[シーシャが立ち去れば、ミシンケースの傍で暫く目を伏せる。
幼い頃、薄暗い部屋で、留守番をしていた。
誰も、誰も暫く帰って来なくて、心細かった。
そこに突然、インターホンが連打される音がして。
誰か悪い人間が来たのか、と酷く怯えて、
思わずミシンケースの陰に隠れた。
暫くして鍵が開いて、人が入ってきた、
それを見て、困惑すると同時に、何故だか安心した。
誰が入って来たかはすっぽ抜けている。
そんな、パン屑みたいな記憶の断片に、シーシャの痩せた身体を捩じ込む。
ほら、もうあの時に入って来たのは彼の姿だ。残った記憶と、繋げて。]
でも、あの人も患者には…違い無い、よな。
[忘れずにはいられない、不安定さの中。
人の服に断り無しに名を書く。その行為のインパクト、普通であれば忘れ難い物だろうに。己を嗤う様に、泣き出す寸前の様に顔を顰めてシャツを捲ってみる。
彼の書いたRとIの間の辺りに新たな、薄い朱色の花が咲いていた。**]
(28) 2014/09/02(Tue) 14時半頃