「あ〜、ホンマ清々しますわ!」
[今度はその反対側からとても大きい声が聞こえて、毛玉のごまつぶのような目はそちらに向く。]
「キナ臭いお人や思てましたけど、異邦人やったなんて…でもこれで街の中に仏壇みたいな匂いせんようになって快適になりはるわ」
[キンキンと囀る声の主は、美の研究家を名乗るタイムだ。
何かとイナリに突っかかる節がある事で有名であり、イナリの美貌(と人望)に嫉妬している、と誰かが噂話をしているのを毛玉は聞いたことがある。]
「さ、飲みましょ飲みましょ!今日はええ日やからね!」
[タイムは周りにそう煽り、手にした飲み物を一気に飲み干す。
そしてテーブルにグラスを置くと同時に俯いたまま、ぷはー、と大きな息を吐いた。
その時、足元の方に居た毛玉には聞こえた。
とても小さなか細い声で「…ホンマ、清々するわ…」とタイムは言った。
それはトゲトゲした言葉ではなく、何処か寂しそうだと毛玉は思った。]
(33) 2019/10/13(Sun) 21時頃