……もうひとつ、必要でしょうか。
[立ち上がって猫を静かに床に下ろし、今度は大き目のカップと白い陶器でコーティングされた小鍋を持って戻る。
小鍋を暖炉に掛けて、注いだミルクをじっくりと温める間。ひとつ増やした椅子に腰掛け、カップの中に焦げ茶色の粉末を落とす。
ひとつ、ふたつ。トリニタリオ種の高い香り。みっつ。気持ち多めの砂糖を足して、少しのミルクを加えて。よっつ。あの子はこのくらいの甘さが好き。
どこか遠くの国の、忘れられた歌を唄うような調子で数えながら、銀色のスプーンを回す。丁寧に練られた甘くて苦いペーストが、温かくて素敵な飲み物に仕上がる頃にはおそらく帰ってくるだろう。
チャールズの勘でしかないその予想は、多分外れる事はほとんどない。なにせ、外は雪が降りはじめて、寒いのだ。
扉の向こうに馴染みの気配が近付けば、立ち上がって迎えるだろう]
(58) 2013/11/17(Sun) 00時頃