[赤龍が一頭、その巨躯を空にゆったりと泳がせるようにして、空中を駆ける。
広げられた翼は、小さな村であれば丸ごと覆ってしまいそうなほど広く、大地に影を作って流れた。
ばさり…
翼のはためく音が、山間に木霊する。
赤龍は、その金色の瞳をぐるりと回すと、眼下に広がる山脈の、そのてっぺんを覆う白いモノを眺めやった。]
…そろそろ、時期か。
[そう、独りごちると山脈を越えてゆく。
龍の体内では古の炎が燃えているから、多少の寒さでは動じない。
しかし、彼の体内の炎も、近頃少しずつ小さくなっているのもまた確かであった。
…眠りの時が近いのだろう。
前回眠ったのは、つい昨日のことのように思えるのだが。
数千年の時を生きる龍にとってみれば、十年など一息に等しいのかもしれなかった。
龍はぐっと高度を上げ、雲の間を駆け抜ける。
舞い散る氷の粒が、鱗に触れる前に蒸発して消えてゆく。
ほんの少し冷たさを覚えて、龍は再び高度を下げた。]
(31) 2013/11/16(Sat) 07時頃