―― 伝説の樹 ――
[一人の女生徒が体育館の影からこっそりと駆け出してきた。
練習を少し早めに抜け出してきた水泳部の生徒らしい。
きょろきょろ。あわただしく周囲を確認する。
建物の影になるよう、さっとしゃがんで飲みかけのペットボトルを取り出した]
『……おばあちゃんが元気になりますように』
『おばあちゃんが元気になりますように』
『おばあちゃんが元気になりますように!!』
[早口でつぶやいて、大急ぎで残りの水を口に含む。
一口、二口、三口……それは、契約の儀]
[彼女がちょうど九口目を飲み干したとき、ざわと小さく風が吹いた。彼女を取り巻くように、緑の葉がくるくる渦を巻く]
……その願い、受け入れた………
[樹の上から、低くかすれた奇妙に響く人ではないような声が彼女だけに届いた。枝の上、一瞬前までいなかった銀色の人影が座っている]
(@2) 2010/08/01(Sun) 16時半頃