――さァ、どうだか。
生憎、男の言葉は信じないクチでねェ。
[男との会話は傾城町でしか経験の無い女にとって其れは未知の世界。色を帯びた紛い物の言葉しか知らないものだから、男にどんな事を言えばいいのか分からずにそのまま紫煙をゆっくりと吸い込んだ。
そうしている内に男は懐から何やら紙を取り出したと思えば、其れは文のようで。目を細めてその内容を確認してみると、一言一句違わない鼠小僧からの手紙。
『あァ、なるほど』と呟いて、なにやら納得した表情。遊郭で上臈を見定める男のような顔をしていたのはこのせいか、と。]
あァ、これなら話が早いさねェ、
そうと決まりゃァ、善は急げってやつさァ、
[そう言うなり男の方へ手を差し出して『ご案内するよ』とひとこと。
上臈の頃の癖が抜けずにそうしてみたものの、其れは女にとって当たり前のことであり常識。寧ろそうしないのは無礼だと思っているくらいだったのだが、男の目にはどう見えただろうか。
相手の反応がどうであれ、壱区の入口近くの酒屋の方へと男を案内し席に着くなり好みの酒を店主に頼むだろう。**]
(85) 2015/01/21(Wed) 04時頃