[そうした女の恐慌じみた日々も、すとんと終わった。
>>135>>136食われなかったからではないかと。
幾度、幾十、幾百目に泣きついた頃合いか、なぜこの子がこんな目に、と自己憐憫にすぎる嘆きの相槌に、つきものの落ちたように、女は「そうですか」と口にした。そうですか。さようですか。さいなら、仕方ないですね。食われねば、仕方ないですね。村の道理をよくわかった女だった。
そして女は次の「儀式」に身を投じ、玩具の人間のようになった子供の手を引くことはなくなった。
子供はその、痩せた、右手の平をもらった。筋ばかりのそこを抱え、儀式の前に、懇々と言い聞かされた女の言葉を思い返しながら、縦筋のいくつも入った爪に歯を立てた。その右手は親切な隣人の手により、鍋物の具になり、小指の先ほどの大きさになって胃の腑に落ちた]
(153) 2017/11/22(Wed) 21時半頃