそり]
それだけ……あんた達の絆が深いんだ。大切なんだよ。
もう賽は投げられた。
ダーラさんが盛るくらいなら、自分でヨーランダさんから貰った薬飲むから。
[真顔で返す]
ほんと、仲良いよな。お前ら。
[通信機は小さな呟きも拾うのか]
次は、戦争の無い時代に平和な世界で姉妹で生まれて来いよ。
二人共ウチのベッドで、ずっと寝ていればいいわ。
[割と本気の呟きも、機械は拾うか]
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