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[まるで、櫻の前では見得を張りたいと言わんばかりの文句
彼の素直さに主張の激しい喉仏が緩やかに上下した。
花前でも微笑を取り繕っているばかりだった数日前に比べれば、
随分彼には色が増えた。やはり、彼には才能があるのだろう。
人を惑わす天性の才能が。]
【人】 看板娘 櫻子 ……? (50) 2014/09/21(Sun) 22時頃 |
["丁"という花の名を借りたのは、己の全てを掌握するあの男が好ましく思えなかったからだ。
花籠の主。
誰よりも高みから眺めるあの男に、己は居場所を決められたのだから。
もう二度と聞きたくも無い名前でしょう?
其の意味を込めて、嫌がらせに、己は"丁助"に成った。]
[白に含ませる沈丁花の香も、以前の"丁"を真似た。
赤い蕾をつける花だから。
理由は後から追いかける。]
[花として生きる花たちを、自らと同じ立場だとい言うのに、何処か遠くに感じることがある。
馴染んで居るのか、居ないのか。
花らしく微笑みながら、世界は薄い膜の中。]
【人】 看板娘 櫻子 ……お気を、悪くされてしまったようです。 (53) 2014/09/21(Sun) 22時半頃 |
ちょう。
[男の声は“丁”の名を綴る。
在るのは普段変わらぬ一階の奥。
揺り籠に揺れる宵闇の色。]
丁。
[花が何かに心奪われ。
根腐れ起こすなどよくあるお話。
“丁”も変わらず、その一人。]
[“丁”は替わらず、ただ独り。]
[男は思い出していた。
あれはいつの頃だっただろう。
雨の日か、
或いは雪の日か、
或いは曇り、
或いは月夜、
覚えてなどいないが
蕾の色と同じ色をした
ぬるつく“紅”に濡れていた。
沈丁花の香など掻き消えて。
淀んだ空気が満ちていた。]
丁、飛べぬ花。
飛ばぬ花。
[数多、花を刈り取る命下しても。]
飛ぶことなど、赦しはしない。
[男が直に刈り取ったのは“丁”一人。]
[同じ名を持つ焔花。
それが蒲公英であるというのなら。
男は、
綿毛のひとつ、
籠から飛ぶを、
赦さない。]
[それはまだ、雨が止んだ頃であったか。
珍しく一階奥の部屋にて、蝶以外の来客が通された。
一輪の花の迎えに、醜い肉塊が現れた
金は払った!
何処へ隠した!
そんな風な叫び声が部屋中に響く刹那。]
知らないねえ。
花は、人でも犬でもなんでもない。
首輪もなければ自由に咲き、自由に枯れる。
あれは元々、根を張る花とは違ったのさ。
水面に揺れる、蓮の如く。
波間に浚われてしまったんだろうよ。
しかしだ。
そんなことはどうでもいい。
金は払ったというが、どうも勘定があわなくてねえ。
お客人、利子というものをご存知かな?
他から金を借りるということは、そういうことなのだよ。
払わずして消えた花の数年の利子、
払えるのなら全て揃えて頂こうか。
無くとも、払って頂こう。
言うだろう?
―――“人間外見じゃなく、中身だ”と。
[その後、その肉塊がどうなったか。
嗚呼さっぱりと覚えてなど居ない。
蛇から逃げ遂せたかもしれないし。
そうでないかも知れぬ。
今は揺り椅子に揺られ揺られて。
男は籠の中の
花の名を口にする。]
藤は今頃、どうしているのかねえ?
[罅割れた鏡花。
朧月を泣かす藤。
下町の空きを、しっかりと埋めていることだろう。
下方の孔も、しっかりと埋められていることだろう。
花籠がどれ程幸福な場所であったか、知らしめられていることだろう。
下卑た冗句。
きいきいと揺り籠は揺れる。]
……しかし、花も幾分と減ったものだ。
[ゆうら、ゆうら。
揺れる宵闇は *何想う*]
[彼の部屋か、あるいは館のどこかでか。
朧の姿を見つけると、己は彼に問いかける。
普段より落ち着きが無いと、心配させるかもしれないが。]
……朧は、此の花籠で長いよな?
なあ、此処から、逃げ出すことは、可能だよな?
金を貯めて、自分を買えば、叶うよな?
[困らせる問いだっただろうか。
それでも、問う。
借金を背負い、繋がれた楔から逃れる術を。
唯一己が縋った未来は、之までに叶えた事の在る花など居たのだろうか。
在り得ない幻だったのだろうか。]
【人】 看板娘 櫻子 そう、なのですか…? (61) 2014/09/22(Mon) 00時頃 |
[音も経てずに、ただ静かに霧雨は降る。
明日には『日常(いつも)』の朧に戻るため。
『普段』の花籠で揺れる花に戻るため。
もう二度と見れぬあの色に告げる。
左様なら、さようなら、と。
櫻の微かな香りと温もりを傍に、月は眠る。*]
[焔色に違和感を抱きながらも
焔が月に問うは、『花籠』から出るための問い。
僅かに眉間に皺を寄せながら煙を燻らせれば、暫しの間が。
吸い殻を丁寧に落としながら、ゆっくりと口を開く。]
前者はともかく後者は然り、だな。
[迷ったままの視線は焔と合う事は無かったのだろう。
己に投げられた言葉には微かに光が宿っているように思えた。
しかし。
それを叶えた花など、少なくとも朧が見た中では居なかったのだろう。
……自分が花になる前なら、あったのかもしれないが。
花主がそれをただ黙ったまま見送るのかどうか。
故に朧は、そうとしか答えることはできなかった。]
【人】 看板娘 櫻子 とうもろこしのお茶です。 (65) 2014/09/22(Mon) 00時半頃 |
――そうか。
[出された茶にも手をつけず、座して朧の紡ぐ言葉を待っていた。
抱いていた期待は、筋の通る話である筈だ。
大金の代わりにと繋がれた鎖なら、金で断ち切れると。
花籠に長くして、彼は己よりも多くの花を知っている。
其の彼の言葉なら、信じられる。]
だよな。
良かった。
[彼の懐に渦巻く疑問に気付かずに、焔はふわりと、微笑んだ。]
お……
おぼろ、僕は、何時か自分を買って、外に出たいんだ。
[之までに誰にも告げたことの無かった夢を、教えてくれた彼に打ち明ける。
其の為に今は耐えていると、言葉の裏は彼に伝わるかは判らないけれど。]
答えてくれて、ありがとう。
【人】 看板娘 櫻子 ……僕は、嫌ってなどないのですよ? (66) 2014/09/22(Mon) 01時頃 |
[ただ、ただ、苦手なのです。
近付いてはいけないと、何かが警鐘を鳴らします。
関わってはならないと、何処かが制止をかけるのです。]
…───『嫌い』になれたら、
[どんなに、楽であったことでしょう。
それもこれも、僕は花であるからだと。
何方を好いても、何方を嫌ってもいけないのだと。
その教えに生きているのだと、ずっと言い聞かせておりました。]
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