[苛立ち混じりの一言には、視線をやる事しか出来ず。けれど涙で揺らいだ瞳でも、彼が笑みを作っている事は分かったから、酷く落胆した様な気分になる。
震える手を、持ち上げられた口端に持っていって。振り払われないのであれば、いつだかの様にその形をそっとなぞった。
その時ふと心に浮かんだのは、憎悪でも嫌悪でもなく――淡い憐憫の情で。こんな時まで笑顔を繕わなければいられない相手に、ほんの少し、目を細める]
あ、あ……。嬉しい、よ。
[存外難しくはなかったがな、と。そんな言葉を吐息の合間に零す。半ば無意識だったというのに、妙に皮肉っぽくなってしまう自分に小さく苦笑する。
――ああもう、本当に。ここまできたらいい加減、救いようが無いじゃないか。素直にただ怯えていれば、彼の怒りも幾らかは収まったのかもしれないのに。
とはいえ、そんな器用な真似が出来ない事、誰より自分が知っているけれど。
顎にかかった手が持ち上げられれば、堪らず体を引き攣らせた。
対格差のせいで足が浮き、踏ん張る事が出来ないから、自然と傷口に体重がかかってしまって。そうされるだけで随分と痛みを伴ったのだ]
(25) 製菓 2014/07/07(Mon) 10時頃