[エンジン音や振動もほとんど車内に響かない高級車。車がカーブを曲がる時、激しい揺れが襲い、タイヤが軋む音が響いた。チラリとカーテンの隙間から外に視線を流すと、中世ヨーロッパの都市がそのまま残ったような遺跡の街が見え、大きな水平線と海を望む崖道だった。
非現実的な世界は、オークション会場の古城を出てもまだ続いている。祖国を出て海を渡った時のように、強引にアメリカからヨーロッパに取材旅行に出た時のように、また、イアンが海を渡る事はあるのだろうか。]
…──
ん。
あんたのもの だ。
[チラリとのぞく現実の風景と、事故死と言う新たに過った死の恐怖は、目眩のような快楽に取り紛れてすぐに失せてしまう。
ただ「いままでのこと」と言うグロリアの言葉に、イアンの中走馬灯のように過去が過ると、背骨をのみこんで行く快楽に、身を切り裂くような痛みが混じり、その痛みがまた身体に炎を呼び込んだ。]
(254) yummy 2010/04/19(Mon) 00時頃