308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[例えば、今日のことを予めわかってたなら 人を好きになったりしなかったんだろうか。]
(+68) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[リュックサックの中を八割満たしたところで、 次で最後にしようか、と 元帥と言い交しながら、次の家へ向かう。 気が付けば、なじみ深い場所に来ていた。]
ここでさあ 小さい頃、遊んだんだよね。 子供が遊ぶにはちょっと狭いけど 学校がそばにあって、 帰り道の途中で公園によって……
[思い出話をしながら、 真っ白なアパートに入っていく。 …………見覚えのある建物だ。 沙良とその家族が住んでいる場所だ。
歩むごとに口数が少なくなっていく。 それに気づいてか、元帥が「大丈夫か」と 珍しく声をかけてきたから、首を横に振った。]
(+69) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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でも、いかなきゃなんだろ
[ここは、やめてくれ、とか。 そんな事言えるはずもなかった。 どこに物資があるかわからない状態で えり好みなんかしてられない。
俺は意を決してその一室に入っていく。 ――――鍵は、開いていた。]
(+70) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[まず鼻についたのは、異臭だった。]
(+71) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[玄関先に女の人が倒れている。
沙良の母親だ。
大昔、おばさん、と呼ばわって、 「おばさんって呼ばないで」と 沙良に怒られたっけ。 優しい人だったから、俺の言葉にもころころ笑って それが沙良の顔によく似ていたのを覚えている。
手を合わせながら、その死体をまたいだ。]
(+72) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[リビングに入っていく。 つっかえるものがあったから、 無理やりにこじ開けると、ごろりとまた何かが転がった。
ドアノブを使って男が首を吊っている。 眼鏡をかけた壮年の男性。 沙良の父親だ。 「娘さんを俺にください」って言う妄想はしてたけど 面と向かって話したことは、あんまなかったかも。]
(+73) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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「クシャミ」
……なんすか、元帥
「大丈夫か」
[瞬く。手、と言われて、俺は改めて自分の手を見る。 見た事もないくらいに震えていた。 やだな、と軽薄に回る口を動かして、 いつも通りを演じてみようとするけれど、 やっぱり上滑りで、元帥の目はごまかせない。]
(+74) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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なんでも、ないっすよ ここ誰もいないみたいっすね 元帥は台所漁っててだにゃー
「嘘ついてんじゃねえよ。 とりあえず他の部屋の安全確保できるまで お前から離れたりしねえからな」
なにそれ。男前かよ。惚れて良い?
[軽口を叩きながら、 俺は沙良の部屋の扉に手をかける。]
(+75) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[入ったのは随分遠い昔だ。 まだ俺達がランドセルを背負っていた頃。
うろおぼえだけど ピンクと水色と白をふんだんにつかった 女の子らしいお部屋だった記憶がある。
入るだけで甘いミルクティーのにおいがして、 女の子ってマジで砂糖でできてんのかなって 錯覚できるような、そういう可愛らしい部屋だった。
この扉を開けたら、変わらない姿の沙良がいて、 昔と変わらない笑顔を浮かべて、 「いらっしゃい、秋くん」って、言ってくれねえかな。
そんなわけねえよな。ウケる。
物音を立てないように扉を開ける。]
(+76) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[途端に襲い来たのは、 強烈な腐臭と、蠅の羽音だった。]
(+77) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[可愛いぬいぐるみが置かれたベッドの上に 白と赤と黒でまぜこぜになった何かが転がっている。 それは人間と同じくらいの大きさで、 背格好は男のものに見えた。
もっと言えば、服装は、 俺が殺した進のものと、おんなじだった。
その人「だったもの」の胸で泣くように 誰かが、ベッドの傍でうずくまっている。 泣いているように見えないのは、 強烈な腐臭と共に響く、粘っこい咀嚼音のせい。]
(+78) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[指通りがよさそうだった亜麻色の髪は乱れて 蠅がまとわりついている。
いつも清潔そうにみえた服に血が滲んでいる。
すべすべだったはずの腕が、 枯れ枝みたいになってる。]
[何。――これは、何。]
(+79) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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う゛
[振り向いたそれと、目が合った。 脳が揺さぶられる感覚。
そいつが扉の前に辿り着く前に、 俺はとっさに扉を閉める。
ばん、ばん、と扉を殴る音が響く。 元帥が太い腕で扉を固定して 鍵を閉めるのが見えた。
我慢できたのはそれまで。
せりあがってきた吐き気をこらえきれずに マスクを外して、俺はトイレに駆け込んだ。]
(+80) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[なんで? 沙良の部屋に進の死体がある。 ゾンビになった沙良がそれを食べてる。 なんで? 俺さ、2人の幸せを願って身を引いた筈なんだよ。 片思いこじらせ童貞だって、身の程を知って 進には当たったけど、沙良に恨み言は言わなかった。
なんで?
明日なんかこなければいいって、 そんな罰当たりなこと願ったから、 二人には幸せな明日はこなかったの?
なんで?]
(+81) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[あの日。進を殺したあの日。 俺が保身にかられて逃げ出さなければ。 沙良を説得していれば。
ああいうことには、なんなかったのかもしれない。 そう思うだけでもう俺は死んでしまいたい。 何が英雄だ。何が。 大事な友達だって好きな女の子だって 誰一人守れやしないんだ。
生きてる価値一番ないやつが なんで生きてるんだよ。
なんで。]
(+82) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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「クシャミ。……クシャミ。おい、串谷秋!」
[揺さぶられる感覚に我を取り戻す。 珍しく焦った目をした元帥が、 俺をのぞき込んでいた。]
元帥。
[そういえばこいつの本名、知らないんだよな。 って、どうでもいいことを考えた後、 へらりと笑って、俺は声をあげて泣いた。]
(+83) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[どうすればよかったんだよ。]*
(+84) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[キャロライナに出会ったのは、実り満ちた畑だった。]
(+85) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[海を越え、初めて降り立った大地は 写真で見たよりもずっと広く、私は少し辟易していた。 どこかしこ作物が実り、肥料のすえたような匂いがする。 先輩のサポートとはいえ、契約相手の前で 鼻を摘む訳にはいかず、実状確認の名目で ひとりの時間を得てようやく鼻筋に皺を刻んだ。]
……何もないな。
[ここにいるのは元々大豆かトウモロコシだけで、 賛同する声も、声量を憚る必要もない。 後者は収穫間近で、実った種を青い葉の内に隠して、 白い髭を乾いた風に揺らしていた。 息苦しさなど欠片もしらないような土地に、 息をするのすら躊躇ってしまう。]
(+86) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[規律正しい養父母の下、道を外れることなく生きてきた。 学業の成績は特別秀でている訳ではなかったが、 幸運にも職を得ることができ、就職してすぐ借りた アパートにも、今では余裕を持って住み続けている。
シエスタを切り上げる度に真面目だな、と言う同僚へは、 両親に似たのさ。と、肩を竦めて見せた。 人というものが、あまり好きではない。
近づけば感じる体温が苦手だ。 ――肌の奥に何かが入ってくる心地がする。 感情の滲む声が苦手だ。 ――耳の底を己の意思とは別に擽られる感覚がする。
共有を強いられる時間も、並ぶことで生まれる比較も、 そして何より、それらの恩恵を得ながらも 疎い続けている自分自身が好きではなかった。]
(+87) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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……っ、 と、
[腰の辺りに強い衝撃があり、蹈鞴を踏んだ。 丁寧に磨かれた革靴の先が柔い土へとめり込む。 振り向いた視線の先には、燃えるような赤毛があった。]
“お兄さん、どこから来たの!?”
[キャロライナ――キャロルは、 ここら一帯の畑を管理する一家の末娘だった。 周囲に建物のほとんどないこの地で生まれ育ち、 スクールには通わず、家の手伝いをしているのだと言う。 大人とばかり接しているからだろうか。 彼女は私の知る子どもよりずっとしっかりしていて、 そして私の知る何よりも自由だった。
そんな彼女を揺れるトウモロコシの前で初めて見た時、 私は太陽の在処をようやく知れた気がしたのだ。 これまで、曇天の中で生きていたことに気づいたのだ。]
(+88) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[それから暫く、仕事でこの国へ滞在することになった。 畑にも足繁く通い、合間はすべてキャロルと過ごした。
周囲は私が彼女と遊んであげていると思い、感謝したが、 実際は私が彼女に教えを乞うていただけだった。
二人きりの間だけ私は彼女を先生と呼び敬語で話したし、 彼女は私をミケーロと呼んだ。
夕食のパイを気づかれずに一切れ攫う方法。 女性の社会進出における問題点について。 屋根から見る星がどうして他より美しく見えるのか。 電話線を繋がず遠方と話すにはどうしたらいいか。
彼女はまず自分の考えを情感たっぷりに語り上げた後で、 必ず私へ「ミケーロはどう思う?」と尋ねた。
それに答えている間は疎う体温も声も、 自身への嫌悪も何もかもを忘れられたから、 私は夢中になって己が考えを述べた。]
(+89) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[ある授業の休憩時間、私は先生へ尋ねたことがある。]
寂しくはないのですか?
[彼女はいつもひとりだった。 周囲とソリが合わない様子も、嫌っている訳でもない。 畑の手伝いもすれば、食事だって共にとっているようだ。 けれど、それでも、ひとりだった。]
“どうして? こんなにも自由なのに!”
[少女は笑いながら両手を広げ、当然のように答える。 出会ったあの日、呼吸を躊躇った感覚を思い出した。 論理的な理由などどこにもなくて、きっかけも曖昧だ。
けれど、それだけで、私は。]
(+90) 2020/10/25(Sun) 20時半頃
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[数ヶ月に渡る準備を終え、本国へ帰った後も、 毎年夏になると畑の様子を見る名目で彼女の元を訪れた。
一年目の夏、彼女は得意げに自分の名前を書いて見せた。 地面に枝で穿たれた文字は、最後だけ裏返っていた。
数年目の夏、彼女は顔に大きな傷を作っていた。 通りがかった旅人と喧嘩をしたのだと笑っていた。
それから更に数年後、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。 父親はいないのだと言う。 名前をつけてと頼まれたから、丁重に辞退した。 翌年、シーシャと名付けられた男の子が生まれた。]
(+91) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[シーシャはすくすくと育った。 キャロルはスクールに通わせないつもりのようだったが、 彼女の家族と共に説得すると渋々同意した。
シーシャはすくすくと育った。 元々身体の弱かったキャロルは床に伏せるようになり、 生まれつき足の弱かった私も加齢と共に歩けなくなった。
それから更に数年後。冬の迫る秋のこと。 すっかり古ぼけたアパートにシーシャから手紙が届いた。 キャロルが亡くなったらしい。 眠るような、穏やかな最期だったと言う。
私は暫し瞑目した後、手紙を丁寧に破いて捨てた。]*
(+92) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[最小限の明かりが灯された、暗い家の中。 クローゼットの前にはソファーがあった。 隣の部屋まで押していくのは重労働だったが それでも、なんとかやり遂げた。
辛かったのは、ソファーを押すことなんかよりも 兄貴がクローゼットから出たがる音を、 聞かなかったフリをすることだ。]
[壁を引っ掻く音が、断続的に聞こえる。]
[腰のポーチにはスマホの充電器とケーブル。 あとは……兄貴が、力のない僕にと見繕った 出刃包丁を布巾にくるんでつっこんだ。 長くて全部は入らなかったけど、 すぐ出せるならいいかと、 持つところだけはみ出たまんま。]
(+93) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[あとは、地図の確認や明かりぐらいにしか 使えなくなったスマホをポーチに入れる。
このあたりの基地局が機能しなくなったのか、 充電をし直した後も、ネットには繋がらない。 それでも、スマホは手放す気にはなれなかった。
最後に投稿した内容はよく覚えている。 世界が今どうなっていて、 これからどうなるのだとしても 僕は、生きてやると決めたんだ。]
(+94) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[ソファーの前に立って、 クローゼットの方を見る。]
「グ……ウァ、……アー……」
[聞こえるのは呻き声。壁を引っ掻き、殴る音。 時折、クローゼットの扉が歪むけれど。 紐やらガムテープやらでぎちぎちに固めて ソファーでバリケードを作ったお陰で、 兄貴がここから出るのは厳しそうに見えた。]
兄貴。僕、行くよ。
兄貴を殺すのはどうしてもできなかったけどさ 絶対に、人を襲わないように そうした、つもりだよ。 [ずっと泣き続けてきたからか、 もう、涙が出ることは無かった。]
(+95) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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僕、兄貴の分まで、生きるから。 どれだけ長くかはわからないけど…… やって、みるから。……安心して。
[兄貴のバイクの鍵を握りしめて。 僕は、玄関の方へと踵を返す。
それから一度も振り返ることはなく。 玄関ののぞき穴から外を見て、 扉に耳をつけて音がしないことを確かめてから 玄関の扉を、そうっと開けた。]
(+96) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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[僕のバイクは長い間乗って居なくて メンテナンスのへったくれもない状態だ。
それを知っていた兄貴は噛まれた後に、 自分のバイクの鍵を僕に預けてくれていた。 大分前にお隣さんを落とした方…… 裏の方からは、何かの咀嚼音が聞こえてくる。 僕はできるだけ音をたてないように、 兄貴の青いバイクの方へと向かった。]
は、……ガソリンちゃんと入ってる。 傷もないし、いつ見ても綺麗だよな…。
[高校の時に取って、少しは運転したけれど。 大学に入ってからはめっきり乗っていなかった。
僕が、兄貴のバイクに乗っていいんだろうか。 ―――そんな風に悩んでいる余裕は、 今は全く残っていなさそうで。]
(+97) 2020/10/25(Sun) 21時頃
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