−回想:夜の森の中で>>83>>86−
……恐ろしいものに出会った時に、つい饒舌になるのは、私の悪い癖ですから。
[小さく自嘲的に笑う。
だが、身体を押さえ付けられ、さらに腹から下をまさぐられ、さすがに言葉を失ってしまった。言葉を出す代わりに、腰をびくりと動かし、背をのけ反らせた。]
あ……月……
[いよいよ殺されるかもしれない。しかし叫び声は出ない。宵闇に浮かぶ月が、遠くをゆくランタンの火が、全てぼんやりと滲んで見える。意識がぼうっとしてゆく中で、「かれ」の問いが聞こえた。>>86]
それ……は……言えなかったから、ではいけませんか?
あまりに月が美しくて、そして……それに照らされた貴方の「正体」を知りたかったから……
貴方は獣でありながら、ただの森の獣ではない……そして己を「制御」する様子は見えるのに、貴方を制御するのは、私のような類の人間の「理性」ではない……
貴方を形容する「言葉」が見つからない。
だから……それが見つかるまでは……
(91) 2010/08/02(Mon) 21時頃