[靴の底で擦れる紙の音なんて、今はどうでも良い。
弟を責め立てる言葉に返されたのは、同じく自分を責める言葉だったけれど。
伸ばした腕が包帯の上から喉に触れて、それから肩に触れて、それを拒まれないことに、心底安堵した。]
僕のせいで、良いから。
[――置いていかないでくれ、と。
いつかも繰り返した問答の答えを、今度ばかりははっきりと口にして。
肩を引き寄せながら落としたそんな懇願すらも、いつか相手から聞いたはずだと既視感を覚える。
顔だけでなく思考まで似た肉親に、その身体を手繰り寄せることに、吐き気にも似た忌避を感じるのは初めての事ではない。
けれどそれに縋る意外に、手段なんて浮かばない。
散々縛り付けて良い様にしてきた弟が、いざ離れてしまうかも知れないと、そんな恐怖を覚えてしまえば。
それでもまだ追い縋れる余地があるのだと、そんな隙を見せられてしまえば。
何に代えたとしても、それをみすみす逃すなんてできようがなかった。
――それが自分の為であるのか、それとも弟の為であるのかは、未だ判断がつかなかったけれど。]
(157) g_r_shinosaki 2014/07/10(Thu) 03時半頃