うん?…そだね。普通って、なんだろ。
[笑った本田が眩しくて、思わず視線を床に落とす。
人と話すのに、目を合わせていられない事なんて今まで殆ど無い。
康太はいつも、相手が躊躇う程にその双眸をじっと見詰める。それは他人と触れ合えない彼が、触覚の情報を補うために自然と覚えた事でもあったのだが。
本田を見詰めていると、どうにも思考が霞んでしまってままならない。心臓がぎゅうと締まって、指先まで熱が灯ったよう。
彼女が悪夢を見た日にこの部屋の扉の前で、自分を突き動かしたような衝動が、ふいに込み上げてくる。
それは、生来の自分には有り得なかったもので。
そんな変化に戸惑いながらも、取り留めのない彼女との会話が、ただ嬉しくて。]
ガッコ行って、講義受けて、サボって遊びに行ったり、課題に追われてんのにバイト入れまくって、コンパ行ったり飲み会で馬鹿やって朝まで騒いだり。
…そういうのが、「普通」なのかなあ。
だとしたら、ごめん、嘘吐いた。
やっぱり俺はちょっと変わってんのかも。
[だからだろうか。
努めて意識しないように過ごしてきた、身近に溢れる「当たり前の事」への羨望が、落ちた言葉に確かに滲んだのは。]
(99) 2014/03/25(Tue) 00時頃