[男が動かなくなるまで、きつく抱き締めていた。
それまでにもう三度、彼の血管を裂く必要があったけれど。
俺のジャケットの背中は、男の爪に引き裂かれてしまった。跳ねる身体の衝撃が、食い込む爪の感触が、心地よい。
男が完全に動かなくなってしまうと、身体に穴が空いてしまったような喪失感に襲われたが、それはすぐに、わずかな恍惚に変わった。
それから、何をすればいいか。どうすればいいか。身体が覚えていた。
一つも手順を迷うことなく、「作業」は進む。
先刻とは違って、その作業の間だけ、ほんの少し高揚を覚えた。熱にうかされたような、夢をみているような、そんな感覚。
ふと、「観客」の存在を思い出して、笑みを浮かべながら鑑賞する青年を見上げた。]
なあ…人間てさ、綺麗だよな。
お前もそう、思わないか。
[俺は多分、笑っていたと、思う。]
(43) 2012/02/11(Sat) 21時半頃