[フィリップが小犬に近付き、手を伸ばす。
白は抵抗することなく、彼に撫でられることだろう。
その様子を何処か寂しそうにエルゴットは見つめる。]
( …手放さなければいけないのに。
時間はもう、待ってはくれないのに。
結局私は、自分のことしか考えていないから―――。)
[手放したくないと思う自分にエルゴットはそっと目を瞑る。
今まで、この子の新しい飼い主を探して来なかったのも結局は、この子に自分のことを忘れられるのが怖いからだった。
エルゴットは幼少時からずっと厳しく育てられ、愛情というものを知らない。
年に数回しか会うことのない両親は、彼女が生まれて一度も微笑みかけたりすることはなく。
分刻みのスケジュールと、もっともっとと求められることはエルゴットに劣等感ばかりを植え付けた。
そんな彼女にとって、純粋に真っ直ぐに自分を慕ってくれるこの子の存在は何にも変えられない程に温かかったのだ。]
(61) 2014/03/03(Mon) 21時頃