忘れてって、言ったのはさ。
[手すりに身体を預けながら、真琴の背中を優しく撫でる。激しかった嗚咽も少しずつ落ち着いてきたようだ。]
カリュクスの存在といきなりの停電で、弱っているだろう君の心の隙につけいるみたいで、かっこ悪くてさ。
ちゃんと想いを伝えるなら、正々堂々向かい合わなきゃなって思ったんだ。
[それに、抱き締めるんならちゃんと好きな子の顔みたいしね、とニヤリと笑ってみせると、こわばっていた肩からふっと力が抜けた。]
だから、暗闇に乗じて卑怯な行動に出た汚い俺のことは忘れてほしかったわけ。
ま、ばれてたろうから、なんつうか…情けない話ナンダケドネ。
[ククッと笑いながら、涙で頬に張り付いた髪の毛をそっとよけてやる。恥ずかしそうに伏せられた睫毛に、涙の珠がキラキラと光って。男はこみあげてくる愛しさを、抱き締める腕に力を込めることで抑え込んだ。]
(182) 2013/06/19(Wed) 21時頃