22 共犯者
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―朝の森>>73― [ 草を踏み繁みをかき分ける物音から、イアンが自分を追ってきたのには気付いていた筈だが、『それ』はわざわざ振り返るようなことはしなかった。 彼が声を発してはじめて、横目でチラリと見遣る。
――月光の下での一夜の間に、彼は変わったのか。変わらなかったのか。これからどう変わっていくのか。 それは、彼自身もまだ解かってはおらぬことに違いない。]
(75) 2010/08/11(Wed) 10時半頃
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―深夜の森>>77― [ イアンの放った生命の雫を、喉鳴らし甘露と飲み下す。 羞恥と快楽の余韻に震える肉体を見下ろし、『それ』は満足げに赤い舌を閃かせて口唇にこびりついた汚れを舐め取った。]
お前の味、だ。
[ 囁き膝裏を掬い、イアンの下肢を大きく割り開いて、もう一度からだを重ねる。 『それ』は最後に残された、肉の狭間の唯一触れていない部分にも舌先を捻じ込み、開口部を押し開いて内臓を暴いた。]
(80) 2010/08/11(Wed) 18時頃
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―深夜の森>>81― [ 『それ』は灼熱の槍でもって、イアンの身体とこころの両方を貫いた。 遠い海の波濤のように、嵐にざわめく樹々のように、それは幾度となく激しく打ち寄せ、イアンを揺さぶり、高波の頂点に押し上げては打ち砕いて夜の底に引き攫った。 それだけでなく、夜ひらく花となって彼の上で揺蕩い、燃え立つ花莟のうちに迎え入れ、イアンの生命の蜜を取り込んだ。 繋いだ身体の境界も判らなくなるほどに蕩けあい――
――けれども草叢の中、失神したイアンの汗みずくの身体を抱いて眠る時。 彼の目の縁に溜まった涙を舌先で拭い取りながら、『それ』の双瞳は寂寞たるいろを湛えていた。*]
(83) 2010/08/11(Wed) 19時頃
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―朝の森― [ 木に凭れたイアンの身体がずるずると滑り落ちる。 その視線の先にある筈のミッシェルの姿を、彼は見ていない。彼の目に映っているのは、ここではないどこかの、ここにはいない誰かなのであろう。
『それ』の眼から一切の感情が消えた。 宵月いろの鏡となって、不在の誰かに向かって饒舌に語り続けるイアンの姿をただ映した。]
(85) 2010/08/11(Wed) 19時頃
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―朝の森―
イアン。
……イアン。
[ 『それ』はイアンの名を呼ばう。]
(86) 2010/08/11(Wed) 19時頃
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ずっと、お前の方が知りたがっていたのに、
今では、
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―朝の森>>87― [ 穏やかな笑みを浮かべるイアンはもう平静に戻っているようであった。が。]
――…… そうか。
[ 素っ気無く答える表情は変わらねど、瞳の底ひっそりと、哀しみに似たいろが過ぎった。]
(88) 2010/08/11(Wed) 22時頃
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―満月の夜― [ ――血塗れた手はそのままに。
降り注ぐ月光の下、森にぽっかりと開いた空き地に二人は立っている。 全き円の形を取り戻した月は、黄金の円盤が夜空に嵌め込まれているとさえ。]
何者かを知れば、答えが出ると言うのか。 それで理由がつくと言うのか。
[ クッと薄い口唇の片端が歪む。] 「ヒトではない獣」。 お前自身がそう理解しているではないか。
(90) 2010/08/11(Wed) 23時頃
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お前は俺が、お前の全てを捨てるに足る神であって欲しいのか。 お前が繰り返す、信仰告白どおりの存在であって欲しいのか。
[ 嘲りに似て――けれどもそれは、怒りにも似ていた。]
(91) 2010/08/11(Wed) 23時頃
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同じ――同じ。
お前も同じ、なのか。
[ 誰も聞く者が居ないからこそ、零れる独り言。]
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[ 長い沈黙の後。]
――お前は俺に喰われたいのか。
[ 尋ねるのではなく、それは確認。]
(94) 2010/08/11(Wed) 23時頃
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――俺の神など、居らぬ。
[ 吐き捨てるように呟いた。]
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[ すう、とひとつ大きく息を吸った。
『それ』は暫し瞑目し――再び目を開けた時には、月の黄金に輝く瞳は蠱惑を湛えて煌いていた。]
(96) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ 口唇が艶冶な微笑の形を刻む。 差し出された手に合わせ、重ねるように手を伸ばし、招く。 言葉は無い。 ただ、誘(いざな)う――ここへ来い――と。]
(97) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ かつて「ヘクター」と呼ばれた同胞にしたように。 ほんの一夜前、彼を差し招いたように。
腕を広げ、イアンを待つ。 自らの内に招き入れるために。
『それ』もまた、うっすらと開いた唇から欲望に濡れた熱い息を吐いた。]
(100) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ 彼の手を握り返し、腕を引いて抱き取る。]
イアン、お前が欲しい。
お前を、喰らいたい。 お前を、丸ごと、くれ。
[ 待ちかねたように、擦れた声で囁いた。]
(101) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ 胸を合わせ――深い、深い口接けを。]
(102) 2010/08/11(Wed) 23時半頃
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[ ――……そうして彼は、自らを灼き尽くす情欲と食欲の軛を解き放った。
イアンを組み敷き、下肢を押し開き、肉の剣で貫き、抉り、打ちつけ、掻き乱し、逃れることも許さず徹底的に蹂躙する。 愛撫する口唇と肉を噛み裂く牙は手を携え、彼の全身を朱で染めた。
『それ』はイアンの肉を二つながら貪る――生贄たちにそうしたように、だが、もっと時間を掛けて、快楽と苦痛の時を引き伸ばすように。]
(105) 2010/08/12(Thu) 00時頃
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