……そんでね、私の所にも来はったんよ、"鼠小僧"。
大切なもの、盗んでいきよったんですって。
――悪戯か本物かは解らへんけれど。
[薬師の事だから、その手紙に興味など持ちはしなかったかもしれない。万一興味を持ったとしたなら、見せる事に抵抗などはしなかっただろう。
悪戯だとは思うのだけれど、この国に来て日の浅い自分に態々そんな事をする心当たりなどある筈もなく。
少し話した相手と言えば、目の前の薬師か、昨日の瞽女かその時の女か――誰も、こんな悪戯をして来るとは思えない。
細い指でそっと自らの髪を梳き、ほうとひとつ溜息を。
何時も髪に隠れた小さな小さな耳飾りが無くなっている事になど、一向に気付かないままに。]
……何や、気持ち悪くって。
先生は私よりもこの、国長いんでしょう?
今迄も出はったこと、ありますのん?
[勘定場へと手を置いて、少し不安の滲んだ瞳を向けて。
ふとした疑問を投げてみたのなら、薬師から返答を貰う事は出来ただろうか。]
(101) 2015/01/21(Wed) 18時頃