270 食人村忌譚
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[「好きな野菜は」、とあの夜、丞は容に問いかけた。 返答の有無に関わらず、丞は己の好みを口にする。 「柔らかい食感が好きだ、春の葉物が好ましい、部位ならば頬と舌が特に良いが葉物は肉とは異なる食感を得る―――」
そして、暗所にしまい込んでいた野菜をいくばくか籠にいれ、容に差し出した。また太陽の上っている頃に来い、と伝え、それまで手伝い程度しかしたことがなかっただろう神社の娘に、手が届くだけの知識を教えることとなった。
何のために米を、野菜を育てるのか。 生きるためか。 食べるためか。 それだけならばきっと、この村で今まで生きてはこれなかった。 特に、それが若い娘ならば。 少しばかりでも「好き」が加わればそれが理由になるだろう。 食べることが好きであれば、それは今日と明日を繋ぐ理由になる**]
(18) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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真剣師 鬼丞は、メモを貼った。
2017/11/23(Thu) 03時頃
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―容の自宅―
[文をしたためようとしたところで、視界に手を振る姿>>0:237が映った 手を止め、あの時>>0:55と同じように 胸元で小さく手を振り返す 『いんですか!?』>>0:238の問いかけに、 もちろんですよ と微笑み返し、 伝え聞かすは、忘れず添えた 件の言霊>>0:118 ご飯はつやりと艶やかで 煮物もあぁまく仕上がって……]
いただいてばかりで、ごめんなさいね 舌の肥えているわけではありませんが、 私なんかの感想であれば、喜んで
[常と変わらず微笑みを送り、 続く『よかったなぁ』の言葉には、ゆっくりと頷いた]
(19) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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料理にかける時間も気持ちも、 作る方>>0:233>>2の命の一部 注いでいただいた容さんの命は、とても尊いと思います
容さんの美味しいご飯は、私を笑顔にしてくれるんですよ
[そう口にする江津子の微笑みは、 普段より深く 刻まれていた
深々と頭を下げて、その場を辞する 立ち去りながらも、ふと胸に去来する思い
もし、ゆりではなくて、こんな容が あの広い社>>15を継いでいたなら、 彼女はどんな巫女となり、 村人たちを導いていたことだろう――――――――]
(20) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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[だめ いけない――――――――]
(21) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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[そんな仮定を、思い描いてしまったためだ 油断した隙間に差し込まれる、二十余年も昔の記憶 江津子の胸に抱かれた、赤子の女子(おなご)
眠る彼女は、ミナカタとの交じりの夜に、 眠っていた男子(をのこ)>>0:61ではない 1人息子の大美(ダイミ)のことは、 立派に育てて、独り立ちさせた 村での一員として働き汗を流す、彼ではない
江津子の育てた子供は『1人』―――― 産み落とした命は 『もう1人』――――]
(22) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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―回想/二十余年前の神社―
女子(おなご)を、育てる自信がないんです
[眠る娘を抱きしめながら、『先代の巫女』に吐き出した 彼女の腹部を見つめながら、ついっとその子を差し出した]
神様の、ご慈悲を賜りたく この村で生きる女として、幸せになる術をお授けください
[赤子が火のついたように泣き出した 江津子は目を伏せたままだった
尊き巫女は頷いて、『引き受ける』旨を、 約束してくれたのだった]
(23) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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[誤解のないように、加えておきたい 赤子を手放すその訳は、口にした理由、ただそれだけだ
この地に生まれ、やがて土となり還る 輪廻にとらわれたこの子の行く末に、幸あれと
たった一度の交わりで、生を授かった私の子…… 『ミナカタの子』>>0:70に、幸あれと――――]
―回想/二十余年前の神社―
(24) 2017/11/23(Thu) 03時頃
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―容の自宅から離れながら―
[その時分を生きた者なら、察する者もあろうけど、 源蔵の帳簿>>0:167に描かれるには、 時をさかのぼりすぎていたかもしれない
赤子はすぐに亡くなって、ひっそり弔われていたかもしれない 巫女が他の女から子を引き継ぐこともあり得れば、 『約束』が遂行されていたかも、分からない
これだけ近づいても、容がそうだとは、 血を引いた子、『捨てた』子なのかは分からないし 仮にそうだとして、なんだというのかも分からないけれど
時折あの赤子と重ねてしまい、江津子なりの生きる術>>0:97を 伝えてしまうことも、まれにある]
ごぉろん ごぉろん ダルマさん――――
[懐かしい唄を口ずさみながら、歩みを進めっていった]
(25) 2017/11/23(Thu) 03時半頃
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―丞の自宅―
[ここにたどり着いた時>>0:125には、 戸を叩けど求め人は不在だった>>0:213 鬼の一字に礼をして、鍵のない戸をあけて中を確認するも、 がらんどうの研ぎ場が見えただけ]
よく、すれ違いますね
[機が悪いのか、相性なのか、こうしたことはままにある だから、幾度か行ったように、鉈と肉をその場に置くと、 よろしくお願いします と呟いて、両手を合わせた
そのまま自宅へととって返し、その夜は床についただろうか**]
(26) 2017/11/23(Thu) 03時半頃
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うん! 食べたいもの、いっぱいある、から。 いっぱい、お願いしたい!
[容の言葉に、元気良く頷く。嬉しそうに、それは嬉しそうに、いらえをした。続く言葉にも、元気良く頷く]
うん、早く、おうち帰るね。 ちゃんと、早く、おうち帰るね。
[容と娘とでしばしば交わされる約束、それが果たされるかは、五分五分だ。娘はともすれば何かに気を取られて、何かに夢中になって、ひたすら辺りをうろついたり何処ぞに居座ったりなどするし、ふと男に連れていかれる事も多い。 母と二人暮らしていた小屋に、娘は今も一人住み続けている。容や、ゆりや、村人達にかわるがわる世話をされて、今もようなく、暮らし続けている**]
(27) 2017/11/23(Thu) 03時半頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
2017/11/23(Thu) 03時半頃
ー −
[母親は『捨てた』つもりか『預けた』つもりか。
表向きは薬師の継承者になり得ると踏んで任せた子供。
しかし最初から、母親の罪を識っていた薬師は
罪人に己の種を撒き新たな罪を産ませていた]
せんせい。何でミナカタって言うの?
名前はどうなるの?
[問うた記憶の中の返事はいつも同じ]
『ミナカタは“皆を騙る”からさ。
わしたちは村人の命を助けもするし、殺しもする。
膨れ上がって立ち行かぬようになれば村は滅びる。
必要なところを間引いてやるのもお役目だ』
[その意味を知るのはもう少し先。
夜中に訪れる患者はいつも女。
切々と涙で語る物語は似たり寄ったり、結末も。
鬼灯から作った堕胎の妙薬。
堕ちた子供は何処へ流されていったのか。
源蔵が成長せぬのはきっとああやって消えたからだろう]
『わしらは代々村人皆を騙って生きていく。
名前など必要ない。
村の闇の1つに生きるのに、自分など必要ない。
不要だと思ったら間引くのも大事なお役目』
[酒を飲むと豹変する先代は嫌いだった。
そしてそれ以上に自分自身が嫌だった。
自分の為に生きることも出来ず、
村の為に名も棄てて、村の為に村の為だけに生きるなど。
不要になった者を間引いて良いと言われて。
最初に間引いたのは先代だった。
まるで抑え込まれていた蓋が一気に開いた解放感。
誰も知らぬ昂揚は誰かに教えずとも良いものか。
独り抱えたままで良いものか]
[──────そんな事すら判らぬほど。
罪を犯す果実は計り知れぬほど甘いのだ**]
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― ― [まだ幼かった頃の事だ。 風呂敷を手に、ススムが一人置き去りにされた家を訪れる姉妹が居た。 中身はその日によって様々で いびつな握り飯だけの事もあれば たくあんが添えられていた事もあったり 豪勢にも副菜がついて来たこともあった。 幼い頃のススムは、その出所を気にする事もなく ただ貰える食事に感謝するばかり。 いる姉、ゆり姉と慕っていた>>0:111のは昔の話。
成長するにつれ 差し入れられるものの裏に、人間模様が見えてくる。 種馬として育てようという打算 責務を果たしているという偽善感 ――世話焼き筆頭だった彼女らの裏までも、勘繰りそうになったころ]
(28) 2017/11/23(Thu) 08時半頃
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[巫女が世代交代を果たす。 その次の差し入れから、容が一人訪れるようになった。 理由を聞いたことは無い。 故に、ススムがゆりを避けるのは、 憶測の中の彼女の像が歪んでしまった所為でもある。
姉から巫女という職を奪った妹 その勝手な解釈を他者に話したことはなく 故に正す村人はいない。
農家の娘となってから、容の差し入れは野菜が多くなった。 変わらず自分を養ってくれる彼女には、感謝している。 姉への感謝が募るほど、妹のいる神社から足を遠ざける悪循環はどうしようもないまま]
(29) 2017/11/23(Thu) 08時半頃
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[目覚め、身支度を整えたススムは、学び舎へと向かう。 今日の授業内容であれば 恐らく生徒は昨日よりも格段に減るだろう
汲み置いた水瓶から柄杓で一杯。 朝食を終えて、家を出る。 鞄の中には、紙の束。 蓄えていく知識は、時に生活に不要なものも交じる**]
(30) 2017/11/23(Thu) 08時半頃
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――>>4>>5>>6―――
うん、覚えてる。 そっか、あのおじいさん死んじゃったんだ。 凍え死ぬって……次は暖かいところで産まれるといいね
[伝承を私は信じてる。 熱いうちに汁を啜り、寒かってあろうに温かい体内へとソボロを流せば熱さで喉をトントンと数度押した。 あまり話した思い出はないけれど、たまにあったおじいさんの笑った顔を思い浮かべれば転生できますようにと祈りながら箸を進めた。]
(31) 2017/11/23(Thu) 11時頃
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すごく助かってるよ。お腹空かせてひもじい思いをしてるよりは全然いいし、弔えることも出来たから、負い目もない。
[貰いものでいつまでも食い繋いでるわけにもいかない。 余裕が出来たなら母の耕してた畑なども手入れしてきちんと一人で生きていくくらいにはなりたいと思っていた。 だからミナカタの提案は有難く、私が手伝えるならとあっさりと承諾の意思は沸く。]
ん……私でもなれるのかな?
(32) 2017/11/23(Thu) 11時頃
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火傷はもう大丈夫だけど、畑の手入れも時間かかるし 私に出来ることならやりたい
[箸を置いてミナカタを見つめ、その顔は真剣な顔、同情の視線にいつまでも耐えられるほど卑屈に生きてきたわけでもない。病気や怪我を治すミナカタの仕事はなりたくてもなれるわけでもないから、その機会が訪れることは志乃にとっても嬉しい*。]
(33) 2017/11/23(Thu) 11時頃
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[親の記憶は無く
村人達との繋がりを、何処か壁一枚向こうのことと
他人事のように感じている
羨む心地は無くもない。
ススムなりに、毎日勉学に励むのは
自分にしか出来ぬ事を探し
雄として以外の役割以外を手にいれるため]
子を作って、役目を終えたら食肉になって
……人間と家畜は、何が違うんです?
[学び舎に通い始めた頃
精通を迎え、女を紹介された頃
其々に尋ねた事がある。
各々の返事はどうだったか
問うていい内容ではない事を、2人目で理解して
それ以降は誰にも口にしてはいない]
[彼の望む家族像には程遠い。
向上心は方向性を違えていて
日に日に、村へ対する疑問ばかりが増えていく。
自分は、此処にいるべきでは無いのかもしれない
永遠に誰とも分かり合える気がしない
自分だけが人を美味いと思えない
自分だけが人に喰われたいと思えない
自分だけ
いつか、気付かれてしまったら
そんな恐怖を抱えたまま
今日も何食わぬ顔で、村人の真似事をする。
解決の糸口を、探しながら**]
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― 現在・自宅 ―
[家に帰れば人の声と気配がした。 弟だけのものではなく、どうやら客がいるようで。 中へと入ればそこにいたのは教え子がいた。]
おや、進君いらっしゃい。 これは君が……?
[歪な握り飯を見て問いかける。 己が握り飯を作った記憶はないし、何よりもう少し上手く作る。 弟が作ったようにも見えず、ならば残るは彼しかいない。
話しながら荷物を置いて袖を捲り台所へと立つ。 味噌と僅かばかりの根菜を出して包丁で刻みながらいりこ出しをとり、刻んだ野菜を煮て味噌をとく。 簡単に作った味噌汁を椀に注ぎ教え子の前に置いた。]
(34) 2017/11/23(Thu) 12時半頃
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錠をここまで連れてきてくれたんですね、ありがとうございます。 弟は君に出会えて運がよかった。
他の誰に会っても連れてはきてくれたでしょうが……。
[あまり村人の手を煩わせては何時か罪人として裁かれるかもしれない。 これはずっと頭にこびり付いて離れない考えだ。]
食事が欲しいのなら何時でもここに来なさい。 君は一人暮らしですしたまには誰かと食卓を囲むのもいいでしょう。 まあ、ここも男所帯ですから容さんや江津子さんのような繊細な料理など出てきませんけどね。
[教え子を心配する教師のような顔をしてそう言った裏には打算もあった。 弟と懇意になんて面倒を見てくれれば、なんてそんな事を考えている。 己が死んだ後に残された弟がどうなるのか。 それだけが心配で堪らない。
それに対する返答がどうであれ昼飯を食べ終わった後は幾つか会話を交わし。 後片付けは自分がするからと断って教え子を帰しただろう**]
(35) 2017/11/23(Thu) 12時半頃
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[人間と家畜はどう違うのか、と問われた事がある。
色々と考えが巡る。
違いは感情を持っている事だろうか、と考えて違うと否定した。
家畜とて屠殺されるとなれば泣く事もある。
ただただ無為に殺されているわけではない。
彼らとて感情はあるのだ。
子を作り、役目を終えたら食肉となって。
どこも違う処などあるまい。
敢えて言うのならば。]
[ただ、そこだけの違いだ。
それを口に出す事はなかったけども。
この村でそれを口にするような人物の末路はどうなるのか考えるまでもない。
弟を一人残すわけにはいかないのだ。]
……死んだ人を食べるという事はとても神聖な行為ですから。
それを疑問に思ってはいけませんし、疑問が胸に溢れても口に出してはいけませんよ。
それが貴方の為です。
私はまだ貴方を食べたくはありません。
[だからこの時はそう答えたのだった*]
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― 自宅 ―
あぁうん悪いね、頼むよ。
[>>1筋肉の少ない痩躯は、成人男性にしてはおそらくだいぶ軽いはずだ。 進に礼を言い、身を任せ、布団の上に身を横たわらせてもらう。 たいして広くない家だ、寝転がったままでも台所まで十分声は通るだろう。]
梅干しの壺、分かるかな。 漬物とか足りなかったら、床下に糠漬けがあるからー。
[ゆるく自分で足をもみながら、声をかける。]
(36) 2017/11/23(Thu) 13時頃
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……ん? あれ、僕のぶんまで作ってくれたんだ、ありがとう。
[>>2進が拵えてくれた握り飯は、少し不格好だった。 けれど自分は、この不格好な握りすらままならない。 ありがたくいただこうと、受け取って、一口目を頬張って]
……んぐ……。
[そこに、兄の戻る気配>>34を感じ、急いで租借し、呑み込んだ。]
お帰り兄さん。 うん、畦道で難儀してるところを助けてもらってね、お礼にご飯でもって思ったんだけど、逆に僕が握り飯を作ってもらっちゃったよ。
[兄は、さっそく台所へ向かったようだ。 進と話し、味噌汁を作っているような気配を感じながら、もくもくと握り飯を食し、少し薄い茶で流し込む。]
(37) 2017/11/23(Thu) 13時頃
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そうだね、いつでも来てくれて構わないよ。 兄さんが忙しい時でも、誰かいてくれれば僕も助かるし、進くんも食事ができるし丁度いいんじゃないかな。
[>>35兄の打算には気付かぬままに、相槌を打つ。 脚が病み始めた若い時分は、兄以外の人間に頼るなど、みっともないし申し訳ないと思い、散々兄に苦労をかけたし、自身も必要以上に苦心した。 だが年が経つにつれ、誰かを頼るという要領も得てきた気がする。
……しかし、そうして、常に施しを受ける身としては、同時に、それらをいかにして返そうかということも、考えてしまう。 いま自分ができる仕事といえば、兄の書物の整理や修繕、手伝い、あとは縄を綯うなど、家でできることが大抵だ。 女性になら、子種をという選択もあるかもしれないが、女自ら腰を振ってくれなくては碌に事を進められない、しかも病人の胤など、好きこのんで欲しがる者は、あまり多くないのではないだろうか。]
(38) 2017/11/23(Thu) 13時半頃
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