……きってあげないと、
何処かに引っかけて割れてしまっては、タイヘン。
[一本だけ、試しに丁寧にきってあげることにした。
この爪は通常の人間のそれよりも、硬いのかもしれない。鋼すら貫くのかもしれない。この爪の切れ味をヤニクはまだしらない――けれど、この爪切りは特注の品。それはもう――よく切れるのだ。パチン……パチン……。小さな音が耳を擽っている。
しかしギター音。ヤニクは物足りなさげに目を伏せる。分かっている――分かっていた。
―――人の家なのである――。]
――では、今日はここマデ。
[最後に名残惜しげにヒューの耳を柔く揉むようにして撫でて手を離す。
滝が幻と消え、天女の羽衣は空へ帰り、女の歌声はフェードアウトし、彩雲は薄れて消えて、蝶は光の粒へと消え、時間を逆戻しされたかのように優曇華の花は蕾へと変わり畳の目に縮んで消えていった。
辺りに通常の日本家屋が戻ってくる。元通りの座敷守家の風景である。何事もない。]
(70) 2018/03/30(Fri) 22時半頃