[ぱくぱくと何か言おうとしている、淡い色の唇に片耳を寄せた。アップルパイと違う微かないい匂いがふわりと鼻をくすぐり、ちょっとどきっとする。]
あそこ?
ああ、有馬さんっすか。
あれからもたまに夜、ふらっとご来店されるんすよ。
……気になります?
[好みなんすか、なんてちょっと茶化すようにこそこそ話を。
まあそういう色っぽい頼みごとも、珍しくはないのである。しかも、今はほんとの内緒話のボリュームなのだ。でも口調からするとどうやら違うらしい。]
ふふ、なんだ。
ええ、いいっすよ。それくらいお安い御用っす。
断られる心配はない気がしますけど。
[少なくとも、美人からの贈り物を断るようには見えないし。万が一のときは、箱に入れてお土産にしてもいい。]
一期一会、ですもんね。
ご縁は大切にしたいもんです。
[社会人になると、新しい出会いと言うのは少なくなる。この店が、自分のデザートが、そのきっかけになれるなら喜んで頼まれよう。]
(119) 2019/11/26(Tue) 19時頃