[少し赤くなった手の甲を隠すでもなく、そのままサイラスは今度こそ一等車両の方へと向かう。先ほどよりも足を速め、そのせいか時折壁に肩をぶつけながら。
やがてたどり着いたのは、ラウンジ車。
その用途が思い浮かばぬまま、扉を閉め、壁に背凭れ息をつく。
止まる列車。出入りする多くの人の気配。
そしてポケットの中には、相変わらずにくしゃくしゃの一等車両の切符が一枚。
足元に屈んだ清掃員を一瞥し、サイラスは自分の中にある願いと向き合うことにした。この列車に乗ることにした、その目的とも言う。漠然としたそれは、一人の時でもけして口にしたことはない。
何故ならそれを、鼻で笑う己も確かに存在するからだ。
曰く、「違う自分に生まれ変わるため」
あまりにも漠然としたそれは、具体的な案は何もない。
何も――――ポケットには、一枚の切符。
それがもしかしたら、もしかしたら………**]
(11) 2015/11/30(Mon) 00時半頃