― 来館遊里 ―
[その日の男は珍しい風体であった。
いつも夜更けにしか訪れぬ癖、今日は黄昏に近い宵に訪れた。
いつも横着げにシャツを引っ掛けている癖、今日は漆黒に染まるスーツを着こなす。腕に下げたロングコートは秋の深まりを示し、緩めすぎたネクタイと第三釦まで開けた喉元を除けば、常と180度は違う印象。
相変わらず派手な悪人面と耳に穿った飾りは変わらぬが、花主の揶揄を誘うには十分だったらしい。>>4>>5]
俺の一存で刈れるほど可愛い気のある櫻じゃあるめぇ。
それとも根こそぎ倒すかね、そいつぁ庭が寂しくならぁな。
[はは、と気のない笑い声で花主の傍を通り抜け。
程なく歩けば、己は中庭で土を弄る後頭部を見つけた。>>9
回廊の窓から覗く彼の姿は、同じ視座に合って内と外とで別たれている。>>10]
そいつをお前さんが謳うには、10年ほど早くねぇかね。
[窓枠に五指を掛け、身を僅かに乗り出しつつ。
今宵も迫る夜と共に、彼に茶化して語りかけた。]
(13) 2014/09/21(Sun) 15時頃