[突如話を振られて男は瞬く。店長と客の顔を交互に見て、男にしては珍しく眉を大きく寄せる。
もっとも目つきの悪さと相まって、睨むような表情になるのだが]
ええと、ですね。
痛みもなくばっと死ねるなら、それはそれで――……
[店長をちらりと伺ってか、それとも客を見てか。不味いことをいったらしいのは理解した男は、慌てたように口を噤んで酒に手を伸ばした。]
……、そう、消えたのは手品だったんですよ。こんな、ね?
[手首を返して赤いバラを取り出す。左右に2、3度振れば赤い炎が花びらを包むよう燃え上がり――
それを男はあんぐり開けた口に突っ込んだ。食べてしまえば花は最初から無かったかのように消える。手品披露の時だけは、口元は笑んで眼差しは柔らかくも真剣味を増す。]
ね?
[多少心配気な面持ちで客を伺うよう、もう一度言葉を繰り返した。]
(131) 2011/10/19(Wed) 14時頃