[扉越しに聞えてくる声に、優しさがにじむようで、あたしは気づかぬうちに乱れていた心が落ち着くのを感じた気がした。
ちょっと、待ってて、という言葉と共に離れていく気配を追うように、扉に触れる。
どうしたんだろう、と少しドキドキしながら、申し訳程度に乱れた髪を手で撫でつける。
戻ってきた気配が孕む申し訳なさには思い至らないけれど、若干、慌てたように…だろうか?謝りながら離れていく気配に、無性に手を伸ばしたくなって。]
あ、待って…!
[思わず呼びかけながら、扉を少しだけ開けた。
半分だけ顔をのぞかせて、様子を伺う。
置いておいてくれたらしい水が目に入り、やっぱりこの人は、良い人だと思う。
もしも、彼が呼び掛けに立ち止まったならば、お礼の言葉を付けたすだろう。]
あの…ありがとう、ございます。
[彼からは、寝起きの姿を隠しているように見えたかもしれないけれど、その実あたしが本当に隠していたのは、何故か少し赤くなってしまった自分の顔だった。]
(199) 2014/03/19(Wed) 19時頃