247 満天星躑躅の宵闇祭り
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[>>103琥珀達と話していた亀吉が己に呼び掛けたのに気付けば、はたりと目を瞬かせる。
彼が何を言わんとしているのか。 恐らくまた会う事の出来る確率は限りなく低いだろうから、 真面目な響きが混じる言葉を、一言一句洩らさぬよう、じっと耳を傾けた。
亀吉の自ら選んだ道は、ごく珍しい例だという事。 ――人として生きる事は棄てずに済むならそれが一番だと。 そうせざるを得ないような事は余程の事がない限り起きない。 人として切り抜ける道を探すのを諦めてはいけない、と。
先達の諭すような言葉は経験の浅い少女の胸に染み渡る。
最後だけ、茶化すような物言いだったのは気遣いも含まれているだろうか。]
(119) 蒼生 2016/06/01(Wed) 23時頃
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――あぁ。 時間をかけて…多分一生ものになると思うが、ちゃんと考えていく。 人として生きる道を諦めたりしない。
[己は人として生きて、人として一生を終えたいから。 ――その為に。]
色々と、ありがとうございました。
[少女は言葉を改めると背筋を伸ばして亀吉に向かって一礼する。
そうして、大切な事を教えてくれた先達に微笑んでみせた。]*
(120) 蒼生 2016/06/01(Wed) 23時頃
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―参道―
[>>112祭りの風景が戻る頃、斎が参道で声を張り上げる。 どうやら今から芸を披露してくれるらしい。 誘うような仕草が目に入れば、少女は屋台で貰った烏賊焼き―お好み焼きの店主に再会し、鞄も手元に戻った―を手に人垣の中に入る。 境内で行動を共にした者達が傍にいたなら、彼らも誘って。
彼が披露するのは半紙を使用するもの。 少女は手妻を見た事がないので、一心に斎の手元を見つめる。]
…おぉ…。
[紙を縒って作られた蝶が扇子の風を受けて宙に浮く様を見れば、感嘆の声を上げた。 やがて蝶は観客の元に留まり。 演目が人形を使ったものに移るのは、素人目にはごく自然な流れに見えた。]
(121) 蒼生 2016/06/01(Wed) 23時半頃
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[地面に転がったままのヒョコが斎の合図で自在に動くのを見て、少女は目を丸くする。 それが糸を使っているものだとは、少女のいる位置からは分からない。
力も使っていないのに、何故。 純粋に観客として楽しみ、惜しみのない拍手を彼に送った。]
――斎。 先刻は見事な芸を見せて貰ったぞ。 お疲れ様。
[一人また一人と離れていく中、斎に声を掛けようと端に寄っていた少女は顔を輝かせる。 少ない言葉から興奮も僅かに伝わったか。]
(122) 蒼生 2016/06/01(Wed) 23時半頃
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[やがて先程の演目で使われていた紙の人形を見せられれば]
…しかし、いいのか?
[此処で出会えた記念を形に残しておきたいのだと。 何処かで繋がっていられたら、と言う斎。 けれどこれは商売道具ではないか、と。
しかし三者三様の色違いのヒョコを見比べながら、暫し考えると]
…ありがとう。 あたしからは何も渡せるものがないのが残念だ。
その代わり、大事にするから。
[微笑み浮かべながらそう言うと、山吹色のヒョコを両手で受け取った。*]
(123) 蒼生 2016/06/01(Wed) 23時半頃
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……まったく。
ホント、人使いとゆーか、星使いが荒いとゆーか。
[文句は言えど、逆らう事はできない。
考えていない、というのもあるが、何より]
『……何か言ったか、紫苑?』
[今は誰も呼ぶ事のない真名を知る相手には逆らえない。
そんな思いも、そこにはあるし]
いえいえ、なーんにも?
[ここが一番、自分にとって居心地がいいのも、わかり切った事だから。**]
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―境内―
[少女は荷物を纏め、来た時と同じ出で立ちになっていた。 お土産に買ったのは瑠璃製の花瓶。 斎に貰ったヒョコと共に、大切にスクールバッグの中に収められている。]
本当にありがとう。 最初はどうなる事かと思ったが、とても勉強になったし、楽しかった。
――どうか、元気で。
[出会った人達と別れの挨拶を済ませると、少女は元の世界へと戻るべく歩を進める。
決して振り返らずに。*]
(141) 蒼生 2016/06/02(Thu) 00時頃
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―神社―
ん…。
[界を渡った先にはある程度時間は経っているようだが、見慣れた光景があり。 軽く視線を巡らせたが、周囲に人はおらず。 何もない場所から突然現れるという、不可思議な現象は誰の目にも収められなかったようだ。]
――帰るか。
[家に。 帰るべき場所に。
少女はゆっくりと神社の階段を下りていく。 元の世界に戻って来た事を確かめるように。]
(142) 蒼生 2016/06/02(Thu) 00時頃
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「おじょおー。何処ですかァ、もう夕飯時ですよー。」
……。
[階段を下りる途中から聞こえてきたのは、兄弟子の声。 今は大学生生活を満喫中の筈だが。]
…柳さん?
[赤毛をざっくばらんに切った後ろ姿が目に入り、少女は目を瞬かせる。
半貫柳之助。 道場で共に稽古をつけて貰った事もある、闇星を宿した若き退魔師である。 彼は腰が低く、4つも年下の少女相手にも敬語を使うのだが、彼の少女を呼ぶ名はお嬢、には聞こえなかった。 これはこれ、として受け入れてしまっているが。]
(143) 蒼生 2016/06/02(Thu) 00時頃
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「あー、そんなところにいたンですか? 久々にお邪魔したら、おじょおがいないってンで、心配したんですよォ。」
[ころころと大袈裟に表情を変える兄弟子の顔からは、安堵が窺える。 少女は肩を竦めてみせながら言った。]
…また賭け事で‘すった’のか?それでうちにご飯をたかりに来たんだろう?
「うえ。…いやァ、そのォ。」
[図星を付かれた兄弟子は目を逸らして苦笑いする。
この男は賭け事が好きなくせに運がなかった。 奨学金を貰って大学に通ってはいるものの、バイト代をつぎ込んでは方々に泣きついていた。 それでも悪い道に手を染めないだけ、マシとは言えるが。]
(144) 蒼生 2016/06/02(Thu) 00時半頃
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「…徹マンで少々。いや、でも結構いい線いってたンですよ?」
それはもう聞き飽きた。
「これも付き合いなンですって。お願いしますよー。今晩だけですからァ。」
[両手を合わせて拝む兄弟子に少女は溜め息を付いた。 これではどちらが目上だか分からない。]
――全く、仕方のない兄貴分だ。
「あれ、ご飯の取り分減って怒ったりしないンです?」
[冗談半分に首をこて、と傾げる兄弟子を少女はじろりと睨んだ。 それでへそを曲げる程、器は狭くない。 気分も悪くはないのだけれど腹は減っていた。――とても。]
(148) 蒼生 2016/06/02(Thu) 00時半頃
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…お望み通り、締め出そうか。
「あ。いやァ、何でもないでーす! いやぁ、おじょおが優しくって感謝感激雨あられーってね。」
[兄弟子の言葉遣いが古臭いのは、幼い頃に一緒に同じ番組を見ていた事に起因する。 兄妹のように育った彼らの間に垣根はなかった。]
はいはい、分かった。
「えー。ちょっと、おじょおー?」
[少女はくるりと踵を返すと家路に向かう。 その後ろを、影法師のようにひょろりとした体格の男が追いかけた。*]
(150) 蒼生 2016/06/02(Thu) 00時半頃
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